それから
君と別れて私は海の見える町で暮らすようになった…それから
そして幾つも年月が巡り、私がここに住み始めてから風景が変わって行った。自動車が増えコンクリートが道を覆うようになって私も黒い髪から徐々に白く変わって行った、そして私以外に誰も居ない木の家には時々客が来るようになった…パタパタとサンダルの音をけたたましく立てて褐色に焼けた少年が玄関から飛び込んできて私の古ぼけた日記を見つめて
「おばあちゃーん、お婆ちゃんは昔旅人って本当?」と聞いてきた、気付けばもう50年も経っていたのを忘れていた。私はもう昔の声とはしわがれてしまったが辛うじて出る声で少年に当時の旅の思い出を語った、古い日記を1ページずつめくりながら。
そしてこの話が終わる頃には海が赤くそまり、少年は私の膝の上で夢の中に行っているようだ。
私は彼を優しく起こし、家に帰したときに日課の墓地に行く事にした。そう…それは相良誠也の墓だった、私は彼の白い肌と黒い髪はまだ鮮明に覚えている。もうこの歳になって恥ずかしいがまだ忘れられないのだ。
最近では毎日あの頃に戻って彼と旅をする夢をぼんやりと見ている、もうそろそろハッキリ見たいのに中々ハッキリは見えてこないらしい。
そして私は潮騒の音を聞いて眠る時に、畳を踏む音で目を覚ました古びた眼鏡をかけるともうしわがれた手ではなくあの頃の白くて肉付きの良い手だった。そしてお香の匂いがする着物ではなく、かつて来ていた旅用のロングワンピースだった。
彼は紅色の頬で最期の様な弱々しさは感じず、力強さを感じた、そして手を伸ばして「僕を連れて旅に行こうよ」と私の手を握って歩き出した。
そしてまた少年が来る頃には布団に横たわる私は冷たくなっていた、毎日来ていた少年は黒い半ズボンに白いポロシャツで泣きじゃくりながら献花の花を握りしめていた。そして私が埋まる最後の寝床は彼の隣の墓だった。
少年の母親は百合の花を供え、振り返る少年の手を引いて墓地から去って行った。
私は今は世界中何処でも彼と好きな場所を旅をする、どんな国でもどんな街でも…
白国からの旅人が完結します、次回作の構想も有りますのでもし宜しければ読んで頂けると嬉しいです。