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第十五章~忍び寄る魔の手~

「雪斎様」


呼びかける声にゆらりと振り向くと、雪斎は密偵の報告を静かに聞く。

密偵が報告を淡々と話し終わると同時に雪斎は口を開く。


「そうか、下山に。その男が信長のお気に入りと言うのだな?」

「はい、名は五郎と言う男で普段は丹羽家に出入りしている模様です」

「ほう…丹羽長秀か!」

「では、氏真様にも報告を…」

「ならん」

「は…?しかし…」

「上手くいけば五郎と言う男だけでなく、丹羽長秀も手中に出来るかもしれないのです」


くっくっくと低く笑うと雪斎は密偵に告げる。


「いいですか、これはごく僅かな者しか知らない極秘の策。全てが上手くいったらその時に明かせば良いのです」


その雪斎の言葉に密偵は「はっ」と返事をすると気配を消した。

誰も居なくなった部屋で目を怪しく輝かせる雪斎は呟く。


「後は義元様が簡単に動けないよう根回ししましょう、ふふふ…」


雪斎は義元が痺れを切らす前に事を運べるよう動き始めた。




雪斎が徐々に動きを見せると、織田にも動きが見え始める。


「下山か。確かに最近、その辺りで小さな諍いが増えたと聞くな」


信長が報告を受けて感想を口に出すと、その場に呼び出された二人の家臣が相槌を打つ。


「長秀が言う通り、確かに五郎を捕まえたのも下山だったと聞いたが…」

「はい、喜助という若者がその村の出身でして。五郎殿を捕まえたのも彼だと聞いております」

「そうだったな、その褒美として勝家の下で働かせていたな」


長秀の話に信長は頷いて答えると、長秀の隣で厳しい顔をする勝家に声を掛ける。


「それで勝家、お前はどう思う?」

「はっ、五郎が我が軍に来て数ヶ月。信長様が五郎を大層お気に入りだと言う噂は今川にも周知の事でしょう」

「うむ」

「五郎の噂を聞いて探している可能性は有り得ます」


勝家が信長に答えると、その後を長秀が継ぐ。


「それに五郎殿は見た目に武士とは言えません、そんな男を登用する理由が他にあるのではないかと勘付く者がいたのでしょう」


長秀の言葉に信長は腕を組んで考える。

その様子を静かに見守っている長秀と勝家だったのだが。


「信長様!急ぎご報告がございます!」

「入れ」

「失礼致します!」


急いで走って来たのであろう、信長に許しを得て入室した伝令兵は息を切らしながら信長の眼前で伏せると。


「三河との境にある村々が野盗と思われる集団に焼かれているとの事!」

「野盗だと?」

「はっ!」

「むっ…!待て、三河との境と言ったな!下山もか!」

「は、はい!下山にも被害が出ているようです!」


伝令の言葉に聞き返す信長だったが、その言葉に反応した人物が別に居た。


「下山だと!いつから村は襲われている!?」


勝家が立ち上がり伝令を問いただす。


「報告によれば、今朝から次々に襲われているとの事です!」


伝令の答えに表情を厳しくする勝家に長秀が尋ねる。


「勝家殿、落ち着いて下さい。急く気持ちはわかりますが…」

「長秀、そうも言ってられん!喜助が今、村に戻っているのだ!」

「しかし、焦っては対応が遅れます」


今にも走り出さんとする勝家を宥めながら、長秀は信長に向き直ると。


「信長様、下山周辺は三河との重要な境、このままにしておけません」


長秀の意見に信長は頷くと、伝令に休めと下がらせると眼前の二人に命令を伝える。


「今から家臣を集めている余裕はない、良いか長秀、勝家。」

「「はっ!」」

「勝家、お前は村々の鎮圧に軍を整えて采配せよ!」

「承りました」

「長秀、お前は下山へ急げ!馬と少数の兵を預ける!」

「急ぎ出立します」


信長の命令に深く頭を下げると二人は部屋を急ぎ足で去る。

静かになった部屋で一人残った信長は被害を最小限にする為にどうすればよいか考え込むのであった。




「五郎殿!五郎殿~!」


急ぎ屋敷へ戻った長秀は出立の支度を指示しながら五郎を探していた。

(何処へ行かれたのです!五郎殿…!)

五郎は度々下山でお世話になった親子の話を楽しそうに聞かせてくれた。

その村が危ないのだ、もしもの為にも伝えておかなければいけない。

慌しく動く長秀だったが、そこに声が掛かる。


「お父様?どうなされたのです」


長秀が振り向くと、揚羽が騒がしくなった屋敷の様子を見に、部屋から出てくる所だった。

揚羽は珍しく慌てる父、長秀を心配そうに窺うと。


「誰かお探しなのですか?」


娘が落ち着いてと、宥めながら聞くと。長秀は息を吐いて心を落ち着かせる。


「揚羽、すみませんが五郎殿は何処に?」

「五郎殿?五郎殿なら折角の休暇だ~と言って、若い男の人と旅支度をしてましたよ?」

「なんですって!?その若い男とはどのような人物でした!?」

「え~っと……確か、この前お父様に書状を届けに来られた方だったような」

「いけない!」

「え!?お父様!」


長秀は話を途中で切り上げる、すぐさま準備を済ませると後を部下に任せ、馬に乗って駆け出した。


「まさか、五郎殿に休暇を与えた時期と重なるとは!これが狙いということでしょうか…」


四日前に休暇を与えた事を後悔しながら、長秀は一刻も早く到着するよう馬を走らせる。


「無事で居て下さいよ…!五郎殿!喜助!」


二人の無事を祈りながら、長秀は荒れた道を駆け続ける。




村に到着して二日目。五郎は畑仕事を終えると庄吉の家に帰っていた。

すると流れ者のような格好をした男が村人と話しているのを見つける。

つい聞き耳を立ててしまう五郎は歩く速度を緩めると話し声に集中する。


「それで、最近変わった事はなかったのだろうか?」

「変わった事ねぇ…生憎毎日畑仕事で変わり映えの無い事ばかりだよ」

「そうか、最近面白い身なりをした男がこの辺りに居ると噂に聞いたのだが…」

「面白い身なり?わっはっは!そんな目立つ格好してる奴はこの村におりゃぁせんよ!」

「……」

「この村に起きた大事って言ったら、珍しくこの村にそこそこ若い兄ちゃんが来たくらいだよ」

「……ほう?」

「戦だ戦だって若者が出て行く一方、男手が足りなかったから助かってたんだが、そういやあの兄ちゃんは何処に行ったのかねぇ」


流れ者らしき男が表情を若干険しくすると、五郎は目を合わさないように顔を背ける。

(ちょっと!あのお爺さん何言ってんの!)

話を聞けばどう考えても、五郎の噂を聞きつけて来たとしか思えなかった。

実際、信長がその噂を聞いて使いを寄越したのだ。

誰が、何時、似た様な事をするのか分かったものではない。

(これ以上拉致されたくはないよ…!兎に角近寄らずに家に帰ろう、うん)

五郎が出来る限り視界に入らないようにこそこそと去っていくと。

その背中を村人越しに捉えていた男は口角を上げると。


「変わった男…か、確かに妙な風貌だな」

「へ?何か言ったかの?」

「いや、色々すまない。もう暫く滞在するつもりだ、他に変わった話があれば教えてくれるとありがたい」

「へぇへぇ…まぁゆっくりなさるとよい」


男は話を切り上げると、最後に五郎が去っていった方角へ目を向けると薄く笑った。




その日の夕餉、畑仕事で取れた芋と白米を使ったご飯に舌鼓を打つ五郎は。


「今日、流れ者みたいな男が村の人と話してたけど」


その問いに庄吉と雪は顔を見合わせると。雪が五郎に煮物を渡しながら答える。


「そうですねぇ、五郎さんが居なくなって暫くしてでしょうか。時折ああいった旅の方が訪れるように」

「俺が居なくなってから、ですか」

「えぇ、でも暫くお話を聞いたらお帰りになる方ばかりですから」


ふふっと笑うと雪は五郎の食べっぷりを見て感嘆する。


「五郎さんはいい食べっぷりですね」

「若い内は沢山食べて、動く。良いことですぞ」


雪の言葉に続いて庄吉にそう言われた五郎であったが、隣で自分以上の速度でご飯を平らげる喜助を見やると。


「最近、喜助や若い人と関わっていると。勝てる気がしません…」

「がつがつがつ!」

「喜助の小さな身体にどうやったらこんなにご飯が入るのか」

「がつがつがつがつがつ!」


喜助は五郎の話が耳に入ってこないのか、一心にご飯を食べていた。

その様子に苦笑いを浮かべながら、五郎は食後に入れてもらったお茶を啜るのであった。




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