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第一章~出会い~

「あ~、生き返った!」


  俺、染井五郎は数日振りのご飯を平らげ満足していた。

 目の前に出された白いご飯、美味しそうな風味を漂わせるお味噌汁。お腹を空かせた五郎にとってこれ  以上の誘惑はなかった。

 

「いい食べっぷりですな」


 そう微笑みながら話しかけてきたご老人、庄吉さんがご飯を用意してくれたのである。数日前俺はあの  大木で疲れ果て眠りについたが運よく発見されたのだ。 


「本当にありがとうございます」

「いえいえ、大したおもてなしもできませんでな」

「とんでもない!とても助かりました、庄吉さん」

(あのままだと死んでいたかもしれないと思うと)


 想像しただけでぞっとする。まさかこの歳になって理由もなく野たれ死ぬなんてごめんだ、見つけてもら  って本当に良かった。

 

「お爺ちゃん、あの方は起きられました?」


 そう問いかけながら入ってきた女性、彼女が俺を見つけてくれたと聞いた。名前は確か…


「おぉ、雪か。お客人はさっき起きられたぞ」


 そうだ、雪さんだった。気立ての良い娘さんなのだろう。見た目はほんわかしているが、立ち振る舞いは 綺麗なものだった。

 雪さんは俺を見てほっと一息吐くと。


「よかったですね、ご無事で。あんな所で倒れてましたから吃驚しましたよ」

「本当に、見つけてくれてありがとうございます」

「まぁまぁ二人とも、堅苦しい挨拶は無しにしてひとまず座りなさい」


 庄吉さんの言葉に、雪さんと俺は頷き合いひとまず腰を落ち着けることにした。なにせ久しぶりの食事の 後だ、胃が悲鳴をあげている。

 今までここまで切迫した状況に陥ったことがなかった俺は、この現実味が無い状況の中で再度思った。

(平凡な毎日に帰りたい)






  それから数十分経った頃だろうか、庄吉さんが俺を見て話しかけてきた。


「それでお客人、名はなんと申される」

「あ、俺は染井五郎と言います」

「そめい…ごろう…?珍しい名前ですな」

「身なりも変わっておられるようですが、どこかの武家に仕官されていたのですか?」

「へ?い、いえ…俺は普通の会社員ですが」

「かいしゃいん?何ですかそれは?」


 俺は庄吉さんのわけがわからないといわんばかりの顔を見てはっとした。そう、助けられて目覚めてか  ら感じていた違和感を再確認させられたのである。

(やっぱり、そうなのか!?そんな夢や空想の物語じゃあるまいし…)

 そんな俺の思いとは裏腹に庄吉さんは続けた。


「のう、雪や。かいしゃいん何て身分があったかの?」

「聞いた事がありませんねぇ、どんな事をなさるのでしょうか」

「うーむ、全くわからんのぉ」

「でも不思議な身なりをなさっていますから、もしかしたらよい身分の方かもしれませんね」

「そうじゃのぉ、それにしても不思議な身なりをしておられる」


 二人の暢気な会話を聞きながら俺は悶絶した、出来れば転がりまわりたい。

(どうやら別の世界から来ました!なんて言えねぇ、言いたくもない!)

 

「ふむ、事情はわかりませんが、そめいごろう?さんでしたか。これからどうなさるおつもりで?」

「あぁ、五郎と呼んで下さい。呼びやすいでしょうから」

「すみませんなぁ。では、五郎さん。これからどうなさる?」

「……」

「あんな所に行き倒れてたという事は、宛も無く旅を?」

「まぁ、そんな所…ですね、はい」


 宛があったら苦労しないよなぁと思いつつ、どう伝えればいいのか悩んでいると。


「何か理由があるみたいですし、暫く家でのんびりされては如何かな?」

「本当ですか!」

「えぇ、ただし家も人手が足りないのでお客人には申し訳ないが、畑やらの仕事は手伝って貰う事になるやもしれませんが」

「全然かまいません!何でも手伝いますので宜しくお願いします」

「ほっほっほ。いやいや、困ったもんは助けるのがこの爺の趣味でしてな」


 そう言った庄吉さんの優しい顔を見て、俺は元の世界に戻る為に行動しようと思いながら、恩人に手   伝える事は何でも手伝いしてお礼をしたいと考えていた。





 

「ふー、これは体力を使うな」

 

 俺は独り呟きながら畑仕事をしていた、あれから数日。約束どおり俺は庄吉さん家の手伝いをしなが   ら暮らしていた。今まで会社勤めで机仕事をしていただけあって、俺は畑仕事を舐めていた。

 つまりこういう事である。


「う、腕が攣りそう…!腰がやられる!」


 悲鳴をあげながらこの数日俺は畑仕事から家事を手伝っていた、蒔き割り、食事の準備。現代社会に慣 れきった俺の身体が耐えられなくなるのはすぐだった。決して、歳ではないと信じたい。信じたい。

 ともあれ少しでもこの世界の情報を集める為にまずは村の皆と親交を深めながら話を聞くことにした。

 幸い皆、流れ者である俺の事を暖かく迎えてくれた。これも庄吉さんと雪さんの存在も大きいと思う。

 畑仕事の合間に話を聞いてわかったのは、やはり戦国の世だという事。ただし、俺が知ってる戦国の武 将達は存在しているようだがそのどれもが違和感を感じるという事だ。

 つまり、俺は戦国の世に来たが自分が想像してる戦国の世とは大分違う可能性があるって事だ。

 簡潔に言えば、俺の知ってる知識が役に立たないかもしれない可能性がある、困った。実に困った。

  因みに、今は永禄3年3月23日。俺がこの世界に来てやっと10日経った程だ。

 更に庄吉さんの住む村は尾張と三河の境にあるようだ。小さな村だが活気 は程々にある為か、噂話  位は伝え聞くことが出来るのはありがたい。

 

「噂を聞く限りじゃ、もうすぐ戦があるのかな」


 そう、村で聞く限りの噂じゃ近々今川がこの尾張に戦を仕掛けるんじゃないかと噂になっている。

 どうやら、駿河の今川義元との戦は俺の知っている史実と同じように起きるみたいだが。


「織田信長ってこの世界でも破天荒な人物みたいだな」


 この織田家の当主、織田信長は聞きかじった話だけ聞くと俺のイメージした信長と似ている。奇妙な物  に興味を持ち、変わった物を探しては買い漁っている上に相当苛烈な人物でもあるようだ。


「縁はないだろうが、俺はお近づきになりたくないねぇ」

「どなたとお近づきになりたくないんですか?」

「のあぁ!」

 

 気づくとすぐ傍まで雪さんが来ていたようだ、驚いた俺を見て雪さんも吃驚したのか目をぱちぱちと瞬か  せていた。


「すみません、そんなに驚かせてしまいましたか?」

「いえいえ、そんな事は。考え事をしていたもので、すみません」

「考え事ですか」

「えぇ、村でも話題になってる織田の当主様の話を聞いておっかないなぁと」

「織田信長様ですか」

「そう、その信長様です」

「確かに、信長様のお噂は色々聞きますが。それ以上に尾張を案じてらっしゃると私は思います」

「尾張を、ですか」

「はい、ここ尾張は周囲をいつ攻めてくるかわからない大名様に囲まれておりますし。」

「駿河、そして三河。今川の軍勢ですか」

「ええ、よくご存知ですね」

「ここ最近、村の中で噂になっていますからね、どうしても耳に入ります」

「いつ今川の軍勢が攻めてくるかわからない、そんな状況が続いて村の若い男性も兵として村から出ていってしまいました」


 なるほど、だから若者が居ないのか。見かける子供はまだ10歳位の年齢ばかりだもんな。そりゃぁ人  手も足りなくなるってもんか。


「皆、無事に帰ってきてくれれば良いのですが」

「……」

「……」

「この話題は止めましょうか、もっと面白い話でもしましょう」

「そう、ですね。あぁ!そういえば、五郎さんのその格好とてもお似合いですよ?」

「え?そうですか、参ったなぁ」


 そう、流石にスーツは違和感がありすぎて困る。それならと庄吉さんから着物を頂いたのだった、こうや  って着てみると着物も軽くて中々着心地がいい。


「前のお召し物もお似合いでしたけど、不思議な着物でしたね」

「あー、あれは変わった商人から買ったんですよ」

(なんて言えばいい、他に言い様が無いぞ!?)


 冷や汗を垂らしながらお茶を濁していると。

 遠くから声が聞こえてくる気がして振り向いた。


「おーい!」


 遠くから聞こえてきた声に、助かった!と思いながら。俺と雪さんは何だろう?とお互い見合ってから   声の方へ歩き始めた。






 雪さんと二人で声の元へ歩いて数分、そこには一人の若者が立っていた。

 足軽の身なりをしているものの、顔にはまだ幼さが残っており無邪気さが感じられた。

 若者は雪さんに目を向けると笑顔でこちらに寄ってきた


「お、雪さん居たのか!ちょっと帰ってきたよ!」

「まぁ、喜助じゃないの!」

「ちょ~っと使い頼まれて村に寄る事が出来たんだ、今大丈夫?」

「勿論!村の皆も喜ぶわ!」

「で、ついでなんだけど。そこの人誰?」

「お、俺?」

(つ、ついでとは…うぬぬ)

「あぁ、こちらは最近村に来られた五郎さんよ」

「五郎?ふーん、見たことがない顔だねぇ。こんなひょろひょろした奴初めて見た」

「あ、あはは。身体を動かすより頭を動かす事ばかりしてたからかなぁ…」

(なんて直球を投げてくるんだこの若者は!傷つくぞ、本気で!)

「まぁいいや!庄吉の爺さん家かい?」

「今は…多分何も無ければ家にいると思うわ」

「おっし!行こう行こう!久しぶりに帰ってきたんだ顔を拝みに行かないと!」


 無邪気な顔で喜助は雪さんを引っ張りながら、庄吉さんの家に向かっていったのだった。[俺]を残して。


「あれ、何故だろう。少し寂しい、ふ、ふふ…」


 俺は軽いショックを受けながら、二人の後をトボトボ追いかけて歩き始めた。それは俺がこの世界で仲   良くなる友人との出会いの始まりでもあった。


「全く、面倒な世界に来ちゃったなぁ」


 畑で格闘をし、蒔き割りで腕も痛め満身創痍の五郎。この世界で何をすればいいか考え始めた矢先に起 きた、勇猛な若者との出会いが更に五郎のこれからを決める一つの出来事になるとは五郎も想像してい なかった。

会話が多めになって読みづらくなっていないかが心配ですが。これから五郎に色々起きていくようになると思います。

足りない頭を捻って文を書き次第投稿したいと思います。


*感想で御指摘頂いたので、『上総介』を『信長』と置き換えました。

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