お約束ですね
さすが王道主人公。
モブでは出来ないことを、なんとあっさりとやってのける!
そこに痺れる!憧れない!!
いや、茶化さないとやっていけない。展開の速さについていけない。
井原くん、君ちゃんと説明しておいてあげなよ。
この学内では顔面ヒエラルキーがある。それがキモっさりヅラで怪しさ爆発ヒエラルキー下位の鹿島が、頂点の生徒会役員、しかも会長に喧嘩売るのは自殺行為だって。
そちら方面からでなくても、権力者の子息設定の彼らには取り巻きが多いのだ。少なくとも、反感は買う。
テンプレお約束だから避けられる展開ではなかったとはいえ、せめて私が同席していない時にしていただきたかった。
理不尽だって?
この箱庭自体、作成者のエゴで出来ているんだ。今更、理不尽の一つや二つ、お約束だって割り切るしか無い。と、口に出しで愚痴ったところで理解できないだろうから言わないけど。
何となく意識を逃避したくなったが、別に私が弱い人間だからではない、多分。任務がやりづらくなったなぁとか、ちょっと思っただけだ。
能力セーブしているけど、相手が暴力振るった際に殺さないで済ますのは、破壊特化の私にはキツイんだからな。暴れられないイライラが募る。
「ふざけんな!!」
バシンと、何かを叩く音。
逸らしていた視線を戻す。
視線の先では、会長の顔を叩いた鹿島の姿がある。
音からして平手打ち?拳骨でいかなかったのは、反動を考えてか手加減か。
一拍の静寂の後、すさまじい木綿を切り裂いたかのような悲鳴が食堂を満たした。うるさい。
そう、テンプレを知っている人間なら何が起きたか分かるだろう。
食堂に足を踏み入れてから、今の間に流れるようにお約束を展開してくれやがったのです。
まず最初に、クラスの人気者二人を両手に侍らせながら、食堂の設備の豪華さに驚いた彼はオムライスを頼み席に付きました。この時点で、すでに彼へと嫉妬の視線が注がれ始めていました。
まだ人気はクラスレベルの二人とはいえ、すぐにでも親衛隊が作られそうな美形二人といちゃつきながらの登場。嫉妬されるのはしかたのない事でしょう。
同性といった点を除いてもリア充爆発しろ!な彼の食事姿を、断固として視界に入れたくない私は、一番彼から遠い席に座り日替わり定食を頼みました。
この程度で済めばいいなと、無駄だと思いつつ祈りながら粗方食べ終えた頃事件は起きました。
食堂に生徒会役員全員が、一度に現れたのです。
そしていつの間にフラグを建てていたのか、副会長が鹿島を見つけてこちらにやって来ました。
その後は、めまぐるしい会話の応酬。
副会長のお気に入りってどんなやつか興味津々の生徒会の皆さんと、取られそうになって苛立たし気なクラスの人気者二人の鹿島を巡る低レベルな争い。
口を挟むわけにもいかず、この場を動くことも出来ず、終わらないかなぁなんて漠然と思っていたら急展開。
焦れた会長による鹿島への唐突なキス。
すごいね。どういう思考回路なら、そういう行動に移ろうと思うんだろうね。
で、さっきの鹿島の発言に場面は戻るわけだ。
うん。会長は叩かれて当然だね。セクハラ飛び越えて、強制猥褻みたいだし。
周囲の叫んでいる人々は、違う意見だろうけど。あ、ハンカチ噛み締めてる人がいる。凄いな、あの形相。
「お前、気に入った。」
なんて言って、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた会長は、きっとドMに違いない。大変だ。変態だ。
鹿島の周りでは、会長の発言に煽られるように更に美形たちが騒ぎ、それに呼応して周囲も騒いでいる。当分収まりそうもない。
そして、私と同席の二人も顔色が酷い。
井原は、馬鹿ではない。同室者の鹿島の行動とそれに対する周囲の反応に、自分の今後をほぼ性格に予想したのだろう。この学内で一番懐かれているのが彼だ。確実にあの騒動の中心に立たされることだろう。
決して悪くはないが、こうまで美形が多い中だと平凡となってしまう彼の容姿では、ヒエラルキーがそのまま彼の敵となる。
すでに可哀想になるくらい、顔は青褪め、手は胃のあたりをいたわるように撫でている。
布川は、馬鹿だ。自身が待ち望んでいた光景に、内心を隠しきれず鼻息が荒い。鼻血が出ていないのが不思議に思うほど、頬は紅潮し興奮しているのが分かる。自分が巻き込まれるだなんて、少しも予想していないのだろう。布川は一応美形ではあるので、批判の矢面に立つことは無い今はそれでもいいのだろう。
私の気持ちは、井原よりだ。どうやら私は鹿島の友人らしいので、鹿島が私の名を呼ぶ限りあの輪に巻き込まれるのは時間の問題だ。
任務がある以上、破壊で解決できないのが辛い。
だから、箱庭任務はイヤなんだ。
で、案の定。
それまでそれなりに平和だった学内に、王道くんを中心に陰湿な思惑が渦巻くこととなった。
平和だったのは転校初日の夜まで。
翌日、もう食堂に誘われないようにと弁当を作った為に、いつもより遅く校舎に向かえば、そこには、見本として残しておきたいほど悲惨なデコレーションにまみれた座席と、憤る王道くんの姿を目にした。
「誰だよ!?こんな!ひでぇ!」
委員長とサッカー部くんは、そんな彼を宥め慰めようとしているが、残念なことに通じてはいなさそうだ。憤る彼が発する言葉は、感情のままに疑問符感嘆符付きで前後のつながりがなく、感情しか伝わらない。
井原と布川はどうしているかと、教室内を見渡せば王道くんたちを囲む人の輪の外側に隠れるように立っていた。
井原の顔色は真っ青だ。可哀想に。
早速お約束とも言える、親衛隊による制裁という名の陰湿ないじめ。
油性マジックによって、罵詈雑言がカラフルに書かれた机の上には、高そうな仏花が見事に活けられた花瓶。労力と費用は結構かかってそうなそれは、きっと昨日のことの警告で、制裁開始を告げるものだ。
前回も私が学外に出て不登校だった時期に、似たような事が起きていたかもしれない。今となっては確かめようがないが。
ここまで周囲にあからさまに行うなんて、良心なんて抑止力には期待できない。手間暇惜しまない敵相手に、近くにいれば確実にとばっちりを食うこと間違いないだろうな。井原くん、まじ不幸。
それにしても王道くんたち。
騒いでいるのはいいが、そろそろそのオブジェ何とかしないとHR始まっちゃうよ。
腐男子トーク
○井原冬馬について
布川「王道の同室で世話やきな性分。まさに巻き込まれ型脇役主人公。地味にイケメン。女子力というよりオカン力。序盤は不遇だからこそ幸せになってほしい!」
榊「だからって、ノーマルに同性を進めてどうする。」
布川「え、何、それって嫉妬?榊×井原キタ!?」
榊「きてない。」
布川「いやいや、遠慮するなって。不良に間違われて内心傷ついている榊が、包容力あふれる井原によって癒やされる内に、愛がめばえ、って、イタ、イタタ、イタタタタタタァ!!ギブ!ギブ!」
榊「本人と会話してるのに、そんなこと考えてる頭はいらないよねぇ。」
布川「何で片手でそんな、イタ、潰れる!潰れちゃう!」
榊「安心して。片手でも十分握りつぶせるから。」
布川「ダメ!死んじゃうから!」