白国の日暮れ町
朝早くに十字町を出る時に私と乗り合わせたのは大きな荷物を持った…男?か女?か解らない人だった、そして彼は泣いていた
十字町の古めかしい駅の待合室には私と彼?しか居ないような奇妙な状態だった、私はじろじろ見るのは失礼かと思って居たので分厚い眼鏡を眼鏡拭きで磨いて気にしない振りをしていたのだが…やはり気になる。
そして彼も大きな荷物と女性物のハンカチで涙をぬぐっていた、やっぱり訳有らしい…
「もし、其処の人…」
「うわーん、お願いアタシの話を聞いてぇ!」
いきなり抱きつかれて私は酷く困惑したが、声からして男だろうと思われる彼を宥めていた、そしてやっと落ち着いた頃には彼の身の上を話してくれたのだった。
彼は元々女の子になりたい男の子として生きて、その心情を抑えられなくなった余りに宣言したら今まで仲良くしてくれた人も家族も手の平を変えて彼を虐げる様になったと言う事だ、神様に対して罰当たりな青年として…
「それじゃあ君はどこに行くんだい?」
「アタシは日暮れ町まで行くわ…あそこなら似たような人たちが一杯居るって話だもの」
「つまり…オカマやオナベの多い町なのかい?」
「オカマって言わないで頂戴!」
また面倒臭い人を拾ってしまったようだと考えると発作の頭痛が起こるから止めよう…この人は今涙でぐしゃぐしゃだが、顔立ち全体を見ると黙っていればとても顔立ちの整った青年でこの性癖さえなければ女の子はそれなりに寄ってくるような顔だった。
「ところでアンタ名前は何なのよ?」
「名前…?じゃあモノって呼んでくれないかな、モノクロのモノ」
「そのまんまじゃないのよ、アタシはエルザって呼んで頂戴。見た所アタシの方がお姉さんかしら」
「えっ、じゃあ君はいくつなんだい?」
「20よ、んでアンタは?」
「…同い年だよ」
そうこうしている内に早朝汽車が駅に着いた、この列車の終着駅は日暮れ町だ。日暮れ町とは同性愛者やオカマ、オナベなどが行き場をなくした人々が営む町でそれぞれの中も良好で滅多な事をしなければ其処らの町よりは治安が良かった。
そして私は彼と仕方なく宿屋を求めて同じ目的地へ行く事になったのだった。
そして日暮れに着けば彼は宿屋の女将さんに働きたい事を伝えに、私は宿屋で一泊したい事を伝える為にドアを開けた。其処にはオカマやオナベ、はたまた娼婦も和気藹々としている店内で少しホッとしていた。
そして女将さん…と言うと、筋骨隆々でまるで歴戦の戦士を思わせるような風貌だが…一言口を開けば私に「あら、此処じゃあ見かけないわね?ご注文が有ったら呼んで頂戴ね?」と野太い声で私にメニューを置いて去って行った。
そしてエルザは可愛らしい女給仕の恰好をして「モノ、見て頂戴!私にも行き場が決まったのよ!」と嬉々とした笑顔で注文の応対に入った、今日はシチューと黒パンと暖かいミルクを頼んだ。
女将さんもエルザも話をしているところを見ると仲が良くなりそうで私も少し安心した。
たまに…オナベとも思われる人や同性愛者と見られる人に「ちょっと眼鏡外してみてよ?」と誘惑される時もあるが、旅人を誘惑する人も居るものだと少し焦ってしまった…なにより私は容姿には自信が無い。
明日は昼頃に汽車が出るので今回は此処で手記を閉じらせてもらおう…