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突然の襲撃 3

 十分なお金を渡してお医者さんと冒険者ギルドに要請を出すようセバスさんにお願いした私は、次にロライアン様の従者である二人にも協力を仰ぐべく、裏庭へとやって来た。

 この時間、二人はよくここで手合わせをしている。

 今日もそうだろうと当たりをつけて来たのだけれど、正解だったらしい。


「セレヴィン殿、シグルト殿! お願いしたい事がございます!」

「レイディア嬢? 随分慌てているな」

「願い事って、また急だね? 何かな?」


 私が声を上げながら駆け寄ると、二人は打ち合っていた木刀をおろし、息を整えながら私を振り返った。

 二人の額や首筋にはうっすらと汗が滲んでいる。


「お手合わせ中に申し訳ございません。ですが非常事態な為、どうかご容赦を。このビシャルゼに、賊が押し寄せたそうなのです。つい先程報せが参りました。既に討伐の指示や協力要請等は各所に出したのですが……私は、戦闘に関しては素人です。もし何かあった場合、指示を仰がれてもどうしたら良いのかわかりません。ですから、その役目をお二人にお願い致したいのです。どうか引き受けては戴けないでしょうか?」


 そう、賊。

 セバスさんが伝えに来た街の門番からの伝令によれば、襲撃者は最近この国に現れた盗賊団で、既に門を閉じ、その向こうで軍の一部が交戦中らしい。

 中には魔物の姿もあり、呼び出し使役する能力を持つ者がいるらしいとの事で、急いで増援を送らなくてはならないだろう。


「賊、か。わかった。その役目、引き受けよう」

「放置なんかしたら、ロライアン様に大目玉をくらうからな。任されるよ」

「あ……ありがとうございます! よろしくお願い致しますわ!!」


 頷いて館の中へと歩き出す二人に、私は心から感謝の言葉を告げた。

 これでひと安心だし、もう私がレイディアさんの身代わりとしてやるべき事はとりあえず終わっただろう。

 さて、じゃあ、私は出掛けますか!

 やるべき事が片付いた事に安堵の息を吐くと、私は自室へと移動し、レイディアさんにかけられた魔法を解いて自分自身の姿に戻ると着替えを済ませて、冒険者ギルドへ、あの三人の元へ急いだのだった。


☆  ★  ☆  ★  ☆


 三人とは、冒険者ギルドへ行く途中の道で合流できた。

 既に討伐要請が出され門へと向かうところだったらしく、そのまま私も一緒に門へ向かった。

 そしてそこへ辿り着くと、聞こえてきた剣撃や断末魔の悲鳴に外の修羅場をまざまざと思い知らされる。

 けれど、私はギルドの依頼でもう幾度も魔物退治をし、実戦を経験している身。

 隣り合わせとなる死の恐怖を感じないわけではないけれど、怯え、身を竦める事はない。

 何より、私の側には頼りになる三人(なかま)がいるのだから、今回もきっと大丈夫だ、生きて帰れる。

 そう確信しながら、三人と共に僅かに開かれた門の外へと身を滑らせた。

 そして、その直後、戦いは始まった。


「光よ、防壁となれ!」


 混戦状態となっていた戦場で、私はいつも通り三人の後ろで支援魔法を駆使しながら、離れないよう必死に目を凝らす。

 伝令通り、敵は盗賊団と、呼び出された魔物達だった。

 むしろ盗賊団そのものより、呼び出された魔物の多さに討伐隊は苦戦している。

 倒しても倒しても減らないその数を見るに、どうやら今も敵の背後で術者が呼び出し続けているらしい。


「このままじゃ埒があかないな。そこのお前達! 背後の術者を叩きに行く、ついてきてくれ! お前達なら、この中を突っ切るのに問題ない腕を持っているらしいからな、付き合って貰うぞ!」


 当然ながら、魔物が今も呼び出され続けている事に気づいたのは私だけではないようで、ふいにそんな声が私のすぐ近くから上がり、ユージスさん達に向かってかけられた。

 三人はそれに無言で頷いて、声の人物の後についていく。

 そうなると勿論、私も行かないわけにはいかず、声の人物、セレヴィンさんの後を追う。

 彼は気がつくと既に私の側にいた。

 その姿を見た時、顔を見られてはまずいと瞬時に思った私は、三人の中でも一番離れた場所にいるヨゼットさんの背後へと直ぐ様移動した。

 けれど数秒後、そう、僅か数秒後には、何故かまたセレヴィンさんがすぐ近くに来たのだ。

 側にいるのは得策ではないので、私はそこから一番遠くにいるシャルフさんの背後に移動した。

 なのにまた数秒後には、何故かセレヴィンさんがすぐ近くに来た。

 その為私はまたそこから一番遠くにいるユージスさんの背後に移動したのだが、やっぱり数秒後にはセレヴィンさんが近くに来て……これは、もう既に顔を見られている可能性が高いと判断した私は逃げるのをやめ、帰宅後のいいわけをしっかり考えておく事にしたのだった。

 きっとセレヴィンさんは私をレイディアさんが変装しているのだと思っているだけで、まだ身代わりの事まではバレてはいないだろうから、その事だけは何としてもうまく誤魔化さなければ。

 でもまあ、その事は後だ。

 今は大怪我をする事なく、この戦いを終わらせる事に集中しなければ。


「水よ、枷となりて我が敵の動きを封じたまえ!」


 私は敵の主力へと向かう三人とセレヴィンさんをサポートすべく、支援魔法を唱え続けた。

最後、一番遠くに三人がそれぞれいるのは、戦闘で場所が入れ換わった為なので、誤りではありません。

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