二人との交流開始
既に自分よりも遥かに優れた使い手のいる光魔法を覚えるよりは、自分しか使い手のない水魔法を先に覚えたほうが、役に立つ機会は多いかもしれない。
そう考えた私は、教えを請う為に水魔法を使える人を探す事にした。
目星は、既につけてある。
ロライアン様の従者である、あの二人だ。
二人は、ロライアン様が領地に帰られた今も、グレイさんの代わりの護衛として私を、いや、レイディアさんを守る為にここに残っている。
それを思い出した私は、護衛という事ならば、魔法を使えるだろうと踏んだのだ。
それが水魔法かどうかはわからないけれど……聞いてみる価値はある。
「あの、お二人にお聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
初めての魔物退治から帰ってきた翌日、私はロライアン様が置いていった宿題を片づけながら、じっといつもの休憩時間まで待った。
そして時間になり、メイドさんがお茶とお菓子の用意をして立ち去ると、部屋の隅に佇む二人に顔を向け、切り出した。
「……聞きたい事? 俺達に?」
「へえ? 何かな?」
声をかけられた二人は、私に冷たい視線を送ってきた。
これはもう、いつもの事だった。
出迎えた最初の日は、特に何の感情もない普通の表情だったはずなのに、翌日会った時には何故かもう冷たいものになっていた。
疑問には思うけれど特に害はないし、それよりも他に知りたい事が山積みだった私はこれを放置した。
願わくば、その弊害が今やってきませんように……。
そう思いながら、更に言葉を紡ぐべく、口を開く。
「……あの。お二人は、魔法をお使いになりますか? 水魔法なんかは、いかがでしょうか……?」
「水魔法?」
「……どうして、そんな事を聞くんだ?」
「はい、もし、水魔法をお使いになられるなら、私にご教授戴けないかと思いまして。私、水魔法に特性があるものですから」
質問に質問を返され、それでもまずはと、私は嘘偽りなくそう答えた。
けれどその途端、二人の表情は何故か更に冷たいものとなった。
「……へえ? 貴女が、俺達に、教えを請おう、と?」
「……面白い冗談だな」
「えっ……!? い、いえ、決して冗談では!」
「冗談でなければ、何だと言うんだ? 俺達みたいな身分の卑しい下民に、教えを請おうだなんて」
「えっ……? げ、下民って」
「貴女がそう言ったんだろう? ここに到着した日の夜、偶然出くわした俺達に」
「え!? よ、夜……!?」
二人からそれぞれ発された言葉に、私は驚き戸惑う。
『出くわした』と言うけれど、あの日は、夕食をロライアン様と共に取った時に顔を合わせて以降は、二人とは会っていない。
だから勿論、私はそんな事言ってないんだけど、どうしてそんな話に……と、そこまで考えて、私はある事実に気づく。
レイディアさんだ。
ロライアン様は勿論、この二人とも、私はレイディアさんの姿でレイディアさんとして会っている。
だからもし偶然、本物のレイディアさんと会って会話した場合、その時言われた言葉も、私が言ったものと認識されるのだ。
ど、どうしよう……二人にとっては私が言った事になるんだから、やっぱり、謝るべき……かな。
「……あの、お、思い出しましたわ。その節は、心ない言葉を申しまして、大変申し訳ありませんでした、セレヴィン殿、シグルト殿。反省しておりますわ」
「……反省、ね。口ではなんとでも言えるよな」
「ま、いいんじゃないか? こういった人間には、教えを請う為にとはいえ、俺達に謝罪するなんて真似するのも屈辱だろうし。何より、教えを請われた時は応えるようにと、ロライアン様に言われてるし。この子、ロライアン様には猫被って良い子ぶってるからね」
「…………そうだな。……水魔法なら俺が使える。ロライアン様の命令により、俺が教えよう」
「! ……は、はい。ありがとうございますセレヴィン殿。よろしくお願い致しますわ」
私がした謝罪は口先だけのものと取られたようで、二人の言葉からも態度からも、決して許していない事が見て取れる。
それでも、ロライアン様からの言いつけに従って教えて貰える事になったようで、私はホッと胸を撫で下ろす。
あとは教えを請う日々の中で、私が真面目にそれを受ける事で見直して貰い、二人の気持ちと態度を緩和できるように頑張るしかない。
……やる事は変わらず、山積みだなぁ。
でも……とにかく、頑張らなくちゃ!!
私は改めて、気合いを入れ直した。
次にあの三人と会い、また依頼を受ける約束をしたのは二日後。
それまでに、たとえ簡単なものでも、水魔法をひとつかふたつ覚えておくんだ!!




