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三度目の始めまして


 この世界は、薔薇で満ちている。

 実物ではなく、隠語的意味合いで。

 嫌な世界だ。

 昨日ついに、三回目の4月2日を過ごした。この箱庭において男子高校生という役割に立った私の三度目の入寮日だ。

 二度目の繰り返しで、この箱庭が約一年でループする仕様だと仮定できた。

 まあ、核の在処以外は色々と分かったことはあった。だが、一番の収穫というか、一種の絶望というか、核の在処に関する重要案件である箱庭の中央、舞台の中心が分かった。

 箱庭における薔薇の最大繁殖地。

 奥道印高等学校。

 校外にある全寮制男子校。古く伝統ある名門校で、各界の著名人の子息や生来を有望視されている生徒が数多く在籍している。いわゆる金持ち私立高だ。

 はい、王道ですね。テンプレですね。

 箱庭に拉致された魂の多くは、この学校関係者へと役割を振られ、何一つ違和感を感じること無く、舞台上で喜劇を演じている。演じなきゃいけない私には、ものすごく悲劇ですけどね。

 箱庭の性質上、核はここにある。と、言うか、最初この学校の生徒となった私は、舞台に上がるのが嫌で、通学せずに時間の殆どを学外を徹底的に調査することに当てていた。

 結果として、学外に核はなく、三回目にして諦念の私は、学内の調査を開始することを決意した。嫌だけど。

 唯でさえ男性化する際に居合わせた同僚たちの悪乗りのせいで、赤髪強面長身の細マッチョな不良風という目立つしか無い外見で、今更で面倒くさい高校生活を送らないといけないのに、周囲が薔薇咲かせていたら苦行だろう?

 しかも、しかもだ。

 箱庭作成者の意図なのだろうか。この箱庭の舞台には主人公らしき人物が複数いる。彼らは蟲毒が無事なった折の主体になれと、指定されているのではないか。周囲が彼らを中心に構成されている。

 そして、まあ見事に薔薇畑の中心であり、促進剤だ。きつい。

 おまけに、そのうちの一人と寮の同室だったりする。きつい。

 やーめーろーよー。私にフラグ立てようとすんなよー。あざとすぎて吐き気がする。

 友人に冗談で三次元恋愛アレルギーとか言われたことあるけど、そんな病気あったら絶対に悪化してる。言い切れる。フラグ一つで、どんな人間も恋愛脳なスイーツ()に変貌とか、悪夢だろ。

 既に二回も薔薇の成長過程を間近で見ることになって、更に昨日、一部の人間と三度目の初めましての挨拶をした。無駄に美形ぞろいだ。薔薇の花がもれなく咲くけど。

 BLに限った話ではないけど、学校生活が舞台で恋愛フラグがそこかしこで頻繁に発生する状況なら、物語の結末は主人公の恋の成就が定番だろう。もしくは卒業式からの未来をチラ見せか。

 で、現在ループしたからには、先の3月末日までに主人公は作成者が指定した条件を満たせなかったのだろう。私が把握している限り、主人公候補たちはそれまでに恋人を作れていなかった。

 だから考える。

 この箱庭の蟲毒の達成条件は、主人公の恋の成就ではないかと。ただ、それだけでこれだけの人数を配置する必要はないだろうから、ゲームでいうところのハーレムエンドなのかもしれない。

 つまり、私が核を見つけ破壊するまでループを終わらせるわけにはいかないのだから、彼らの恋の成就も阻止する方向で動かなければいけない。きつい。

 唯でさえ、周囲でイチャコラされるだけで精神がガリガリ削られているというのに、薔薇色リア充候補の邪魔をするというある意味横恋慕に近い好意をしなければいけないなんて。きつい。

 物語仕立ての箱庭は、予測と対策が立てやすい分、介入者としては精神に深刻なエラーが発生する危険がある。役割に自分が飲まれてしまい、任務を忘れてしまうことだ。

 気づいたら自分も一輪の薔薇になっているとか、嫌過ぎる。

 現在、自室に運び込んだ荷物の荷解きとして、一人部屋にこもっている。荷物は私が箱庭に持ち込んだものではなく、この学園に通う生徒の生活レベル相応と箱庭が設定したものが運び込まれている。

 私の立場は、それなりに金のある家の子供で中学からの持ち上がり、内部組だ。だからか、そこそこ良い物がダンボールに収められている。

 通帳だって何処から振り込まれているやら、定期的に入金がなされている。舞台に上らない人物は、設定だけ居るということになっていて、姿を表すことはない。

 顔も見せない彼らを舞台上の人間は、何の違和感も抱かずに過ごしている。箱庭の恐ろしい一面だろう。

 

「つか、最初からとか。マジめんどい。」


 つい一昨日まで、きちんと収納されていた荷物をもう一度しまい直さなければいけないことに溜め息が出る。

 整理整頓は苦手じゃないが、面倒でしょうがない。

 基本的に私は感覚で動く人間で、理論というか計画立ててそれを実行するというのが苦手である。

 任務なら能力の暴発を避ける意味合いもあって、そういったサポートがうまい人がつく。だが、今回内部に居るのは私だけだ。外ではきちんとサポート役が頑張ってはいるのだろうが、現状自分一人で全てこなすしか無い。

 つまり、人間関係がリセットされた今、この荷物の整理を誰かに頼むことも出来ない。

 逆に、以前のループで知ったことを隠して、初対面から再構築し始めなきゃいけない。

 面倒。まじ、面倒。

 薔薇を咲かせる人物はいかにもなテンプレ揃いだが、抱える秘密もテンプレ設定揃いの面倒くさい子ばかり。学外を中心に活動していても見聞きしてしまった位には、周囲に大きな影響を与えるほどの地雷でもある。

 基本的にコミュニケーション(物理)が多い私としては、接触しないのが一番の回避方法。なので、今後の調査で核が彼らの所有物に擬態していた場合を考えると、今から憂鬱である。

 破壊殲滅は最後の手段って、念押されたからなぁ。

 溜め息が出る。


「どう?まだかかりそう?」


 共有部分とこちらを隔てるドアから、ノックと共に声がかかる。

 同室の人間、布川弾の声だ。

 立ち上がりドアを開ければ、頭ひとつ低い位置に、整った顔があった。日に焼けていない白い肌は、陶器のように滑らかだ。

 きれいな顔だろ、腐男子なんだぜこいつ。

 柔らかな微笑を浮かべている時なんて、要注意。脳内で身近な人間をネタに薔薇生産に勤しんでやがる。

 今は、関係がリセットされて、自分の腐男子思考がバレてないと思っているから大人しいものだが、バレたとなるとこちらを巻き込んでくるから厄介だ。

 今回は気づかないふりを貫こう。


「あー、まだかかる。」


 そんな色々を面倒という感情でくるんで、億劫そうに返事を返す。

 ドア枠に身体をもたれかからせれば、体勢と身長差のせいで相手を覗きこむ形になる。


「そう。食堂で飯一緒にって、思ったんだけど。どうする?」


「ん~、折角のお誘いだ。ちょっと待って、一緒に行く。」


 荷解きが終わっていないのに、自炊するのも面倒だ。

 食堂で遭遇するであろう面子のことを考えると、二の足を踏みたくもなる。が、金持ち高だけあって値段相応に味もいいから、懐に余裕がある現在、食べに行く方に気持ちは動く。

 それに、今回は学内の舞台に上がると決めたのだ。

 関係がリセットされるまでの一年という制限時間。初めましての一度や二度、後回しにすることでもないだろう。


すでに三周目突入の榊聖。

赤髪強面長身の細マッチョ不良風の男子高校生です。

それまで学内で過ごさないようにしていたので、生徒に関しては特に目立っていた部分しか知りません。

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