混乱
「セレヴィンさん、来てくれたんだね、ありがとう! ね、見て! 私、一人でこのファイティングラビット達を倒せたんだ、よっ!?」
急いで来てくれたのだろうセレヴィンさんに、一人でも無事に魔物を倒せた事を知らせるべく、ファイティングラビットを視線と手で示しながらちょっとばかり弾んだ声色でその旨を語っていると、ふと、視界に影が落ちた。
不思議に思って顔をそちらに向けると、次の瞬間、私の目は真っ白い何かを一面に映し、体は硬い感触に包まれる。
頭の上からは、今だに治まらぬ荒々しい息づかいが聞こえてきていて……それらの事から今の状況を理解すると、私の顔は一気に熱をもった。
「えっ、えと、あの、えっと!? セ、セレヴィンさんっ……!?」
「……無事で、良かった……!! 一人で魔物退治の依頼を受けて出ていったとギルドで聞かされた時は、心臓が止まるかと……!! 行くのが遅くなったのは悪かったが、お願いだから、二度とこんな危ない真似はしないでくれツキハ! もし君に何かあったら、俺は生きていけない……!!」
「……え…………えええぇっっ!?」
な、何それ、どういうこと!?
一体何がどうなってセレヴィンさんからそんな台詞が出てきたの!?
えっと、えっと……!?
……………………あっ、そ、そっか!
セレヴィンさんにとっては、私=レイディアさんだもんね!
レイディアさんがもし怪我したら、側にいるセレヴィンさんやシグルトさんの責任問題になってロライアン様に叱責されるだろうから、そりゃ取り乱すよね!
勿論セレヴィンさん自身も負い目感じたり悔やんだりするだろうし、うん!
……それでもちょっと、大袈裟な気はするけど。
「えっと、セレヴィンさん、落ち着いて? 心配かけちゃったみたいで、ごめん。でも大丈夫だよ。私どこにも怪我してないから。無事だから」
「……それでも、それは"今回は"がつく事態だ。ツキハ、一人では二度と討伐依頼は受けないと約束してくれ。お願いだ」
「……ん、わかった。セレヴィンさんとパーティーを組んでるうちは、絶対に一人では行かないって約束するよ」
「……俺と、組んでるうちは? ……ツキハ? その言い方……いつか、俺とのパーティーを解消するつもりなのか?」
「……うん。だって、ずっと組んでは、いられないでしょう?」
「どうして!? 俺は……!!」
「セレヴィンさんは、そのうちロライアン様の私への教育が終わって、私が領主として一人立ちできれば、ロライアン様と一緒にロライアン様の領地へと帰るでしょう?」
「!」
「でも、私は……それはできない、から。だから……」
「帰らない」
「……え?」
「ロライアン様がこの地を離れる時、俺はあの方の従者を辞す。俺は君と一緒にいるよ、ツキハ」
「!? そんな……どうして、そこまでして」
「俺は君が好きだ。ツキハ。愛している。だから、側にいるよ。いさせてくれ」
「っ!?」
え、え、えええぇ!?
セ、セレヴィンさんが、私を好き!?
嘘、どうしよう……私、告白なんてされたの初めてだよ!!
…………ん?
"私"?
え、待って……セレヴィンさんにとっては、私=レイディアさん、だよね?
てことは……セレヴィンさんは、私じゃなくて、レイディアさんが好き、って事に……。
え、レイディアさん、婚約者がいるよ!?
あっ、でもセレヴィンさんが言ってるのは、"側にいたい"ってだけだから……婚約者いてもいいから、ただ側に、一緒にいたいって、つまりそういう事!?
えええぇ……セレヴィンさん、そんなにレイディアさんが好きなんだ…………。
……でも、それって、セレヴィンさん、辛くならないのかな……?
「セレヴィンさんは……それでいいの? "私"には、婚約者がいるんだよ……?」
「!? …………婚約者?」
「知ってるでしょう? "私"はいつか、その人と結婚するんだよ? なのに、本当にそれでいいの?」
「…………。……ツキハ? ……君が言ってるのは、もしかして、レイディア・ビシャールゼル嬢の事か?」
「え?」
「……ツキハ。俺が好きなのは、ツキハ・ホシカワだ。レイディア・ビシャールゼル嬢じゃあない」
「!? ……え、え、何で………!? 別人って知ってたの!? どうして!? えっ、じゃあもしかして、ロライアン様達にもバレてる……!?」
「ああ、いや。ロライアン様やシグルトは知らないよ。俺が知ってるのは…………昔、君に会っているからだ」
「え?」
「……レヴィと呼ばれて過ごした数日間は、俺の宝物だよ。ツキハ。おじいさんやおばあさんは、今も元気か? あのお二人にも、随分世話になった」
「!? え、え、え…………えええええええええええええええぇっ!?」
セ、セレヴィンさんが、セレヴィンさんが!!
セレヴィンさんが、レヴィ~~~~~~ッ!?




