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霧の摩周湖  作者: 赤影
1/3

北海道へ

僕は「霧の摩周湖」を絶叫して歌っている。

会社の近くの小さなスナックだ。

「亜紀ちゃんも歌ってよ!」

「何がいいかなー」

「なんでもいいから歌って」

亜紀が選曲した曲が流れた。

ショートカットに憂いのある瞳だった。

歌は悲しく聞こえた。

「ママこの店気に入ったから又きますね!亜紀ちゃんさようなら!」

これが亜紀との出会いだった。


この店に通いだしてから、1年ほどたった。

明日からはゴルデンウイークと言う日。


「亜紀!一人!」

「うん!ママすこし遅れるらしいの!」

「明日から連休だね!どっか行くの!」

「どこも行くところないもん!」

「新ちゃんは!」

「いい人でもいれば連れてどこかへ行ってもいいけど、一人ではね!」

「あたし連れて行って!」

「いいよ!・・・心にも無いこと言わないで!」

「本当よ!新ちゃんならいいよ!」

「それって!御泊りもいいってこと!」

「新ちゃん!いやらしいこと考えている!」

「えーばれたか!」

二人だけの店で、ヘネシーの水割りで乾杯した。

「実はね!」

「えー何々!」

「私には腹違いの弟がいるの!」

「へー!」

「小さい頃、私の父はトラックの長距離の運転手で、私の母と離婚した後に来た奥さんに男が生まれたの!」

「そうなんだ!」

「でも、その女の人も家を出で行ったの!その男を残して!」

「じゃ二人になったの!でも亜紀も小さかったんでしょう。」

「あたしは小学校5年生かな!」

「どうしたの!」

「3歳だった弟、あたしが育てたの!」

「へー小学校5年生で!」

「そう!お父さんがお金入れてくれなくて、電気が止まってろうそくで夜を過ごしたこともあったわ」

「亜紀苦労したんだね、水割りもう一杯作って!」

「はい!」

「それでどうしたの!」

「中1の時、弟が5歳どうしても育てられなくなって」

「どうしたの!」

「母親が北海道の留萌に住んでいて、父親とトラックで・・・」

亜紀はもう涙が止まらなくなっていた。

「苦しかったら、言わなくていいよ!」

「いいの!新ちゃんに聞いてほしいの!」

「誰もお客さん来ないし、ぼちぼちでいいよ!」

「留萌まで弟を、母親に渡しに行ったの!」

「そう!離れたくなかったでしょう」

「もちろんよ!」

又亜紀の瞳から涙が溢れた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんね!新ちゃんお客さんなのに。」

「お客さんなんて思っていないよ!亜紀もそうだったら話す気にならないでしょう!」

「うん!」

「そうして、どうしたの」

「留萌の駅で弟を母親に手渡したけど、・・・・弟はあたしの名前をずーと呼んでいたわ!」

「2年も一緒に生活したが、彼には亜紀が母親だよな!」

「その弟が今年の4月に高校を卒業したらしいの!そして札幌に就職したらしいの!」

「そうなんだ!」

「風の噂だけど!」

すこし沈黙の時間が流れた!

「亜紀!北海道行こう!行こうよ!」

「どうやって、もうチケット取れないでしょう」

「車で行こう!交代で運転して、青森からならフェリーに乗れると思う。」

「会えるか解らないけど!とにかく北海道に行ってみよう!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「行こう!店は1時で終わりだね!それから走ろう!」

「本当に!」

「本当だよ!休みは1週間あるし、店はその間2日休めばいい!」

「行こうか!」

「行こう!今9時だから僕これからか帰って少し休むから、亜紀のところは2時でいいかな!亜紀目が腫れているよ、ママ来たら驚くから気をつけて!じゃ!」


僕は亜紀のアパートの住所を聞き、すごい浮き浮きして店を後にした。




愛車のキャデラックSTSを満タンにしてオイルを交換し、足回りを点検し亜紀のアパートへ行った。

亜紀はバック一つ持ち、アパートの前で待っていた。

「新ちゃん!」

亜紀の顔は店での泣き顔から、晴れ晴れした顔に変わっていた。

「さ!出発!亜紀は疲れているでしょう、眠っていいからね、シートはそこのレバーだから」

「解った!」

金沢西インターを登ったのは3時少し手前だった。

「新ちゃん安全運転でね!」

「大事な人乗せているのに、勿論です。」

「眠くなったら、言ってね」

「解ったよ!」

僕は自然と亜紀の手を握った。亜紀は微笑み返して直ぐに眠ってしまった。

CDからは、ビリバンバンの焼酎のCMに変わった、音を少し落としルームミーラを亜紀の寝顔に合わせ、140kくらいでオートドライブに設定して走り続けた。

亜紀が弟と会った顔を想像して、自然と顔をほころんだ。



新潟中条で高速を下りて、国道7号戦を北上した。

村上市に入り、喉が渇いたのでコンビニに入り棚を見ていると、

「新ちゃん!」

「おきたのか!何か飲む!」

「これ買って!」

「びっくりしたな!もう!」

「びっくりさせようと思ったんだもん!」

とケラケラ亜紀は笑った。それがとても可愛く見えた。

亜紀に運転を代わって時間を見ると7時、青森は遠いと感じる。

亜紀に外車は日本車と方向指示器のレバー反対だからねと言ったのに、直ぐにコンビニから国道に出る時に間違えていきなり笑いこけた。


サザンをボリューム最大にして、二人で歌いながら走った。

周りは完全に明るくなった。


僕は弟に会うために、整理をしようと考え、亜紀に現在分かっていることを質問した。

1、留萌に母親がいた。

2、弟は今年高校を卒業した。

3、母親の名前

4、弟の名前

5、留萌に祖母がいた。

6、弟は現在札幌にいる。

7、母親の年齢

解ったことはこれだけ、これで探しだせるだろうか!と不安になる。

「亜紀!これだけ解れば充分だよ」と心にも無いことを言った。

「目的は留萌だ!GO!」

亜紀は明るく言った。


青森に着いたのは14時、フェリーの順番を待つ車の多いこと!

チケットは確保したが、係りの人には夕方になると言われた。

僕達は車の中で爆睡した。

係りの人にボルネットを叩かれ、やっとのことで起きてフェリーに車を乗せた。


津軽半島の点々とした、淡い光を甲板から眺めながら、

「新ちゃんごめんね!」

「何故!」

「こんなことにつき合わせて、連休台無しだね!」

「何言ってるの、僕は楽しんでいるよ!弟と会ったら摩周湖に行こう!富良野も行きたいし!」

「うん!」

「だから、そんなこと言わないで、僕も楽しんでいるのだから、家にいても寝てるだけだったんだから」

「解った!ありがとう!」

亜紀は弟のことを思っているのだろう、不安そうだった。


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