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第2話 恋愛感情とかけて、心拍数と解く4

 帰りの目的地に着くのは六時半頃だったので、駅周辺のちょっとだけ良いディナーにお誘いしたら、紗希さんは最初に誘った時と同じく二つ返事だった。何故かように彼女は二つ返事なのだろう。私気になります。

 彼女が現在恋人を募集中であるかは分からないし、それを聞くのはあまり良くないと思ったので聞かない。これが合コンで出会った相手とのドライブデートだったら、お互い付き合うことを見据えた上でのお試し期間という感じだけど、我々はそういう出会い方をしていない。お互い、恋人がいた場合他の相手とドライブデートはNG村出身ということで、これってつまり当方にはいつでも恋人を迎える準備があるということでは……!? と思っていたが、よくよく考えると、別にそういうのを抜きにした友達作りなのかもしれないなとも思った。個人的には、オタク友達が増えるという出来事、普通の友達が出来るのと違って戦友だとか同志が増えるみたいな特別な感じありますからね。

 一方で自分はどうしたいの?というと、それはもちろん、そういう関係になれるならなりたい。見た目は言うまでもないけど、性格に関しても落ち着いた感じで自分の好みだ。陰キャは陰キャに惹かれ合う……とかいうと紗希さんに失礼すぎるけど、彼女の波長は好ましかった。素っ気なくて少しぶっきらぼうだけど、俺に対して興味が無いからそうなってるのではなく、彼女の素はこんな感じなのかなと思えた。そうじゃなくて全部演技だったら大したものだけど、まあその時はその時だ。

 ……今日告白する気は無かったけど、よく考えたらもう告白すべきなのだろうか? これ以上デートを続けても、多分今日と似たような感じになるだけな気がする。だとしたら、もうとっとと告白して振られ……いやでもなあ。告白しなければ、彼女と友達を続けれたりしませんでしょうか。告白を断られて、その後も交友を続けられるイメージがあまり出来ない。というかそもそも俺自身、本当に彼女と付き合いたいのか、本当に彼女が欲しいのか、いまいちよく分かってない。そう、あれだ。初恋の時のあのどうしようもならない感じになってないのだ。好きすぎてつらぴ、みたいなあの感じ。とはいえ、あの状態になれたらいいなと思う気持ちがある一方で、そんな風になれる時期はもう過ぎてしまったような気もしていた。

 今一度紗希さんの言動に目を向けると、彼女の俺に対する雰囲気は悪くないと思う。もしかして……この子、俺のこと好きなんじゃね? とは微塵たりとも……微塵ぐらいは思わなくも無いけど、でも冷静に考えてそうは思えない。あっこの子俺のこと好きなんだな、みたいな乙女の表情みたいなものは紗希さんから一切感じられないし。塵ぐらいの可能性を感じるのは二つ返事のところで、俺に対する印象がネガティブないしプラマイゼロのあたりだったら普通断るものでは無いのか……? とはいえ、陰キャさのある彼女といえど基本は陽キャ。恐らく自分がそうだと思うことが当てはまらないことは多々あるだろう。

 今日の会話を思い返すと、結構雰囲気は良かったと思う。ともすれば、昔の自分だったらすぐに好きになってしまっていたと思う。じゃあ今好きじゃないのかというと勿論好きなのだけど、若かりし頃の盲信的な恋愛感情ではない。うんうん、それもまた大人になるということだね。昔に戻りたい訳では無いけど、取り戻せないものへの憧れ的なものはある。

 ぐだぐだ考えている内にまとまってきた。今日告白してもそもそも受け入れられるとは思わない。とはいえ、彼女と付き合ってみたい気持ちは強い。だから、あともう二回ほどデートをして、大丈夫そうなら告白しよう。三回デートして駄目だったらしょうがない。後のことは、なるようになるだろう。


 市内では比較的高めの価格帯の洋食で、店内の雰囲気は落ち着いている。二人とも今日のディナーという定番の日替わりメニューに身を任せた。

 食事中はちょくちょく会話があった。サラダがおいしいだとか、飲み物がおいしいだとか、紗希さんが喋るでもなく呟いた言葉に、時たま短く、たまに会話になりつつ食事を楽しんだ。最初の頃よりもかなりリラックスした雰囲気だった。

 そう、彼女といるとかなり自然でいられるような気がした。オタクを隠す必要も無いし、良いか悪いか分からないけど、場の空気を読んで話題を提供しなきゃとか、そういう女性関係でのあたふたをしなきゃいけない雰囲気も無く、自然でいられる。それはとっても素敵だなって、って魔法少女のまどかさんも言ってる。そうは言って無いけど。ああ……ってかもうこれ、あれだな。俺紗希さんのこと好きだわ。

 先程のことで紗希さんのことを考えて意識したからだと思う。彼女への恋心が芽生えたのを自覚した。それでも、不用意に挙動不審になることも無く、今日幾度となく思った、大人になったなという感想が浮かぶ。思い過ぎ問題。でも、二十六ってそういう年なのかもな。もうとっくに大人だけど、結婚もしてなければ子供もいない。俺はモテないオタクなので、子供と大人の狭間の時期みたいなのにも大分長いこといる気がする。ただ、まだ子供だな、と思うことはあまり無い。大人になりきれていない大人って感じだ。

 ああ、ご飯を食べる紗希さんは可愛いし美しい。彼女と将来結婚する男はさぞかし幸せだろうなと思った時、よく慣れ親しんだ仄暗い感情君が起床するのを察知する。おお、久しぶりに会ったな。いつもお疲れ様、君も勤勉だね。


 デザートのシャーベットを食べ終わり、紗希さんが化粧直しに行っている間に会計を済ませる。これぐらいはね。正直、自分がそういうデキる男を演出するに足る人物とも思わないが、やっている内に堂に入るということもあるでしょうよ。

 会計を通り過ぎて店を出ようとする俺に紗希さんは怪訝な表情を浮かべたが、すぐに「あっ……」という言葉と共に納得したようだった。そして店を出た瞬間、いくらでしたか?と聞いてくる。

 「今日は付き合って頂いたので」

 「いえ、でも」

 「初回はただということで」

 「……あ、あの」

 「はい?」

 紗希さんの様子が少しおかしい。何か、焦っているような感じで、全く想定していなかったことに面食らう。事前のシミュレーションではこの後スムーズに次回の約束を取り付けるはずでした。僕のデータには無いぞ、このシチュエーション! ただ、ここまでで雰囲気は結構良かったはず。次回も一緒にお出かけ出来ると思ってたんだけど……。

 「そ、その……さっき言ったインスタの子、その子が立ち直って、その、合コンをセッティングしてくれって言われてて」

 ……ん?

 「はい。……?」

 「あの、三対三で……その、伊織さん、いきなりで失礼かもしれないんですけど、セッティングして頂くことってできませんか?」

 あっ。あー。あああー……。

 「あー……いいですよ。いつぐらいにしましょう?」

 「そうですね……ちょっと先ですけど、一旦三週間後か四週間後の土日どちらか、空いてます?」

 「分かりました、その四日間で三人の都合が合いそうな日を連絡しますね。多分週明けの水曜までには連絡出来ると思います。店選びとかもこっちで決めていいですか? 市内の方で大丈夫ですか?」

 「ありがとうございます、助かります。市内で大丈夫です」

 ……。脈無いわ。おっ、謎かけ思いついた。紗希さんの俺への恋愛感情とかけまして、それを受けた俺の心拍数と解きます……。

 「とりあえず、西駅までお送りしますね」

 「はい、ありがとうございます」

 

 西駅までは十分ぐらいでつく。その間会話は無かった。その余裕も無かった。

 まあ、そうか。こんなもんだよな。

 ふと、前に合コンで一緒になった子と、しばらく協力関係みたいになったことがあったのを思い出す。その子と主催で合コンを開いたり、紹介したり紹介してもらったり。そんな関係になったのはその子が初めてだったが、良い経験にはなった。なるほど、強いおなごはこうやってすぐ彼氏を作るのかと。それでも、相手もこちらも二人の交友関係間では恋人が出来ず、自然と疎遠になった。

 なるほどねぇ。……なるほどねー。

 多分、紗希さんは俺をそこそこ信頼してくれたのだと思う。悪い人ではないし、ちょうど友達から頼まれてた合コンをセッティングしたら丁度良いな、周りの人も良さそうだし、みたいな感じだろうか。

 正直、かなり萎えた。ほぼほぼ……いや、正しく失恋だ。強がるとするならば、別に致命傷ではない。淡い恋心が一日で途絶えただけ。それに恋人になれないとしても、良い友人にはなれるかもしれない。メンタル面で失ったものはあるけど、得たものも多い。というか、これほどの美女とデートすることが出来ただけ、自分の低空飛行な人生的には勲章ものだろう。

 うん、思考を重ねるうちに、言いようのない失意が説明の出来る失意に変わってきた。これだけでも大分マシになる。自分がもっとイケメンだったらとか、もう少し気の利いたこと言えたらとか、気遣いが足りなかったのかなとか、彼女との相性は良いとか言ってた過去の自分を殴りたいとか、こんな美女がお前なんかをただ横に置いてるわけないだろとか勘違いして馬鹿がよとか、自傷できるポイントはいくらでもあるけど、一旦やめておこう。というかやめてくれ。俺のHPはもうゼロだ、MPもない。あーーーー。こういう時はもう本当強制的に切り替えるといいですよ。

 合コンに誘う面子はまあいつもの二人でいいだろう。三週か四週後なら予定が合わないということもあるまい。店もまあ、いつものところでいいだろう。あー切り替え切り替え。うん、とはいえ反省会はちゃんとしよう。

 

 ぐだぐだと考えているうちに西駅につく。考え事をして時間を過ごすの超得意だもんね。

 車から出る直前、紗希さんがお礼を言う。

 「あの、今日はありがとうございました。楽しかったです、お世辞ではなく」

 「そう言って頂けると光栄です」

 「…………その」

 はいなんでしょう。ゆっくりと言葉を待つ。紗希さんが言葉を探し終えるのを待つ。少し難しそうな顔をしていた。

 「……連絡、待ってます。また次にお会いするの、楽しみに待ってますね」

 「ああ、任されました。俺も楽しみにしてますね。早いうちに連絡します」

 「……はい。では、帰りお気をつけて。おやすみなさい」

 「紗希さんも、お気をつけて。おやすみなさい、また」

 「はい、それでは」

 外に降りた紗希さんを、車内から見送っていると、少し歩いたところで紗希さんがこちらを振り返る。何だろう。

 車から出て、紗希さんに手を振ると、彼女は手を振り返し、おやすみなさい、と再び口にすると、再び歩み始めた。

 その後ろ姿を、多少の失意と、その後の空虚さと共に、視界から消えるまで見ていた。


 ふぅーーーー。やっぱ人生ってむずいわ。

 叫びたい気持ちはあるけど、もう大人なので……いや違うな。大人とか関係なしに、気力が無い。心の中ですら叫ぶ気持ちになれなかった。現実なんてこんなもんよな。

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