部活見学
高校生活は、学業だけじゃない。
委員会活動と部活動も、数ある一つに含まれる。
核探しという任務がある以上、学内を隈なく歩けるだけの正当な理由が欲しい。
別に隠密理に侵入など朝飯前なのだが、期限に猶予はあるので正攻法で今回はいくつもり。なので、面倒くさい気持ちを押し殺して、前回までは所属しなかったその二つに入ることにした。
緑化委員は人気生徒が所属していなく、立候補が居ない不人気枠だったため、あっさりとなることが出来た。活動もまあ、地味だ。でもこれで、言い訳の材料が一つ増えた。
そして、部活。放課後の校舎に残るのに、最も最適な言い訳材料。
長時間拘束される運動部は、身体を動かす点では心惹かれたが我慢。最終的には活動がゆるい文化部のどれかに決めるつもりだが、折角の仮入部期間。各部室なんてこういう機会でもないと、正攻法で訪れるのは難しいので、期間中にできるだけ回る……つもりだった。
いや、予定では何も問題ないはずだった。
布川とか、親しくなったクラスメイトたちとかと一緒に回るのは楽しかった。
身体能力だって、男子高校生の平均よりちょい上程度にはセーブ出来てたから、熱心な勧誘もなかった。
だから適当に回った後、ギリギリでホスト担任に入部届を提出するつもりだった。
だけど、その予定を大きく変えざるを得ない状況になる。
鹿島が転入してきた時期は、既に期間も半ばを過ぎていて、一年生の大半はすでに入部を済ませていた。熱意のある部活だと、すでに本格的に活動を始めてもいる。
そんな中、何も知らない状態の鹿島が部活に興味をもった。彼が転入してきてから親しくなった者は、既に入部済み。生徒会の皆さんもさすがに今の親密度では、仕事を放ってまで構うことはない。
さて、そんな一人で行くという考えは、絶対に浮かばないであろう鹿島が、目をつけたのは当然のごとく私だった。私が未加入だって情報は、ホスト担任からだって。ったく、何勝手にバラしてくれやがるんだ、あのエセホスト。
「なあ、なあ、どこ行く?」
誘い文句でもないそれに、苦笑もでない。
彼の中ではすでに一緒に行動するのが決定だなんて、こっちの都合なんて一切考えてない自分勝手さがにじみ出る。
別に部活巡りする予定だから構わないはずなのに、些細な一言一言が気に障る。
ああ、もう彼が口を開く度に不快感が澱のように積もっていく。
これが戦場で対峙した敵ならば、殺して終わりにできるのに。
……思考が、平和な平成の日本の男子高校生には、少々不適切レベルだ。 やばいな、上司にバレたら説教ものだ。魂に怪我を負わせ悪影響を与えるような一部能力の行使は、報酬が減額されるから気をつけなければ。
まさか、ここまで王道主人公に生理的嫌悪感抱くだなんて、前回までは思わなかった。
冷静で居られないのは、今後を考えるとまずいから、少しでも嫌悪感を緩和しようと、ない知恵絞って考えたんだが。相手の人格改善など向こう側の努力が必要なもの以外で、私に出来そうなのは、一つしか思い浮かばなかった。
ヅラの没収。
あのもっさり感満載で、手入れが雑すぎて日に日に不潔感が倍増しているアレだ。
別に、見た目の問題ではない。
あれが、この箱庭が用意した核のダミーの一種で、フラグ管理の目印だからだ。
核を探している私にとって、ダミーは感知能力を乱すもの。それが、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってやつで、鹿島の一挙一投足を負の方向で過剰反応してしまう遠因だろう。
まあ、鹿島自身に好感が持てるかは別問題だが、少なくともアレさえなければスルーできるレベルだろう。多分、きっと、そうだといいなぁ。
だが、今下手にあのヅラを没収し、破壊した場合のことを考えると、二の足を踏む自分がいる。
単なる直感だが、トラップでもある気がするのだ、アレは。
手を出したが最後、私は確実に舞台の中心に立ち、舞台が壊れるまで立ち位置を変えられない気がする。
私とて内部に居る以上、この世界のお約束を完全に無視出来るわけじゃない。
お約束に自身が侵食されてしまえば、任務の達成どころか己の貞操すら危うい。
仮初の容姿を一皮めくれば、本体だ。さすがに、そういった経験を積みたいとは思わない。
「なあ、無視すんなって。」
答えが出ない私に、頬を膨らまして腕を引っ張ってくる。
衝動的に振り払いたくなったが、不必要なほど強い力で掴まれていたため服の安全を考えて堪えた。
落ち着け。下手に反抗して、更生してやるっていう寝言をまた吐かれては面倒だ。
とりあえず、ヅラの件は保留。すり替えるって手もあるが、換えの品がない以上、今は手を出さない。
「別に、無視した訳じゃない。今日の見学先を考えてただけだ。」
嘘ではない。鹿島に話しかけられる前までは、確かに今日の見学先という名の部室探索を考えていた。
「え、そうだったのかぁ。でも、返事くらいしろよ。」
井原のフォロー発言を無視しまくりのお前が言うな。
「あ!俺、サッカー部見に行きたい!」
唯でさえ遠くまで響く声を、こんな近場で張り上げるな。
「サッカーだったら、笹原と一緒に行けば良かったのに。あいつ、期待の新人って言ってただろ。それに、俺、もうそこは見学済みだからいかない。」
「マジ?誠司って凄いんだな!なら、応援してやろうぜ。」
……部活見学の話だよね、今。
期待の新人、笹原総司くんは、結構あからさまに部活を絡めて自己アピールしてたよね。彼からサッカー部勧誘されてたよね。
それに私、行くの拒否したよね。
「頑張ってる奴みると、やっぱ応援したくなるよな。」
どうしてそう言いながら、腕を引っ張られてるのかな?
袖、破れそうなんですけど。
「だから、既に見学済みだから行かないって。」
「そんな照れるなよ。同じクラスなんだから、応援してやろうぜ!」
誰が照れてるか!人の話を聞け!!