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朱の華  作者: 大友うさぎ
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李蕗とお姫様

景霊元年の政変後、長く権力を握っていた蘇氏は衰退した。新帝として即位した鄭王は皇帝として政変後の宮廷を刷新した。

それは李家にも及んだ。李家は蘇氏と遠縁にあたり、当主の李峡(り・かい)は蘇太后のお陰で宗人府の官僚になっていた。

皇帝は野心はなくとも蘇氏の血脈を宮廷から追い出そうと李峡を罷免して処刑した。李峡の妻、康氏(こう)は二人の子どもを連れて逃げ回った。流民に紛れて各地を周り、京が落ち着いたのを見計らって豪農の下僕に落ち着いた。しかし、悪辣な豪農にこきを使われた康氏は病を得て亡くなった。残された長女の李蕗(り・ろ)と弟の李萌(り・ほう)は厭味と理不尽に耐えながら朝から晩まで働いた。

「蕗!蕗!」

豪農の妻、牛氏(ぎゅう)の野太い声が畑中に響いた。李蕗は体を起こして、ひたいの汗を手で拭った。何事かと思い彼女が牛氏のもとに向かうや否や、牛氏は李蕗を平手打ちした。あまりの強さと勢いに李蕗の華奢な体は地面へと崩れた。

「この恩知らず!あんたの弟が大変なことをしてくれたよ!」

「えっ!?萌が!」

牛氏は李蕗を見下しながら鼻息を荒くして告げる。

「萌のバカが魏家に盗みに入ったんだ!」

「そんな、萌はそんなことしません!何かの間違いです」

「間違いだって?なら、自分の目で確かめるんだね」

牛氏は李蕗を蹴飛ばした。頬も背中も全てが痛む。牛氏が去ると李蕗は満身創痍の体を奮い立たせて役所へと走った。役所は大通りに出たすぐのところにあった。豪農の家からは1時間もかかる。李蕗はたった一人の肉親のために走った。その姿は妙年の娘たちには滑稽にうつる。息が切れた李蕗は道の脇で屈んだ。往来する人は彼女を邪険にした。そこに男の声が響く。

順華公主(じゅんか)のおなり!」

「順華公主…確か私と同じ歳のお姫様」

李蕗は顔を上げた。順華公主を乗せた輿は優雅に鈴を鳴らしながら通っていく。帳の隙間から豪華な衣装を身にまとった公主の姿が見えた。おまけに行列には美しい線をもつ馬もいる。李蕗には勝気な光を宿す瞳が印象的に見えた。李蕗は道の脇から大きく体を揺り動かし、道の真ん中に飛び出した。

輿が大きく揺れた。何事かと思った順華公主は帳を捲り、顔を出した。

「公主殿下、ご機嫌麗しく」

「そなたは?公主の往来を邪魔するとは何事だ」

順華公主が手を差し出すとお付の侍女がさっと彼女の腕をつかみ輿からおろした。

「実は急いでいて…馬を貸してくださいませんか?」

「馬を?変わったことを言う」

「お願いたします!きちんとお返しいたします」

「理由は知らぬが、私の馬は気性が荒く乗れた者はいないぞ」

「ならば、鞭を打つまでです。鞭を打ちつつ、赤子のように宥めればよいのです」

李蕗の言葉を遮ろうと下僕が彼女の肩を掴んだ。公主は凛とした声で待て、っと告げる。

「ならば、乗りこなしてみよ。そなた、名前は?」

「公主殿下…私は李蕗と申します!ありがとうございます!」

李蕗は公主から鞭を手渡されると行列にいる馬に向かっていった。馬は美しいとしか言い様のない上等なものだった。

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