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そうして異世界へ送り出されました

明けましておめでとうございます!

今年もお楽しみ戴けますように!

 お父さんへの伝言を携え、飛び去って行った男性の後ろ姿を見つめていると、ふいに目の前をふっと影が過った。

 二度ほど目を瞬いてからそれを追い、影の正体を視界に捉える。


「……何を、しているんですか?」


 影の正体は、残ったもう一人の男性だった。

 彼は私の周りをぐるぐると飛び回り、上から下までじろじろと私を見続ける。

 この人は一体何を始めたのかと思うと同時に口から出た言葉は、どこか冷たい響きを帯びていた。


「うん? 君の体を観察しているんだよ? 新しい肉体は元になるものに限りなく似せたほうが、魂の馴染みも早いからね。……ん、よし、っと」


 男性はそんな私の言葉の響きを気にする様子もなくさらっと答えると、納得したようにひとつ頷いて飛ぶのを止め、再び地面に降り立った。

 そして突然しゃがみこむと、地面に向かって両手を翳す。

 その手が白い光を発すると、地面に同じ色の光が迸り、人の形を作っていった。


「さて、君は容姿、どこを変えたい? さっきも言ったけど、変えられるのは一ヶ所だけだからね」

「え、あっ、はい! え、えっと……」


 男性の背後から、その手の向こうに現れた光を覗き込むように見ていた私は、前触れもなくふいに振り向かれて問われた言葉に驚いてぴくりと小さく体を揺らし、吃りながら急いで考えを巡らせた。

 そ、そうだった、容姿をひとつだけ考えられるって話だった。

 ど、どこにしよう……平均よりも小さな身長?

 ささやか過ぎる程にささやかな胸?

 断じて太ってはいないものの、ぽっちゃりはしている体?

 それ以外にも、コンプレックスと言えなくもないものはたくさんある。

 でも、変えられるのはひとつだけ。

 どれを変えるのが一番ベストな選択だろう……?


「……ああ、そうだ。僕としては、君の髪の色か目の色のどちらかを変える事をお勧めするよ。何しろ、君に授ける能力に割ける力があんまりないからね。ろくに身を守る術を持てない君は、黒髪黒目っていう、あの世界にはまずいない容姿を変えたほうがいいと思うんだ。どちらかが黒いっていうんならまあそれなりにいるんだけどね。あの世界の常識もろくに知らず、かつ身を守る術もない状態じゃ、コロッと騙されて人買いの手に落ちて気づけば奴隷になってる、なんて事もあるかもしれないし。君、なんか騙されやすそうだから」

「…………え?」


 容姿のどこを変えるべきかを、顎に手を当て、自分の体を見ながら真剣に考え込んでいた私は、ふいに耳に入った男性の言葉に顔を上げ、男性を見つめた。

 ……い、今、何て言った?

 ひ、人買い?

 奴隷?

 え、待って、これから行くのって、そういうのがある世界なの?


「……あ、あの~。ちなみにその世界って、どういう世界なんですか……? ひ、人買いとか奴隷って、本当に?」

「うん? ……ああ、いけないいけない、説明してなかったね。あの世界は、君達で言うところの、ファンタジー世界だよ。人買いに奴隷もいれば、冒険者や魔法使いもいて、魔族や魔物が存在する場所」

「………………。…………そう、ですか」

「うん、そう。それで、容姿はどこを変えるの?」

「…………目の色で。……ごくごく一般的な、その色の人が一番多いっていう色にして下さい」

「うん、わかった。目ね。じゃあ、ご希望通り一番多い青にしておくよ」

「はい。ならそれで」


 ……目立つ容姿は厳禁!

 コンプレックスな体万歳、埋もれる外見が一番!

 少しでも可愛くなって波乱万丈な人生より、平凡な容姿でも穏やかで平和な人生を私は歩きたい!!

 うん、それが一番!!


「よし、できた。じゃあ入って」

「へっ? ……きゃあっ!?」


 認識を改めてうんうんと頷いて私は、またも突然振り向かれてかけられた言葉に驚いた。

 そして次の瞬間、男性にぐいっと強引に引っ張られ、なんと突き飛ばされたのだった。


「な、何をするんですかいきなり! ……って、あれ? あれ?」


 地面に倒れた私は抗議の言葉と共に起き上がろうとしたが、何故か起き上がれなかった。

 体が、動かない。


「ああ、駄目だよ、じっとして。その体に馴染むまで数分かかるから」

「え?」


 男性に声をかけられ、視線だけをそちらに向ければ、私は座っている男性に上から見下ろされていた。

 あ、あれ?

 この位置って、この男性が作ってた体がある場所じゃあ……?

 あ、そういえば突き飛ばされる前に、確かこの人、『できた、入って』って言ってたような?

 えっと、つまり……私はあの体に入った、って事?


「さて、それじゃ馴染むまでの間に、君に能力を授けちゃうね。……う~ん、何がいいかな~……。弱い能力を二、三個授けるか、即役に立つ能力をひとつ授けるか……。……うぅん、そもそも君って、ステータス値どうなってるの? ステータス!」


 男性がそう言うと、私の真上に長方形の透明な板が現れた。

 何か文字が書いてあるようだけど、その板は垂直に浮かんでいて、私には見えない。


「ふむふむ、なるほどね。まあレベル1の数値ならギリギリ平均値ってところかな。君、光魔法と水魔法に特性があるみたいだよ。これなら……うん、とびっきり役に立つ能力をひとつ授けておくね。それでなんとか生きられる筈だよ。……騙されて馬鹿な選択さえしなければ、ね」

「うっ……えと、ありがとうございます。肝に命じておきます。それで、私のそのステータスってどうなってるんですか? 光魔法と水魔法ってどういう魔法が使えるんです? 授けて貰える能力って何ですか?」

「ステータスを見ればわかるよ。見方は、今見た通りね。魔法は特性があるだけで、使い方を教わらないと使えないから、誰かに教わるといいよ。僕が出来るのはここまで。じゃああの世界に送るから、頑張ってね。君のレヴィ、見つかる事を祈ってるよ」

「えっ!? あ、あの、待って、私まだ動けない……!!」

「大丈夫、すぐに動けるようになるから。……ここから先は、全て君次第だ。気をつけるんだよ。じゃあ、さようなら」

「や、待ってお願い、せめて動けるようになってから……!!」


 男性が最後の挨拶を口にすると、私の体が眩い金色の光に包まれたのが目に入った。

 慌てて懇願するも虚しく、私の視界はそのまま金色の光で埋め尽くされる。

 眩しさに目を閉じ、再び開けると、私の目には大きな木々が飛び込んできた。

 地面についた手のひらには、草の感触。

 どうやら私は、森の中に横たわっているらしい。

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