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表と裏

最後のほうにちょこっと残酷描写があります。

 少女の名前は、レイディア・ビシャールゼルといい、ここビシャルゼの領主様の娘さんらしい。

 獣人の少年はグレイ・ルフイエといい、やはりレイディアさんの従者だそうだ。

 レイディアさんは一人娘で、将来お婿さんを貰ってビシャルゼを治めるべく日々様々な事を学んでいたそうだが、つい先日、領主様であるお父さんが事故で亡くなってしまい、それにショックを受けたお母さんは倒れてしまって、別宅で静養中らしい。

 そこで、まだ未成年なれど領主の娘たるレイディアさんが国王陛下に嘆願して、領主代理を務める許しをなんとか得たらしいのだが、とある貴族が補佐という名目で教育係につく事になったらしい。

 しかしその人物は亡くなったお父さんとは敵対していた人物らしく、このままではレイディアさんのお父さんが行っていた領地運営の仕方はことごとく無視され、ビシャルゼが様変わりしてしまう危険性があるのだという。

 そこで、そうなる前にお父さんと親しかった貴族の子息とレイディアさんの間にあった仮の婚約を正式なものとするべく動き、それをもって補佐を既に成人しているその方に変えたい、けれど補佐となるその貴族に知られたら邪魔をされかねない、故にその貴族の目を誤魔化すべく、自分にそっくりな私に目眩ましの協力を頼みたいと言ってきたのだった。

 要は、私がレイディアさんの身代わりになってその貴族の相手をし、その間にレイディアさんは仮の婚約者との話を進めたいという事だった。

 私は、ふたつ返事でこの話を承諾した。

 住む場所は確保できるし、その貴族が教育係という名目でくるならこの世界についての勉強もできるだろうから、一石二鳥だし。

 そうして連れて行かれた領主館で、私は与えられた部屋に籠り、レイディアさんの口調や癖などを覚えて真似る努力をする傍ら、この世界の文字を徹底的に頭に叩き込む日々を送った。

 最低限文字くらい読み書きができないと、一発で偽者とバレかねない。

 勉強には、レイディアさんも付き合ってくれた。

 私が書き間違えた時には優しく指摘し、穏やかに微笑みながら丁寧に教えてくれるレイディアさんは、とてもいい人だと思う。

 初めに出会ったのが、この人で良かった。


☆  ★  ☆  ★  ☆


 早いもので、私がこの領主館にお世話になる事になってから数日が経ち、明日はいよいよ、補佐兼教育係となる貴族が来る日となった。

 私がレイディアさんの身代わりとなってその貴族の相手をする、その事に緊張しているのか、今夜はベッドに入ってもなかなか寝つけなかった。

 私は短く息を吐くと体を起こし、ちょっと散歩をして来ようかな、とベッドを出て、カーディガンを羽織り部屋を出た。

 そのまま外へ出て、庭を歩く。

 庭師さんの手で綺麗に整えられたその庭は、様々な花が咲き乱れていて、心を和ませてくれる。

 花を眺めながらゆっくり歩いていると、いつの間にか大分奥のほうまで来てしまっていた。

 そろそろ戻らなくちゃ。

 そう思って踵を返し、けれど来た道とは別のルートを通って部屋に帰ろうと歩を進める。

 すると。


「………………わよ」

「…………様……!!」

「んっ?」


 何処からか、誰かの話し声が聞こえてきた。

 こんな時間に、私以外にも庭に出てる人がいるのだろうか?

 ハッ、もしや、ここで働く使用人さんの、仕事後の密かな逢瀬とかだったり……!?

 うわぁ、誰だろう!?

 そんな好奇心が湧いた私は、そ~っと足音をたてずに忍び足で声のするほうへと向かった。

 しばらく歩くと、やがて暗闇に四人の姿があるのが見えてくる。

 ……あれ、四人も?

 てことは、グループ交際ですか!?

 もはや恋人達の逢瀬だと信じて疑わない私は、腰を屈めて茂みに隠れながら近づく。

 そしてすぐ側まで来ると、その場に膝をつき、息を殺して覗き込んだ。

 四人のうち二人は体を寄せ合い、残りの二人と向かい合っている。

 ふむふむ、あの二人とその二人がそれぞれ恋人同士なんだね!

 体を寄せ合ってるなんてラブラブだなぁ~、もう一組も負けじとくっつけばいいのに!

 そんな事を思いながらニヤニヤと笑って見つめていると、ふいに、体を寄せ合ってる二人が離れ、地面にへたり込んだ。


「…………ださい! どうか、どうかお許しを!!」

「も、もう会いません! この場で別れますから、どうか! お嬢様!!」


 ……へ、『お嬢様』?

 『お許しを』って……え?

 次に聞こえてきた言葉に首を傾げ、なんだか様子のおかしいそれに怪訝な視線を向ける。


「駄目よ、もう遅いわ。この私がお気に入りの一人に加えてあげていたにも関わらず、裏でそんな女に入れ揚げていたなんて……その罪、万死に値するわ。グレイ、やって頂戴」

「はい」

「お、お嬢様!!」

「お許しを!! どうかお許しを!!」


 レイディアさんの、いつもと違う冷たい声が聞こえ、グレイさんが短く返事をして、向かいにいる二人に近づく。

 それと同時に、その二人が悲壮な、切羽詰まったような声でレイディアさんに懇願した。

 けれどレイディアさんは何も答えず、グレイさんは静かに腰に差した剣を静かに抜いて……。


「……っ!?」


 まさか、と思いながら、震える手を口元に持っていき、声を出さないよう強く押さえる。

 そして、次の瞬間。

 グレイさんの剣が容赦なく振りおろされると、その場に断末魔が響く。

 続いて、どさりという音が聞こえて、辺りは静まり返った。


「終わったわね。グレイ、片づけておいて頂戴」

「はい」


 沈黙を破って声を発したレイディアさんは、まるで使い終わった道具の片づけを頼むようにさらっとそう言うと立ち去って行った。

 その姿を見送ったグレイさんは、動かなくなったそれをズルズルと引き摺り、どこかへと運んで行く。

 私は、今見た事の恐ろしさにガタガタと震え、しばらくの間、そこから動けなかった。

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