鏡屋敷
着いていないな、次の最寄りの駅の町に行くと言うのに。此処で雨に降られてしまったようだ…
日暮れ町を出発し、次の中央まで行くのに地図を見たら次は白野原駅まで行って村伝いに行って港に行くのが近道だが…雨に降られてしまったようだ。
仕方ないので打ち捨てられた廃墟に近い館で一泊するしかないようだ。
中に入れば少し埃っぽいが、どうにか寝られそうだ。部屋の一部が鏡で出来ている部屋に出ると、少しばかり豪奢でそこには暖かそうな毛布が置いてあった。寒さに負けそうな私は濡れたコートと帽子を脱ぎ、ロングドレス姿になって毛布にくるまって眠る事になった。
余り長く起きると腹も減って来るし、雨が上がれば早い所この場所を離れたかった。
そして雨音が激しくなる中眠りに落ちると、妙な感覚に落ちて行った。其処には硝子の様に透き通った少女が鏡から出てきた、鈴を転がすような声で「ここに人が居るなんて久しぶりね、お姉ちゃん…踊ろうよ?」と私のドレスを引っ張った。
彼女は透明な体に体だけを隠すような曇りガラスのワンピースを着ているような感覚を覚えるような服装で、手を触ると堅くて冷たい…流石に霜焼けは作りたくないので彼女とは手袋越しに触れるようした。
少女は微笑んだ、触れたら壊れそうなそんな儚さを孕んでいて見ていて吸い込まれそうだった。
彼女が古びたレコードに蓄音機で音を流し、ワルツが流れ始めた。私はぎこちなくとも彼女をリードが出来るようにステップを踏んだ、そして透明な世界の中に少しずつ取り込まれたかのような感覚を覚えている。
そして少女は「あなた会いたい人が居るんなら…これ、あげる!私のお守りなの」と言って髪と思われるパーツにくっ付いている硝子の珠をもぎ取って私に渡して行った、最後に「私と踊っても貴方には会いたい人の影が映るんだもの、それじゃあ貴方が楽しくないでしょ?」と言ってフフッと笑って鏡の中に溶けて行った。
日の光が反射する眩しさに目を覚ませば眠ってる時の状態と同じ状態に「夢か…」と呟いて起き上がると、硝子の小さな珠が転がってきた。どうやら昨日のワルツも少女も夢ではなかったのだ。
「思わぬ人からお守りを貰ってしまったみたいだな…」と呟き、小さな珠をペンダントの様にして私はすっかり乾いたコートと帽子を纏い、鏡屋敷を後にした。あの少女はまだあの鏡の中で遊び相手を待っているのだろうか…
此処で私の手記を閉じよう、次の町が待っている…