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恋愛対象

 スーパーから帰って来た時にはもう既に志織の姿は無かった。かわりに学校から帰ってきた、着替え途中のしずくがそこに居た。

「お帰り、どこ行ってたの?」

しずくがみさとに質問する。みさとは買ってきたお菓子を自分のベットの上にのせながら答える。

「スーパー。これでしばらくはお菓子は持つかな」

ははは、と笑いながらみさと自身もベットに座る。志織に言われたことは気に留めずいつも通り他愛の無い話を始めた二人はいつも通り夕食までの時間を楽しく過ごした。


夕食後、

「しぃ〜〜〜ちゃぁ〜〜ん」

と瑞乃がしずくに体当たりのごとく抱きつく、それによってしずくは体制を崩すがかろうじて倒れずにその場にとどまる。

「会いたかったよぉ〜、ごふっ」

しずくへの愛を表現しようと瑞乃は、年に似合わない色っぽい唇をしずくの頬に近づけようとした次の瞬間みぞおちにしずくの渾身の一撃を受ける。そして先ほど食べた夕食を吐きそうになる。そこまでしなくてもとみさとは少しきょどる。

「何すんじゃぁこの糞姉貴!」

瑞乃は腹を抱えながらさっきまで出していた姉に甘えようとしていた妹としての声は遥か彼方の記憶に消え失せ、今は地獄から這い出てきた鬼のような声で実の姉であるしずくを糞呼ばわりする。

「急に飛びついてきて、びっくりするでしょ」

実の妹に対して情け容赦ないエルボーを与えた上にさほど驚いてもいない様子でしずくは冷ややかに反論する。まさに見ていて炎と氷。寮に入ってからみさとはたびたびこの状況と居合わせるが、未だに慣れない。この姉妹は血は繋がってはいるものの姉妹らしくない上に性格も正反対、本当に同じ親から生まれてきたのか疑問だ、とみさとはいつも考えるのであった。そんなことを考えていると戦闘状態の瑞乃と目が合った。すると瑞乃は戦闘体制を崩しみさとにゆっくり近づく。近くにたつと年下の瑞乃の方がみさとより大きい。みさとは瑞乃を見上げる、瑞乃は優しく指先でみさとの唇触れる。

「みさとちゃん、びっくりしちゃたねぇ。こんな氷女無視して二人で遊ぼうよ」

「は?」

若干レズっ気のある瑞乃はもう片方の腕をみさとの腰にまわす、そして強く引き寄せる。危ない雰囲気に気がついたみさとは抵抗する動きをするが小さい上に力も無い、いや全くない訳ではない、瑞乃の方が年に似合わない怪力を所持しているのがいけない。みさとは自分なりに体をよじらせたりするが、あがけばあがくほどあり地獄のように相手の懐に入り込んでしまう。気がつけばずいぶんと瑞乃の顔が近い。

「あ、あのさ。こういうのって好きな人やった方がいいんじゃない?」

力ではかなわないとわかったみさとは瑞乃の説得に作戦を変更する。だが瑞乃はいたずらっぽく微笑むと色っぽい声でささやく。

「え?私みさとちゃんのこと好きだよ。ちっちゃくて可愛くてペンギンみたいで」

瑞乃の言葉が呟かれるたびに息が唇にあたるのを感じながらみさとは続けた。

「ペンギンみたいってどういうこと?いや、その気持ちは嬉しいんだけど。…ちょっ、ち、近い!」

「みさとちゃんは私のこと嫌い?」

「そういう意味はなくてただ、ま、待って、鎖骨はやめて」

瑞乃はみさとの鎖骨に自慢の唇を当てる、みさとは身をこわばらせる。その様子に見かねたしずくが瑞乃の頭をどつく。激痛の走った後頭部を押さえながら瑞乃はまたキャラ変しかけたそのとき、しずくが呟く。

「寮母が見てる」

その言葉に瑞乃は硬直し、向きを直し笑顔を取り繕い全力疾走で自分の部屋に戻るのであった。

「また明日ねー!お休みー!」

と言い残して。みさとはほっと肩をなで下ろした。そしてしずくの方に向き直して謝辞の言葉を述べる。

「ありがとう、助かったよ」

しずくはにこりと微笑むだけで何も答えなかった。自分の妹が醜態をさらしたことに詫びることも無く。本当にこういうところが実の姉妹ぽく無いとみさとは思うのであった。別に謝ってほしいとか思っている訳ではない、ただこの姉妹は本当に『家族』らしくない。そう、みさとはいつも感じるのであった。しずくはごく普通の女の子だし、みさとの自慢の親友だ。だけど、みさとは親友から放たれる見えない溝のような壁のような何とも言えない隔たりをたまに感じる。性格のタイプが人それぞれ違うって言うのはわかる、でもみさとはたまにしずくの人とは違う雰囲気や思考回路にたまにいらだったり疑問に思ったりする。みさとは永久凍土みたいなしずくの心を少しでも溶かして行きたいと思うのであった。

 みさとたちが部屋に戻ると志織がパソコンをせわしなく操作していた。それを横目にみさとたちは各々の宿題をやり始めた。みさとは宿題や勉強をするとき音楽を聞くので、背中で感じた志織としずくの会話を聞くことはできなかった。三人部屋なので一人は必ず余ってしまう。いつもは志織がどこかへ行ってしまうのだがたまにこうして部屋にいるとみさとが一人で何かして幼馴染同士の志織としずくが会話する形になる。たまに志織が話をふって三人で会話することもあるがそういうケースはほとんどない。みさとは特にしずくを取られたみたいな嫉妬の感情に苛まれることは無いがどこか寂しく思う自分がいるのは自身も認めていた。まぁ、出会った日も浅いし何より二人は幼馴染だし、といつもみさとは自分に言い聞かせる。志織としずくはお互いを特別視している訳ではないが遠慮をしない仲だというのが見ていてよくわかる。みさとはかなわない出会いの時の差に寂しさを感じながら、写真立ての中学時代の友人たちを眺める。そうして自分の感情を押し殺すのであった。

 志織としずくの二人の会話は就寝時間をすぎても続いていた。他愛のない話なら隙を狙って会話に混ざろうとみさとは思っていたが、二人が話している内容は少し哲学チックだった。哲学チックな話は嫌いじゃないが、こういう話は途中から仲間に加わるのにはかなりみさとにとっては難しい。あきらめてみさとは再びイヤホンを耳に装着して音楽の音量を上げて二人の声を聞かないように布団の中に潜るのであった。このとき少しだけしずくのことを考えた。

 しずくは頭も良くて音楽も美術もできて運動は少し苦手だけど、容姿も悪くない、背も高くてスタイルもいい、完璧ということはこの子の為にある。最初しずくを見たときみさとはそう思った。自分とはせ反対の彼女を見て。その瞳の奥は深海のごとく暗かったのを今でも覚えている。どんなに照らしても光が届きそうにないくらいしずくの瞳は奥深くにはそこの見えない闇があった。そんなしずくとみさとが出会ったのは高校入学してすぐみさとが寮にはいることになり、寮の部屋に荷物を運ぶとき部屋にいたしずくにみさとのほうから話しかけたのが始まりだ。みさとの質問や話しかけることに全て素っ気なくしずくは答えた。みさとは少しその態度にいらだちを感じながらも根気づよく話しかけた。そして時間が二人の溝を少しずつ埋めて行った。話してみるとしずくはどこかひねくれているけどそこが面白かったりして、また頭の回転も速く会話の返しもが面白い。ブラックなとこが彼女の魅力を際立たせているそのときみさとは思った、だから先ほど見た瞳の奥の底知れぬ闇も無理矢理だがみさとは納得した。発想力とか想像力には少し乏しいようだったけど、ものすごく面白い奴だとみさと思った。そしてしずくは仲良くなると面倒見がいい奴だということもわかった。最初は素っ気ない冷たい奴だと思っていたが、いざ仲良くなってみるとひな鳥みたいにくっついて来るみさとを煙たがることもなく、むしろちゃんと自分の後ろについてきているのか確認するような感じで最初の方はみさとの面倒を見てくれてた。今もあまり変わらないが、だいぶ学校生活に慣れてきて動く範囲が増えたみさとにしずくがくっついてくというのが今の状態だ。その状態は本人たち以外にはかなり驚きの目で見られていた。特に驚いたのはしずくの幼馴染の志織。長い付き合いの中で初めて見るしずくの面倒見のよさやみさとに対する優しさに驚きを隠せないでいた。過去のしずくのことを知らないみさとは周りの反応に少し疑問を抱いたが特に気に留めず、しずくとともに学校生活を送るのであった。

 そういうことを考えているうちにみさとは聞こえてくる音楽が遠のいて行くのを感じた。睡魔が優しくみさとを夢の中へと誘う。みさとは睡魔の誘いに心も体も委ね、夢の中へ潜り込むのであった。

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