表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

シュールナンセンス掌編集

ノック

作者: 藍上央理

「ノック」



 コンコンコンとノックする人がいる。

 たとえば、シンシンと寒い夜、真綿の布団にくるまっているとき、コンコンコンと私の背中をノックする。

 たとえば、蒸し暑さにサッシを開いて夜空を眺めているとき、コンコンコンと私の背中をノックする。

 たとえば、ずっと信じていた人が実はそうではなかったと悟ってしまったとき、コンコンコンと私の背中をノックする。

 たとえば、長い間夢見ていたことがかないそうになったとき、コンコンコンと私の背中をノックする。

 私はどんなにノックされたとしても、開かない。

 けんざんで引っ掻かれようと、とても痛くて涙が出たとしても、開かない。

 私の背中がたたかれるとき、私はそれを絶対に無視してしまう。

 開かれたとき、何が背中から飛び出すか分からないので、私は不安という鍵で背中を締め切ってしまう。

 コンコンコンとノックされるとき、私は必ず布団の中にいる。

 今日の空には薄暗い雲が張り詰めて、朝から冷たい雨が降っている。

 一時間も二時間も布団の中で私は自分を蹴り続ける。

 眠れない夜にノックされるとき、私はそっと自分を覗き見してしまいそうになる。

 いや、だめだ。絶対見てはだめなのだ。

 コンコンコン、とノックは内側からたたかれる。

 背中の外側で私は聞き耳を立てて、ノックする人が諦めてしまうまで息を詰める。

 コンコンコンとノックされるのは、本当に私が安眠を得ようとしているときだけだ。

 たとえ、眠れる薬を飲んでいても、忘れようとしているものが私の背中をノックする。

 コンコンコン、とノックするのだ。

 でも本当はだれも私の背中をノックしたことなどないのだ。

 そして、私はそのノックする音が聞こえないフリをするのだ。

 今夜も、眠りと目覚めのはざまで、ノックする音を聞いてしまうことがあるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ