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突然の襲撃 1

 また二ヶ月が経った。

 どうやらロライアン様は二ヶ月に一度自分の領地に帰る事にしているようで、今朝早くにまた馬車に乗って行ってしまった。

 そしてレイディアさんもまた、ロライアン様の留守を狙って婚約者を呼んだらしい。

 その為、私はまたロライアン様が戻るまで、身代わりの役目はお休みとなった。


「おはようございます、ユージスさん、ヨゼットさん、シャルフさん! お待たせしました!」

「お、来たなツキハちゃん!」

「おはよう。今日も元気だな」

「おはよう。じゃあ、行こうか」


 館を抜け出して冒険者ギルドへ行き三人と会う。

 それがお休みの日の私の過ごし方だ。

 二ヶ月前、初めて領地に帰り、そして数日後に戻ったロライアン様に、私は十日に一度の休暇を願い出た。

 理由は勿論、この三人とギルドの依頼をこなす為だ。

 まあロライアン様にはそんな事は言えないから、頭を休める為にと言ってあるんだけれど。

 それに快く了承を貰えた私は、それ以来、休みの度に館を抜け出しているというわけだ。

 三人は、ギルドの依頼をこなす以外にも、様々な事を私に体験させてくれた。

 私がビシャルゼから出た事がないと知れば日帰りで行ける他の街や村に連れて行ってくれたし、そもそもビシャルゼの街さえもろくに歩いた事がないと知れば街のいろんな所を案内してくれた。

 おかげで今ではビシャルゼは勿論、この地の周辺の事ならかなり知る事ができている。


「今日は、西区に立つ市に行くんでしたよね? 楽しみです!」

「楽しみなのはいいが、ツキハちゃん? 市はいつも人がごった返す程いるからな? キョロキョロして、迷子になるなよ?」

「なっ! なりませんよ! もう、ヨゼットさんの意地悪!」

「あははっ。ツキハちゃん、念の為に俺と手でも繋いどく? 何なら、今日だけでなくこれからずっと繋いで歩いてもいいぜ?」

「む、またユージスさんはそんな事を! 受付のお姉さんはいいんですか? もし見られたら尚更相手にして貰えなくなりますよ?」

「大丈夫だ、ツキハちゃん。俺がちゃんと全員を光魔法の糸で繋いでおく。もしはぐれてもそれを辿ればすぐに合流できるから、安心して市を楽しむといい」

「わ、本当ですか? さすが、シャルフさんは頼りになります!」


 そんなふうに今日も三人と楽しく会話しながら、私は足取り軽く街を歩いた。


☆  ★  ☆  ★  ☆


 市には各地から多くの商人さんが来て店を開く為、珍しい物や食べ物が所狭しと並ぶ。

 私達はその中から、隣の領地にある村の名物だという地鶏の串焼きを買い求め、比較的人の少ない場所へ行くと道の端に寄り、三人でそれを頬張った。

 特製の甘辛いタレが塗られたその串焼きは美味しくて、早々と食べ終わったヨゼットさんは『もう一本買いに行く』と言って混雑した人混みの中に入って行ってしまった。

 その後ろ姿に『俺のもよろしく!』とユージスさんが声をかけ、『他にも美味しいものはあるだろうに、満腹で食べれなくなるぞ』とシャルフさんが呆れたように言う。

 私は串焼きを頬張りながらそれを笑顔で見ていると、突然、カンカンカンカンカン! と、何かの音が高らかに鳴り響いた。

 途端、周囲の人々が一斉に慌ただしく駆け出した。


「え、何? 何!? わっ!?」

「「 ツキハちゃん!! 」」


 突然勢いよく動き出し、道の端にまで膨れ上がった人波に押され、転びそうになった私は、いち早くそれに気づいたユージスさんとシャルフさんに強く両手を引かれ、救出された。

 そのまま数歩下がり、人波にのまれない位置まで退く。


「あ、ありがとうございます二人とも。……けど、これは一体……?」

「街の警鐘が鳴ったからな。皆自分の家か宿に帰るのさ。巻き込まれる前に避難するんだよ」

「け、警鐘? 巻き込まれる?」

「ああ。賊か魔物の群れが街に近づいてるんだろうさ。で、門番が気づいて警鐘を鳴らしたんだ。……ヨゼットと合流してギルドへ行こう。俺達冒険者にも領主から協力要請がくるかもしれない」

「! 領主……!! あ、あの、ごめんなさい。私、帰らないと……!!」

「え? ……ああ、そっか、家族が心配だもんな」

「わかった、じゃあ今日はこれで別れよう。帰り道、気をつけてな」


 そう言うと、二人は私の腕を離し、ヨゼットさんが向かった方向へ歩き出す。


「えっ、あ……! ……い、いえ! 私、一度帰りますが、用事を済ませたらギルドへ行きます! 必ず行きます! 微力ですが、私も皆と一緒に戦います!! 私も、パーティーの一員ですからっ!!」


 人波の中に消え行く二人の後ろ姿に向かって慌ててそう声を張り上げると、その波の上からユージスさんの手が突き出たのが見えた。

 その手は親指を上に立ててあり、了承の意を表している。

 それを目にした私は安堵に微笑むと、波の中に飛び込み、領主館へと急いだ。

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