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再認識

 食堂は、案の定混んでいた。

 現在、入寮を済ませた生徒は全体の半数以下だろうに、何故ここまで混んでいるのか。

 簡単なことである。

 王道学園モノのお約束である。

そう言ってしまえば身も蓋もないが、ちょうど昼時ということもあるし、人気生徒の皆様の出没時間でもある。

 私の隣でトレーを持って空席を探している布川も、そういったネタとなる方々目当てでこの時間に食事に来ている。隅の目立たない場所なら空いているのに、人気生徒を見るためのベストポジションを探している布川はそちらの方に見向きもしない。

 面倒臭いが、誘導したところで聞く耳持ち合わせていないだろうから、諦めて付いて行く。

 何とかラーメンがのびる前に席に付くことができたが、布川が見つけた席は食堂の中央付近。私の真っ赤な髪と強面に、さっきから視線がうるさい。

 怖くないよ~。怯えないでいいよ~。


「榊、機嫌悪い?」


「いや、大丈夫。ちょっと熱かっただけだ。」


 思わず寄った眉間の皺を目ざとく見つけ、布川が首を傾げる。あざとい。

 自分をフツメンとか言っちゃう無自覚美形とか、あざとすぎる。

 ラーメンを冷ます振りして、会話を切り上げる。

 布川も私の機嫌より、人気生徒がいつ来るかと食堂の入り口が気になっているから、不躾でもないだろう。

 黙々と半分まで食べた頃、入口付近で歓声があがる。

 人気生徒のお出ましだ。

 すごいね、周囲との顔面格差。

 周囲とて不細工というわけでもないのに、視線が集まる彼らはまさしく美形。存在感が段違い。

 入寮したばかりの新入生にしても、まだ学校が始まったわけでもないのに、人気生徒目当てがいるのは、ここにいるほとんどが内部持ち上がり組だからだろう。

 それに、人気生徒は学校生活において、大勢の人間の衆目を集める生徒会だったり、部活のエースだったりする。学校が始まれば、今歓声に戸惑った表情を見せる一部の人間も直に人気の高さを知り、熱狂ぶりや非日常に染まっていくだろう。

 朱に交われば赤くなる、だっけ?こういうの。

 情報遮断、外出禁止されてないんだから、異性との出会いもあるだろうに。舞台の設定とはいえ解せぬ。


「キタコレ!」


 向かいでカレーを食べていた布川が、思わずと言うように心の声を漏らしている。

 歓声で掻き消えてはいるが、さすがにこの距離で聞こえないわけがない。まあ、下手に突っ込むと面倒なのでスルー。

 布川は外部からの進学組なのに、人気生徒を知っているのは腐男子だからなのだろう。これもお約束。

 学外にそういった同性愛が当然な学校だって知られているのに、名門校で進学希望者が多いとかって現実だったら嫌だわ。

 別に差別じゃないけど、同性愛って、どうしたってマイノリティ。親ならば、わざわざ子供を同性愛者に仕立てあげようとはしないだろう。

 舞台の設定とはいえ、こう首を傾げざるを得ない状況になると気分が重くなる。


「なあ、榊。榊は持ち上がりだろ?なんで、皆が彼らに騒いでいるか知らない?」


「ああ?」


 布川が、先ほどまで興奮していたことを隠すように、彼らを一瞥以降視線もやらない私に声を掛ける。

 彼らのことを知っているだろうに、態々聞いてくる。きっと、興味なさ気な私が彼らと何か因縁があったりとか、妄想しているんだろう。

 目が期待に輝いている。鼻息荒い。

 勘弁してくれ。期待に答えるつもりはない。

 いや、中の人的には普通に男の人恋愛対象だけどね。こんな設定に縛られた傀儡に恋できるほど、恋愛に興味があるわけじゃない。

 だが、質問に答えないのも、彼の妄想を育てるだけで良い結果にはならない気がしたので渋々答える。


「中等部にも親衛隊がいる生徒会役員だよ。眼鏡の人が副会長で、その隣が会長。」


 視線を衆目を集める彼らへ向け、一番目立つ二人を紹介する。

 ワイルドで無意味に自身に満ちたのが会長で、眼鏡のサディスティックさを微笑で隠しているのが副会長だ。どちらも美形。二次元だったら萌えられたのにな~。やっぱ、三次元で萌えるの私には無理だ。せめて2.5次元だな。うん。


「へえ、親衛隊だなんて、すごい人気なんだね。」


 布川はそんな人気生徒による大名行列を見て、感心したように、そして興奮を隠すように息を吐く。

 おいおい。ファンクラブじゃなくて、親衛隊で通じるのかよ。

 そこ突っ込みどころの一つだと思うんだが、違うのか?


「まあ、生徒会なんて人気投票で決まるようなものだろ。」


「人気投票ねぇ。何、人気ランキングとかあるの?抱かれたい男とか。」


 腐男子隠す気無いだろ、こいつ。

 男同士のランキング付けで、どうして抱かれたいになるんだ。あるけど。

 前は会って早々に、腐男子カミングアウトさせていたから気にもしていなかったが。こいつ相手に気づかない振り続けんの、キツイかも。適当なところで、気づく振りするしかないなぁ。


「……まああるな、そんな感じのランキング。上位常連は親衛隊があって、一応統括しているところが学校後任の同好会としてあるから、入りたいならそこ行けよ。」


 うん、鼻息荒いねお前。

 興奮隠しきれなくて、何かドゥッフって聞こえてきたぞ。大丈夫か、お前の喉。

 残念なイケメンっていうの、こういうの?


「えっと、親衛隊があるってことは、やっぱり抜け駆け禁止とか……制裁なんてあったりするのかな?」


「さあ?親衛隊に入ったこと無いから、知らね。あーでも、熱狂的な奴が多いから、あるかもな。」


 知らぬふりをしたが、実際はある。

 こういった話のテンプレですね。

 というか、詳細は知らないが、前回はその制裁がきっかけで、布川が薔薇の花を咲かせたのだけど。

 相手誰だったかな?……だめだ、そこまで覚えてないわ。


「……榊は、彼らとかそういった人に、興味はないのか?」


「ない。」


 ここであるなんて言おうものなら、速攻妄想のネタだ。いや、否定でも都合よく妄想のネタにしそうだが。

 一応、言葉足しておくか。


「下手に関心持って、変な因縁付けられるの嫌だしな。俺、こんなんだし。」


「こんなって、髪のこと?似合ってるよ。」


 フォローなんだろうが、お前が言うと含みがありそうでなんか嫌だ。

 それにしても、私も妄想の対象なら、主人公にフラグを立てられそうになるかもな。あ、想像したら、鳥肌が。余計目立ちたくないな、本当。



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