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半生 ‐筋蒔正也という男‐

 天才なんて、ロクなものじゃない。

 それが俺、筋蒔正也(すじまきまさや)が17歳で出した結論だ。


 7歳、アメリカに留学。

 9歳、大学に入学。

 12歳、大学を卒業。卒業後は研究者となり、様々な分野で数々の論文を発表。

 15歳の時に日本に戻り、筋蒔研究所を設立。今も世界最先端の研究をしている。


 これが世間に知られている俺の半生。

 公式な記録はないが、運動神経も悪い方ではない。アメリカに留学中に何回かスカウトされた経験がある。その時のスカウトマンに「本気で取り組めばオリンピックの殆どの競技でメダルを狙える」と言われた。

流石にそれは褒め過ぎだと思うが、世界中から天才鬼才と言われ、ネット上ではチートマンとか呼ばれているのは事実である。


 俺の経歴を知って、羨ましがる人も多い。

 しかしもう一度言う。天才なんてロクなものじゃない。


 理由は単純。

 天才というのは、存在するだけで――他人を不幸にするからだ。


「私が何十年、人生の全てをかけて研究してきたことを、君は3日で追い抜いてしまった」


 ある学会でそう言われた。

 その後彼は酒に溺れ、体調を壊し、今は病院で療養中だと聞く。


 昔からそうだった。

 走れば、オリンピックを目指している夢を持った友人の夢を壊した。絵を描けば、何人かの画家をスランプに追い込んだ。

 そして、最終的に研究者となった俺は、論文を発表する度に数えきれない程の学者の人生を終わらせてきたのだ。


 俺の出した結果を目の当たりにした彼らは、皆同じ目をする。絶望、諦め、嫉妬、憎しみ。それらが入り混じった黒くドロドロした目だ。中にはその目の中に殺意が混ざっている者もいた。

 俺は、その眼差しが、嫌いだった。――あれは、そう、化け物を見る目だ。


 それでも俺は、研究を続けた。例え俺の周りが不幸になろうとも、世界全体から見れば俺の研究は人を幸せにするものだと信じていたからだ。


 しかし、15歳の10月。ついに自殺者が出た。遺書には『私は来世で結果を出すことにする』と書いてあった。世間では「メンタルが弱い」だの「研究者は自分が研究結果を出せなかったことよりも、人類の技術がまた先に進んだことを喜ぶべきだ」と自殺者した研究者が責められ、俺は擁護される立場だった。

 俺の研究で、間接的にだが、人が死んだ。テレビやネット上では、俺を慰めてくれるものは多かったが、俺の周りでは誰も俺に声をかけてくれなかった。


 2ヶ月後の12月。俺の下で働いていた部下が殺された。犯人は自殺した科学者の妻だった。彼女は俺に罪を被せる予定だったらしいが、素人の犯行のため矛盾や証拠が多く、すぐに捕まることになった。

 動機は単純。夫の復讐である。


 これらの事件で、情けない話だが、俺は心に深い傷を負った。

 特に12月の事件は俺が被害を受けるのではなく、自分の部下が被害を受けたのだ。

 例え周りから疎まれようとも、大きい目で見れば世界のため、未来のためになると思って研究を続けてきた。結果がこれである。


「きっと、君は時代という時計の針を早く回しすぎたんだ。これはその代償だよ」


 部下の死に打ちひしがれている俺に、誰かがそんな言葉を投げかけた。

 そうか、俺は世界からも嫌われたのか――俺はその時、なんとなくそう思った。


 俺はこの事件の後、日本に戻り、自分の研究所を設立。

 表向きは世界最先端の研究をしていると言われているが、実際は引きこもっているだけ。

 人が訪問してくると、危険な研究中等と適当な理由をつけ、追い返す。

 

 変に人と関わると、ちょっとしたことで、誰かを不幸にすることがある。

 俺にとっては普通のことだが、相手にとってはそうでないのだ。こういう考え方の違いからくるミスは、俺でも回避するのが難しいし、非常に相手に気を使うため疲れるのだ。


 とにかく俺は、この先の人生を引きこもって暮すことにした。

 もう他人を不幸にするのはこりごりだ。正しい進歩の仕方ではない。人類の進歩というのは皆がお互いを刺激し合い、切磋琢磨して行われるべきなのだ。そういう観点から見れば、天才というのは人類にとって不純物、化け物である。


 普通が一番。天才になんてロクなものじゃない。

 引きこり初めて2年。17歳。

 これが天才に絶望した俺、筋蒔正也の現在である。


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