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第九章~猛犬注意!その名は前田利家~

そういえば、今更ですがこの小説に出てくる地名や名前は歴史から拝借していたり、作ってたりします。

まぁ名前だけ借りてる事が多いので、ご了承下さい。特に武将イメージは作者のこうだといいなぁ、こうだったら面白いなぁが根本になっているので。

その辺り、受け付けれない方はお気をつけくださいませ。

結局尾張に戻ってすぐ信長に報告したのだが、信長は五郎の報告を聞いて笑うだけだった。

その後、今日は休めと家に帰されたのだが、怒られると思っていた五郎は内心ほっとしていた。

それから家に戻って久しぶりの自室でゆっくりしていた。

ふと考えてみれば五郎がこの世界にきて既に2ヶ月は経っているだろうか。

桑名で養った英気を鍛錬や家事で消耗しながら、少しは引き締まった体つきになってきた五郎である。

よくよく考えてみれば、鬼の様な揚羽の鍛錬、体力作りがなかったらと思うと。

そもそも桑名まで辿り着けたのか怪しいと考えれば、あの地獄の鍛錬も無駄ではなかったのだろう。


「感謝する事なんだろうなぁ」


そう思ってはみたものの、少しだけでも優しくして欲しいと願ってしまうのが五郎の性分であった。




五郎が尾張に戻ってから4日程経ったある日の事。


「誰かー!誰か居ないのかー!」


その大きな声で目覚めた五郎はむくりと起き上がると、眠い目をこする。

今日は珍しく、長秀親子のどちらからも休んでよいと言われたのだ。

その休暇をありがたく満喫させて貰おうとしていた五郎だったのだが…。


「折角ゆっくり寝ていられると思っていたのにぃ…うぅ…」


情けない呻き声を零しながら、弛緩し切った身体を伸ばすと欠伸を一つ。


「そういや今日は長秀さんも、揚羽殿も留守にしているんだった」

「うん、こういう時に限って俺一人留守か…」


五郎は久方ぶりの危険探知機が作動、高速回転を開始した音が頭の中に木霊した気がすると。


「俺にゆっくりさせないなんて、神様っていじわる!」


五郎が叫ぶ台詞とは裏腹に、その顔はとても清々しいものだった。

もはや、この世界に来て自分の不運力が増した事を悟っていた。

簡潔にいえば、自分にトラブルが寄ってくることに慣れてきた、という事である。


「おーい!誰かー!早くあけてくれー!」


響き渡る声に現実に戻された五郎は、何事も無いようにと客人を迎えに歩くのであった。




「いやぁ!悪いね~、いきなり」


そうやって笑う男だが、全く悪びれる雰囲気もなく五郎が出したお茶を啜っている。

見た目は浪人のようだが、信長に仕えてその家臣を否応なしに見てきた五郎は違和感を感じてしまう。


「あのぉ…、それで御用は一体?」

「あー、そうだった!」


男は一際大きな声を出すと、五郎に問う。


「俺は前田利家と言う、丹羽長秀殿は居られぬか?」


五郎はその名前を聞いて驚愕した、ただその後すぐに疑問が湧いたのだが。

(前田利家だって?確か五大老…だっけ、その一人になる人物だよな?)

その利家が目の前に居る事もだが、五郎が一番疑問に思っているのはその身なりが浪人風であった事だ。

(確か、前田利家は信長に仕えてたんじゃなかったっけ…?)

首を捻ってうんうん唸り始めようとした五郎であったが、慌てて首を振ると。


「これは前田様、俺は染井五郎と申します」

「染井殿か、変わった名前だな!」

「は、はい。それで長秀様は今家を開けておりまして…」

「あちゃー、そうか~」

「家に戻られる時間も聞いてませんから、いつ戻られるかは…」

「それは残念だなぁ」


残念そうに利家は頬を掻く、五郎はふと目に入った利家の顔をじっと見た。

利家が掻いている頬や目の下に見える傷を確認した五郎は思わず震えた。

(今まで会った人達は皆綺麗な顔をしてたのに!この人傷だらけだよ!)

どれだけ無茶をすればこんな傷がつくのか、その丹精な顔は所々戦の勲章が刻まれていた。

利家がどんな人物か推理しながら五郎が様子を窺っていると。


「そうだ、風の便りに聞いたんだが」


利家がそう切り出した。


「信長様が新しく登用した人物が、ここに居るらしい。知らないか?」

「い、いえ~。それなら信長様のお屋敷に居らっしゃるんじゃないでしょうかぁ?」


利家が突然尋ねた声に、探知機が警報を鳴らすのを感じた五郎は咄嗟に誤魔化したのだが、小心者の五郎は語尾が上ずるのを抑えることは出来なかった。


「ふーん、そういや五郎殿。いつから丹羽殿に仕えてるの?」

「えぇと、二ヶ月ほど前からです」

「そっか、まぁ俺が訪ねてきたのも4ヶ月振りだから見覚えが無いもの仕方ないか」

「は、はぁ」

「悪かったね、いきなり色々聞いちゃってさ」

「構いませんよ、留守を任された者の役目ですから」

「んじゃ、今日はこれで帰るよ。丹羽殿にまた来るって伝えておいて!」

「はい、わかりました」

「じゃーね!頼むよ!」


利家はお茶をぐぃっと飲み干すと、大きな声で別れを告げて去っていった。

その後ろ姿を見送りながら五郎は、やけにあっさり帰ったなと思いつつ。

何事もなく終わった応対に安堵したのである。

だが、五郎に忍び寄る不運は一歩ずつだが着実に歩みを進めていた。




その日の鍛錬中の事だった、今日は久しぶりに長秀が鍛錬を見るというので喜んでいた五郎が、留守の間に起きた出来事を改めて長秀に伝えると。


「利犬…いえ、利家君が相手で大変だったでしょう?噛まれませんでしたか?」


長秀は含み笑いを洩らしながらそう五郎に言ったのである。


「噛み付くなんて、そんなに怖い人なんですか?」

「普段は元気で気さくなよい青年ですよ」

「その[普段は]って言葉が気になるんですが…」


五郎が不安そうな物言いで長秀の答えを聞いていると。

長秀は五郎の肩に手を置いて続ける。


「大丈夫です、今は理由があって浪人をしてますが。信長様に仕えていた仲間ですよ」

「はぁ…その理由って?」

「喧嘩です」

「え!?喧嘩!?」

「喧嘩ですよ、喧嘩」


喧嘩で浪人になるなんて、なんて血の気の多い人なんだと五郎が戦慄していると。


「まぁ利家君は猪突猛進、頭に血が昇ったら何にでも噛み付きますからねぇ」

「その喧嘩も同朋衆のある人物との諍いから起きたんです」


長秀が説明するには、利家は同朋衆のある人物に馬鹿にされて切れてしまったという。

利家は赤母衣衆の筆頭として日々研鑽を積んでいたが、その性分から武芸一辺倒。

その利家の影響があるのか、赤母衣衆の兵は血気盛んな若者が集まったのである。

そんな利家や赤母衣衆を侮辱し続けた人物に我慢の限界を超えたのだろう。

利家はその人物を斬殺して、織田家を後にしたという。


「えぇ!喧嘩で相手を殺しちゃったんですか?」

「そうです、しかしその人物も信長様に仕えていました」

「同胞殺し…ですか?」


五郎の言葉に軽く頷いた長秀は話を続けた。


「ただその人物は問題がある人でして、信長様も処遇に困っていました」

「そこで、利家君を本来なら打首になる所でしたが戦への参加と浪人としたのです」


まぁそれも、私も含め家臣の一部が信長様へ取り成した事もありますけどね。と長秀は話を区切ると。


「五郎殿も気をつけて下さいね~?」


その台詞に眉間に皺を寄せて情けない顔を見せた五郎であった。




そんな二人が鍛錬を続けて一時間も経った頃、五郎が地べたに寝転んで休憩していると。

ドドドドド!と地震でも起きたかのような地響きが聞こえてくる。

五郎が何だ何だ?と身体を起こした瞬間、目の前が真っ暗になった。


「おいコラ!五郎!お前が新参者だったんじゃねーか!」


五郎が物凄い勢いで走ってきた利家に身体を押さえ付けられているのに気づくは時間が掛かる事になる。


「ちょ、ちょっと!タンマ!ギブギブ!」

「タンマ?ギブ?なんじゃそりゃ!くらえ!」

「痛い痛い!いたーい!」


五郎が情けない悲鳴を上げながら苦しんでいると、遠くから助け舟が姿を見せる。

五郎の目に映ったのは大笑いしながらこちらに歩いてくる柴田勝家その人だった。


「おい、犬!放してやらんか!泣きそうな顔になっているぞ」


勝家はそう言いながらも笑いを隠す事なく近寄ってくる。


「えぇ~!でもこいつは俺を騙したんですよ!?」

「阿呆!それはお前が何も考えずに五郎の言葉を鵜呑みにするからだろうが!」

「あいて!」


勝家に頭を小突かれると、利家は渋々五郎を解放したのである。


「か、勝家さ~ん!助かりました!」

「何だ、思ったより元気じゃないか」

「いやいや!今見てたでしょう!腕が折れるかと思ったんですから!」


五郎が若干涙目で腕を見せると勝家は再度大笑いするのであった。

もし、長秀が席を外していなかったら勝家と共に笑っていたでろう。

それ程に五郎は利家の襲来に怯えていたのである。




「がるるる!」

「ひぃ!」


今にも噛み付いてきそうな利家の唸り声を聞いて悲鳴をあげた五郎は、長秀や勝家が[犬]と呼ぶ理由がなんとなく理解できた。

(犬は犬でも猛犬じゃないか!可愛くない!)

いつ噛み付くかわからず、逃げ出す準備をしている五郎に勝家は話しかけてきた。


「大丈夫だ五郎、怖くないぞ~」

「怖いですよ!?」

「可愛いもんじゃねぇか、若いっていい事だと思わんか?」

「限度がありますよ!げ・ん・ど・が!」


必死に勝家に訴える五郎だったが、勝家はどこ吹く風といった態度を崩さなかった。

それにしても二人は何しに来たのだろうか、長秀に用があるのなら自分の事は放って置いてくれないかなぁと思ってしまう。


「この犬を最近清洲で見かけると報告があってな、信長様が知ったら何をなさるかわからんので首輪を付けにきたのだ」

「それで何故此方に?」

「犬がお前を見定めるまで何処へも行きたくないと駄々をこねたのだ」

「も、もしかしてそれだけですか…?」


五郎が震える声を出すと、勝家は何か問題でもと言いたげな顔を見せる。


「まぁ仲良くしろ、根はいい奴だ」

「でも、利家殿はこっちを睨んでますけど…」

「ふんっ!」

「あいてっ!」

「酷いよ勝家さん~!」

「ちったぁ落ち着け!」

「ちぇっ」

「あん?」

「何でもないです!」


二人のやり取りを見た五郎はまるで親子みたいだなぁと思って可笑しかった。

身体を震わせて笑いを堪える五郎に気づき再度唸り声をあげる利家を勝家が小突く。

この日は夜が更けるまで同じ漫才が繰り広げられる事になる。

その様子をいつの間にか窺っていた揚羽が額に手を当てて眺めていた。


「今夜は騒がしい夜になりそうですね」


そう呟いてそっとその場を離れる、後に残ったのはワイワイと騒ぐ三人の姿であった。


とんでもない青年と知り合った五郎、この血気盛んな青年と仲良くなる事ができるのだろうか?五郎が利家を手懐けるのが先か、それとも利家が五郎に噛み付くのが先か、また一つ五郎の悩みの種が増えた一日になったのであった。

会話が多くなって読みやすさが崩れないかが最近心配している船長です。


毎日投稿を目標にしていますが、一日一日書いて投稿している為。

苦しくなったら更新頻度が落ちるかもしれませんm(_ _)mその時はご了承下さい。

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