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第六章~滝川一益と旅立ち~

「いやぁ~いい天気だ、のんびり旅が出来るなんて最高!」

「五郎殿、あんまりはしゃいでいるとバテますよ?」

「大丈夫ですよ~、一益殿は心配しすぎですって」

「五郎殿のその謎の自信はどこからきているのか、不思議です」

「いえいえ、人間生きていれば何とかなります!俺、一応今生きてますから!」

「生きれいれば…ですか、五郎殿は可笑しな人ですね」

「この旅の間は雑務や、鬼の鍛錬から解放される」

「鬼の鍛錬?」

「あ!いえいえ、厳しい鍛錬です」

(揚羽殿に伝わったら殺される!危ない危ない)

「はぁ…」

「それにしても、信長様も偶には良い事を言いますね!」

「信長様にその様な物言いをされるのは五郎殿くらいですよ」


五郎の台詞に苦笑しながら、一益はそう答えると目的の場所へと歩みを進める。

五郎のはしゃぎ様がまるで無邪気な子供のようで、どれ程歩いたら休憩を入れるべきか考えるのであった。


「一益殿~、目的の場所は何処でしたっけ。え~っと…」

「伊勢の桑名ですよ、五郎殿」

「伊勢までどれ位歩けばよいのですか?」

「そうですね、五郎殿の体力を考えると早くて三日程じゃないですか」

「三日ですか~、意外と早く着くんですね~」

「信長様にもゆっくりでよいと言われていますので」

「今から楽しみです」


五郎は久しぶりの開放感に気分が高揚するのを抑えきれないままに歩みを速めた。

一人ではないが、そもそも一人旅などしたら確実に野たれ死ぬと思えば一益の存在は心強かった。

その安心感も相まって歩く五郎がバテるのも時間の問題である。

舗装もされていない道を歩くとはどれ程大変なものか、五郎はまだこの時代で味わっていないのだから。




それはある日の朝


「五郎、今日も死にそうな顔してるぞ!くくく」

「それは最近鍛錬が厳しくて、身体がぼろぼろなんですよ…」

「お前、揚羽に相当厳しくやられてるみたいだな。くくっ」

「笑いすぎですよぉ~、それにしても今日は一体どうしたんですか?」

「あぁそうだった!今日はお前に命令がある」

「命令ですか?いつも俺を苛める為に呼びつけていた信長様が?俺に?」

「ん?何か言ったか?」

「何でもありません!」

「お前も大分、図々しくなってきたな」

「信長様のお陰ですよ、えぇ」

「ふんっ、まぁいい」


信長に仕官する羽目になってからと言うものの、事ある毎に呼びつけられ。

やれ面白い話はないかだの、やれちょっと稽古をつけてやるだの、丹羽家での仕事や鍛錬も疎かに出来ない上での呼び出しなのだ。

元々マイペースで元の世界でのんびり過ごしていた五郎が死にそうな顔になるのも無理はなかった。

ただ、信長は五郎をそれ程気に入っているのかは分からないが。

五郎との会話を聞けば、二人の仲が険悪な物ではない事がわかるだろう。


「それで、だ」


信長は一旦言葉を区切ると五郎に命令を出した。


「染井五郎、お前に視察を命じる!いいな?」

「は、はい!謹んでお受けいたします!」


五郎は咄嗟に頭を下げてその命令を受け取る。

(あぶねぇ~、長秀さんから教わっててよかった!)

五郎は丹羽家での生活の合間に長秀から色んな事を学んでいる最中なのだが。

その中の一つに重要なポイントがある、それは[信長様の命令は断るな]というものであった。

長秀が言うには。


「信長様の命令を固辞出来る者は中々いませんからね、それに信長様は偶にしか無茶な命令等出しませんよ」


ははは!と笑いながらどこか遠い目をする長秀を思い出し、五郎は心の中で感謝していた。


「あの、信長様」

「ん?何だ」

「視察…ってどこなんですか?」

「伊勢だ、と言ってもお前の居た世界とは違うのだったな」

「伊勢という名前はわかるんですが…」

「安心しろ、付き添いがいる。そもそもお前一人では旅等無理だろう?」

「た、旅くらいは行けますよ!」

「ほう~、確か聞いた話によれば。行き倒れたと聞いたが?ん?」

「今はお腹も減ってませんし、一応鍛錬してますよ!流石に旅くらいは…」

「くくく、それなら期待しておこう」


信長は五郎をおちょくって暫く笑うと、家人を使いに出した。

家人を使いに出して4、5分経った頃だろうか、誰かが部屋を訪れた。


「信長様。滝川一益、参りました」

「よく来た、入れ!」

「はっ」


信長が迎えいれるとその人物は五郎の横に静かに腰をおろした。

(この人、いつも三人で見かける事が多かった…)

見た目は中性的な好青年といった風貌だろうか、まだ若いはずだが既に落ち着いた雰囲気を纏っていた。

五郎が元いた世界だったら、女性にキャーキャー言われそうな程の美男子である。

(うーん、女性とも男性とも言えそうな顔立ちだなぁ)

ぼへ~っと一益を観察していた五郎だったが、信長に扇子で頭を叩かれるとあいたっ!と声を上げた。


「おい五郎、まともに一益と会うのは初めてだろう?挨拶せんか」

「あぁ!そうでした」


やれやれと言いそうな信長に促されると、五郎は改めて一益と向き合って頭を下げる。


「染井五郎と申します、以後宜しくお願いします」

「滝川一益と申します、此方こそ宜しくお願いします染井五郎殿」


お互い丁寧に挨拶を済ませると、信長が口を挟んだ。


「堅苦しい挨拶だな、お前達」

「いやいや、挨拶は真面目にするでしょう?」

「申し訳ありません」

「え!ちょっと滝川様!」

「冗談だ、冗談。頭を上げろ、一益」

「はっ」


そのやり取りを見た五郎は頭が痛くなってくるのを感じた。

(もしかして、滝川様って真面目で天然なのだろうか)

見た目では物静かな佇まいなのだ、五郎はてっきり大人しい、穏やかな人物だと期待していたのである。

ちょっとした想定外の事実に五郎が頭を抱えていると。

再度信長は口を開いた。


「改めて命令を言うとしよう」

「染井五郎、滝川一益。両名に伊勢への視察を命ずる」

「はい!」

「はっ!」

「五郎、何かあれば一益に頼れ。これでも中々切れ者なのだからな」

「勿体無いお言葉です」

「一益、五郎を頼むぞ。見た通りの男なのでな」

「酷い!」

「くくく!では解散としよう」


信長が解散を指示すると、五郎と一益は部屋から退室した。

二人が退室するのを見届けると信長は一人になった部屋で呟いた。


「五郎がこの旅でどんな感想を聞かせてくれるか楽しみだ」


信長は五郎が帰ってきた時を考えると楽しみで仕方がなかった。




信長がそんな事を考えている頃、退室した二人は旅の支度について話していた。

話すとはいったものの、五郎の問いかけに一益が答えるだけという状況であった。

元来一方的に話す事が苦手な五郎が流石に会話に詰まっていると、初めて一益が五郎に話しかけてきた。


「染井殿、頼みがあります」

「頼み?なんでしょうか」

「いえ、染井殿の方が年上ですから私の事は一益と呼んで下さい」

「いや、それは…俺が滝川殿を呼び捨てなんて恐れ多い」

「皆も私を一益と呼びますので、滝川と呼ばれるのがこそばゆいのです」

「はぁ…それでしたら、一益殿とお呼びしても?」

「結構です、宜しくお願いします」

「あ!それでしたら一益殿も俺の事を五郎と呼んで下さい」

「五郎…ですか?」

「えぇ!俺も五郎と皆に呼ばれてますので」

「分かりました、五郎殿」

「宜しくお願いします!一益殿!」


少しだけお互い歩み寄った二人は旅の支度を進めると、出立に備えて別れを告げるのであった。

五郎は旅への期待を膨らませながら、一益とは上手く付き合えそうな予感を感じて眠りに着いたのだったが。




「大丈夫ですか?五郎殿」


一益が声を掛けると、五郎はちょっと血の気が引いた顔を向けた。


「だ、大丈夫です」


とても大丈夫そうに見えない顔と声だったが、一益は水を五郎に渡すと腰を着けた。

五郎がはしゃぎながら歩いて一時間も経たない頃だろう、一益の懸念通り五郎は体力を使い果たして倒れこんだのだ。

今日はこれ以上歩けないと判断した一益は野営の準備をしながら、五郎に声を掛ける。


「だから言ったのです、あんまりはしゃいではと」


五郎は一益が度々諌めてくれたのにも関わらず結局バテてしまった恥ずかしさで穴にでも潜りたい気持ちになった。

当初予定した快適な旅が続いたのは最初だけだったのである。

道中は舗装されていない為か歩き難いし、履いているのは靴などではなく草履なのだ。

そんな状態で歩くことがどれ程体力を使うか想像できなかった五郎は、ペース配分を考えれずに見事バテたのである。


「申し訳ない、一益殿」

「野営の準備までお任せしてしまって」


申し訳なさそうに言う五郎を見て、一益は軽く苦笑すると。


「構いませんよ、ゆっくりしていてください」


そう答えて、黙々と準備を続けたのであった。

五郎は、一益に申し訳ないと思いながら再び身体の力を抜いた。

まだまだ旅は始まったばかりでこの体たらく、五郎は無事に視察を終えることが出来るのか。

ゆっくり更けていく夜、五郎は一益に見守られながら眠りに就いた。








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