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1章‐15 戦術書に曰く

     *


 サフィリアは、沈黙の回廊を歩いていた。

 前を行くのは、ラスティーの副官であるロイスである。


 宴を前にして、緊急の呼び出し。更に行き先も秘密である。

 人さらいも当然といえるだろう。


 サフィリアは即座に不穏の空気を感じ取っている。

 ライナも「ご武運を」とつぶやきサフィリアを送り出している。

 いくつもの可能性が頭をよぎる。


 ついに、固定兵器としての出番が来たのか?

 殺害対象が上都にいるのなら、ましてや聖域の近くにいるならば暗殺はたやすい。

 文字通りに息の根を止めることは簡単だ。

 ましてや、メティスには大陸中の重鎮が詰めかけている。


 だが、この可能性はない。

 サフィリアは即座に否定した。

 

 メティスで不明の死を遂げれば、真っ先に疑われるのは魔術である。

 そもそも、リヴァーウィンドウの能力は、世界中が知っている。

 窒息が死因であれば、サフィリアの仕業と誰もが思うだろう。


 ロディウス・アクテの戦術書に曰く。

【情報戦においては秘匿が中策。嘘は下策。真実を勘違いをさせるのが上策】


 アリウスの狙いは上策と中策の二重取りにある。


 真実を伝えつつ、大半を秘密にすることで、相手の恐怖をあおることが出来る。

 手の内をさらし、外交上の有利を得ようとしているのだ。

 インボルグでメティスの魔術を見せつけようとした理由が、これに違いない。


 暗殺を考えているなら王を一度に招集し、全滅させる方が効果的である。

 主導者を失った王国は、瞬く間に内乱状態となるだろう。

 同時にメティスは、歴史的な悪として記録されることになる。

 これらは、アリウス長老の望むところではない。


 ロディウス・アクテの戦術書では、殺人は最大の下策とされている。

 やむなき場合は、3つの点に注意するように追記があった。


【手早く襲って、無駄なく殺し、混乱を避けよ】


 今、殺人を犯しては、メティス中に大混乱を招くことになるだろう。


 リヴァーウィンドウの能力は、戦場でこそ行使されるはずだ。

 大量殺戮兵器として。


【黙ってやられるのが下策。やられてからやり返すのが中策】


 ロディウス・アクテの戦術書にも、後手の優位を意味する言葉があった。

 先手必勝の侵略者よりも、防衛する側が戦の大義を得る事が多い。

 

 アリウス長老の計画は万事において周到に立てられる。

 一切の例外も不測の事態も認めない。

 そのような彼が、どうしてロイスを使いとしたのか?


 ロイス・スティルバートは魔術師ではなく、七家の血筋でもない。

 沈黙の回廊へも、聖域へも侵入を許される立場ではない。

 命令の順列や、魔術師の慣習に厳しいのがアリウス・グラムファーレである。

 魔術師の決まりを絶対視するグラムファーレの長老が、自ら禁をおかしている。


 つまり、ラスティーが来れない理由があり、アリウスが急ぐほどの事態。

 こうなると、答えは一つしかない。 

 来るべき時が来たのだ。


 ライスは回廊の行きどまりで立ち止まった。

 そして、無言のまま振り返り、サフィリアに道をゆずった。


 床には、黒炭と鉄粉で描かれた六芒星があった。

 無駄に大きく、粗雑な材料で作られた結界陣である。


 上下の三角を合わせた紋様は、【空間】と【時間】の支配を意味する。

 ルーンの組み合わせから、空間を移動する結界陣だと分かった。

 同時に、この結界陣を作ったものの意図も。 

 

(ここに乗るように)


 ライスの目線がそう言っている。

 沈黙の回廊ゆえに、実際に口に出したわけではない。


 その後、サフィリアと視線を合わせようとせず下を向いた。

 瞳に写る感情は、後悔、そして不安だった。


「あなたは、自分の使命を果たしただけ。気にすることはありません」


 サフィリアの声を聞き。ライスは飛び上がるように顔を上げた。


 これから始まるのは戦いである。

 メティス総督にして、魔術師の長老。

 アリウス・グラムファーレとの剣や杖を使わぬ戦いなのだ。

 

 ゆっくりと深呼吸をして後、サフィリアは結界陣の上に乗った。

 予想通りに頭をかき回されるような嫌な感触がする。

 そして、視界が暗転してゆくのが分かった。

 感想に励まされる形で更新します。

 ひと月たっていることに戦慄!

 

 今回の内容はちょっと怖いです。

 過激だけど。

 なあに、翻訳された西洋ファンタジーに比べりゃまだまだ序の口です。


 ※サフィリアさんは、10才の少女です。

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