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経緯と選択

更新二回目です。

 早いもので五年が経ち、私は十五歳になった。

 あれから今までに起こった出来事で一番の事件は、お父さんの再婚だろうか。

 仕事のできる男はモテるらしく、特にイケメンでもない平凡顔のお父さんが、なんと美人な再婚相手をゲットし、去年再婚したのだ。

 おかげで我が家には、新しいお母さんと、生まれたての男の子、私の弟が増えた。

 そう、血の繋がった本当の弟ができたのだ。

 でもそれによって、あの不思議な男の子の事を思い出す事が増えた。

 あの子は、元気にしているだろうか。

 喋れるようになったかな、笑えるようになっているのかな。

 幸せに、なっているかな。

 弟と遊びながら、ふとそんな事が頭を過り感傷に浸る日々を送る。

 けれど、十五歳というその年は、いつまでもそんな感傷に浸る事さえそうは許されない事態を連れてきた。

 そう、受験である。

 行きたいと思える高校を探し、その中から私の頭脳で行ける高校を絞り、志望校を決定して合格を目標に勉強に励む日々が始まったのだ。

 そんな中、勉強漬けの日々の息抜きに、私は友達と共に志望校の文化祭へと赴いた。

 友達とはしゃいで回る楽しいその時間に、勉強で溜まったストレスも解消されていく。

 しかし。

 そんなひとときもそろそろ終わりを告げるという夕方、お父さんの再婚をも上回る事件が起こった。

 文化祭で盛り上がるその高校に、刃物を持った男が乱入したのだ。

 突如響き渡った悲鳴に、我先にと逃げ出す人々の波が押し寄せ、今だ事態を知らなかった私は何事かとオロオロしながら波に呑まれ揉みくちゃにされて、転んでしまった。

 延々と続くその波に起き上がる事もままならず、体を縮めてやり過ごす。

 そしてようやく波が去り、ホッと息を吐きながら立ち上がった私の目に映ったのは、鬼のような形相をした男と、振り上げられた刃物の煌めきだった。


☆  ★  ☆  ★  ☆


「というのが、ここに来る直前に君に起きた事なんだけど、思い出したかい?」

「……は、い」

「そうか。なら、これで話が始められるな」


 目を覚ますと見知らぬ場所にいて混乱していた私の前に現れた二人の男性は、警戒の色を隠さない私にこれまでの経緯を説明し出した。

 スクリーンも何もない場所に映し出した、不思議な映像つきで。

 それによって全てを思い出した私は、男性の問いに小さく頷いた。


「わ、私……死んだんですか? ここは、所謂あの世と呼ばれる場所なの……?」


 血の気が引いているだろう顔を上げ、私は弱々しい声で男性達にそう問いかけた。

 すると、男性達はしっかりと頷く。


「ああ、そうだ。君は死んだ」

「世界で起こる事態には、僕達も安易に介入する事は許されないからね。ごめんね。……でも、ここでなら、ある程度は干渉する事ができるんだ。普段はしないけど、君には特別に干渉してあげる」

「えっ……?」


 頷いた後、真顔で事実だけを短く告げた男性の後に、穏やかな笑みを湛えたもう一人の男性は、そう言って私に右手を差し出した。


「僕が祀られている神殿で、数年前からほぼ毎日、君の幸せを祈る子がいてね。おかげで僕の力が増えたんだ。そのお返しに、力の一部を君に使ってあげる。僕の手を取れば、僕の守護する世界へ君を送ってあげるよ。今のそのままの年齢で、世界に適応する肉体を新たに与えてね。あ、一ヶ所だけなら、容姿を今と変えてあげる事は可能だよ」

「えっ? ま、祀られている神殿? 私の幸せを、祈る子? 守護する世界? に、肉体を新たに?」


 次いでその男性から発せられた言葉は、私の理解が及ばない単語が多く混じっていて、私は戸惑いながらそれを口にする事しかできない。

 そんな私の様子を見て、男性はどこか困ったように薄く笑った。


「ああ、無理に全部理解しようとしなくていいよ。要するに、これまで生きてきた世界とは別の異世界に行って生き直す? って誘ってるわけ。昔、一時期君が共に過ごした男の子、いたでしょ? あの子はその世界の子でね。ちょっとした事故で君の家に落ちたんだよ。すぐに戻されたけど。その子……君は確か、レヴィって名付けたっけ? その子がずっと君の身を案じて、僕に祈ってたんだよ」

「! レヴィ!? レヴィに会えるの!?」

「え? ああ、いや、そういうわけじゃないよ。まあ、その世界の何処かにはいるから、君が探し続ければもしかしたらいつか会えるかもしれないけどさ」

「えっ……。……も、もしかしたら? いつか……?」

「うん。もしかしたら、いつかね」

「………………」

「……いいだろうか」

「え?」


 レヴィの名に反応し、期待に胸を踊らせて尋ねるも、返された曖昧な言葉に私が意気消沈すると、それまで黙ってやり取りを見ていたもう一人の男性が声を上げた。


「その世界に行く事を望まないなら、再び今までの世界、地球上に転生する事も可能だ。最も君、"星川月琶(ほしかわつきは)"はさっきも言った通り死んだから、別人として赤ん坊から生まれ直す事になるが。当然、親も変わる。国も、日本とは限らないな。ただ、望むなら今の、"星川月琶"の記憶を残してやれる。今の家族のその後が気になるなら、いずれこっそり会いに行くのもいいだろう。あくまでも、こっそりだがな。こいつの力の一部を俺が受け取って、君を地球上に送ろう」


 男性はそう言って、私に左手を差し出した。

 私は差し出されたその二つの手をじっと見る。

 ……異世界に行くのなら彼の右手を取る、そして、地球上に帰るのならもう一人の彼の左手を取る、という事なのだろうか。

 今この場で、どちらかを選べ、と、そういう事……なんだ。


「あ、待って。勿論、どちらの手も取らないって選択肢もあるよ?」

「その場合は、こいつの力で君を天国に送ろう。次に転生する時期が自然に訪れるまで、天国でゆっくり過ごすといい」

「えっ……」


 異世界か、地球か、天国か。

 選択肢が増えてしまった。

 ええと……異世界に行くなら、一ヶ所だけ容姿を変えられて、年齢はそのまま、そして、いつかレヴィに会える可能性がある。

 地球に戻るなら、違う両親の元に赤ちゃんから生まれ直して、でも記憶は残せて、いつかお父さん達に、こっそりだけど会いにも行ける。

 どちらも選ばない場合は天国に行って、そこでゆっくり過ごせる……。

 ……………………。

 私はしばらくの間目を閉じて考え込み、やがて決意を固めると、男性達を真っ直ぐに見つめて、口を開いた。


「……あの。……お父さんに、一言、一言だけ、メッセージを送る事は可能ですか?」

「へ? メッセージ?」

「……夢見……夢の中でという形でなら、可能だが?」

「……夢……。わかりました、それでいいです。お願いします」

「わかった。なんと?」

「チャンスを貰ったから、私はもう一人の弟、レヴィに会いに行く。必ず幸せになるから、お父さんは私の実の弟と、お母さんと一緒に、絶対に幸せになって、と」


 お父さん達やレヴィの事が気になったまま、天国でゆっくり過ごすなんて無理だし、違う両親の元に別人になって赤ちゃんから生まれ直すなんて、お父さん達に会いに行けるようになるまでが長すぎてやきもきするだけだから却下だ。

 それなら、今のままの年齢で行ける異世界に行って、レヴィを探したい。

 それが、私の出した結論だった。


「わかった。一言一句違わず、君の父に伝えよう」

「よし。じゃあはい、その分の力を彼に渡すね。……けど、いいのかなぁ。これだとあの世界で生き抜く為に授ける能力に使う力に響くよ~? 安全の為に、日本で言うところのチートな能力をいくつかあげようと思ってたのに」

「えっ!? ………………。……い、いえ、いいです。お父さんには、ちゃんと伝えておきたいから……」

「いい心がけだな。……じゃあ、俺はこれで。達者でな、星川月琶」


 男性の言葉に一瞬揺れるも、取り止める事のなかった私に、もう一人の男性は挨拶らしき言葉を口にすると、その背にあった白い翼を広げて、飛び去って行った。

 ……うん、この人達が口にしてる言葉からとっくにわかってたけど、やっぱりあの羽根、飾りじゃなかったんだね……。

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