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第1話 合コンとか出会い系とか2

 カウンター席のすぐ目の前にある窓からは、十畳ほどを竹柵で囲った日本庭園風?な、灯篭とか鹿威しとか苔むされた石とかが、全く手入れされずに放置されている庭の様子を映し出していた。来るたびに思うんだけど、この庭一体何なんだ。でも嫌いじゃないよ。

 下らないことを思ってる内に、樋口円香(仮)ががっつり荷物をまとめて左隣の席に越してくる。席を立つときにテーブルを拭いてたの、育ちが良いポイントプラス一点である。

 「……えっと、はい。プロデューサーです。……ご担当は?」

 「あ、えっと、樋口です」

 「ああ、そうですか……」

 初対面の会話がこれなの、オタクってすげーよな。

 「……えっと、そちらは?」

 「…………ええと……あの、……樋口です」

 「ですよね……えっ……え、レイヤーさんですか?」

 「え? ふっ……まさか」

 元の意味じゃない方で失笑された。嘲笑とも言う。樋口(仮)が立て続けに言葉を発する。

 「いや、あの、言い訳……じゃなくて、説明させて下さい」

 「あ、はい。どうぞ」

 この不思議な間で会話する感じも嫌いじゃないよ。


 語られた内容を要約すると――

 『結論、樋口円香みたいな恰好をしているのは、いざという時にしっかりと自分を持っている発言が出来たりといったような、彼女の強さに憧れたから』

 『自分も性格が多少樋口に似ているところがあるし、容姿的にもあの髪型が自分に合うと思ってイメチェンをしてみただけで、別に自分が樋口円香になりたいというわけではない』

 『周りにこういったゲームをする友達はいないし、知ってる人に見られたらどうなるのか考えたことも無かった』

 最初こそ勢いのまま喋り出した彼女だが、話すにつれてクールダウンしてきたのか、ぽつりぽつりと、しっかりと考えて発言していることを伺わせる、落ち着いた口調で語った。ゲーム内のあのキャラクターの言動とは必ずしも同一なものではなかったけど――いや当たり前だが、それでもどことなく、ああこの人樋口円香と合いそうだなという雰囲気が伺えた。

 「なるほど……前はどんな髪型だったんですか?」

 「結構長めでした。胸元ぐらいはあったかな」

 似合いそ~~~~。ロング派閥だった人間にはなかなかに破壊力のある発言だ。何故初対面の人の過去にまで破壊される俺?

 「へえ、じゃあ結構大胆に切ったんですね」

 「そうですね……周りには結構驚かれました。別に失恋とかじゃなかったんですけど」

 失恋ね。そもそもこの方の存在が若干現実離れしているのであんま考えてなかったけど、そりゃこんだけ綺麗なら彼氏にも困らんわな。そういえば名前を聞いていなかったと思い、口を開く。

 「あ、ていうかすいません、自己紹介がまだでした。自分、立花伊織たちばないおりって言います」

 「ああ……水上紗希みながみさきです。いおり……って、珍しい名前ですね」

 「ええ、変わった親を持ったためこうなりました」

 円香(仮)改め紗希さんがくすりと笑う。あ、樋口っぽい。……人様のことなになにっぽいと思うのって失礼だろうか。難しくない?

 「でも、いい感じに変わった名前ですね。いおりんと一緒だ」

 水上さんがアイマスの別シリーズのキャラに言及する。

 「そうなんですよね。個人的には名前負け感が強いので、微妙なところですが……」

 「ああ……でも、似合ってると思いますよ」

 「そういって頂けると嬉しいです」

 樋口だとこういう時どういうんだろうな、とか思ってしまう。案外同じことを言うかもしれない。

 「紗希さん、って……オタクなんですか?」

 極めて自然な様子を務めて、いきなり下の名前にさん付けで呼びかける。勿論オタク……というか陰キャなのでバリバリに意識してる。これがアリかナシかあんまりよく分かってないのだけど、単純に自分が女の人の名前をそう呼ぶのが好きだという話である。しかし俺キモいな。キモについて知見が深い。

 「んー……全然詳しくないし、月何万使って、みたいなのではないです。けど、アニメとかゲームとか普通に好きですよ」

 「あー……あの、他意は無いんですけど、紗希さんオタクっ気の無さそうな陽キャだなって感じがするので、シャニをプレイされてること自体が凄い意外でした」

 「ああ……周りは結構陽キャなんですけどね。仲の良い子とか、インスタでフォロワー二千人とかいるみたいですし。私は結構、見た目通り……それこそ、樋口みたいにダウナーな人間だと思います」

 彼女は髪先をくるくると弄りながら、ストローに口をつける。

 「二、二千ってすごいですね……」

 「まあ、その子は傍から見ても可愛いですしね。……まあ、陽キャだろうとオタク趣味ぐらいあるのが最近は普通な感じしますけど」

 急に恐怖心が湧き上がってきた。もしかしなくても、樋口円香という共通点が無かったら絶対にプライベートで会話をするような相手ではない。(スクール)カーストが違うって奴ですね。社会人ゆえ、会社でこそそういった陽なピーポーとも普通に仕事が出来ているが、結局プライベートはカーストに即した形でつるんでるわな。ふおおお異文化交流。

 「でも、伊織さんもあんまりオタクにも陰キャにも見えないですけど。オタクなんですか?」

 「えまじっすか……?」

 「まじっすよ。普通にミスター好青年に見えます」

 ありがとう、すべてのオタクファッションに気を遣え系ラノベ。いやありがとう案件なのか分からないけど。それでも、お世辞だとしても陽キャのミスター好青年は普通に言われて嬉しい言葉じゃんね!? 脳内ギャルがおめでとうと拍手しているイメージが浮かび上がる。しかし褒められ慣れていないので返答がぎこちなくなる。

 「俺……は、普通にキモオタですね。一般人に擬態出来ているなら良かったです……」

 「ふっ、そうなんですか? それこそ……。ちなみに、樋口のどこが好きなんですか?」

 「まあぶっちゃけると……初手は見た目ですね」

 「あー……ですよね。私もそうでした。……何か、今の自分踏まえると、大分キモいですけど」

 「そうですか? 凄い似合ってますし、知らない人が見たらただただ似合ってるな、ってなると思うんですけど。……まあ知ってる人が見たら俺みたいに衝撃を受けると思います」

 「あはは……そんなにコスプレっぽいですか?」

 樋口は苦笑しない! つまり彼女は水上紗希さん。……俺は何を言っている……?

 「コスプレっていうより……」

 この先の言葉を続けて良いのか、一時脳内査察が入る。……うーん、よく分からないのでヨシ!

 「その、正直、樋口円香って現実にいるんだ、ってなっちゃいました……すいません、樋口円香になりたいわけではないと仰っていたので、不快でしたら申し訳ないんですけど」

 つい気になって顔を左に向けると、それに気付いた彼女と目線が交わる。特に何も無い無表情だった。ホーム画面のデフォルト表情のアレ。すぐに気まずくなり目線を外す。

 「いえ……何ていうか、不思議な感じです。ていうか、そんなに樋口円香っぽい見た目してますか、私?」

 「盛ってるとかではなくまじで思いました」

 彼女が知る術は無いが、実はまじである。ソースは俺の脳内。表情からは伺えなかったが、何となく複雑な胸中なのかなと思ったので慌ててフォローする。

 「いや、会話して勿論樋口じゃないのは分かってるんですけどね?」

 「あ、はい……いえ、ごめんなさい。何か、自分で容姿を寄せておいて、いざこういう事態になった時にどういう気持ちでいればいいのか考えてたんですけど、結論は出ませんでした」

 「あー……ちなみにこれがフォローになってるとはあんま思わないんですけど、俺大学の時に美容室でこのアニメキャラの髪型にして下さいって奴やったことあります」

 「へー……どのキャラですか?」

 無関心のへえ、ではなく割と興味を持ってくれた感じのへーだったことを勝手に感じ取り、勝手に心を救われつつ、スマホで検索した画像を見せる。

 「これです……」

 「髪、長かったんですか?」

 「長かったです……」

 ていうかこの黒歴史エピソード披露いる? 秒で弱気になってしまった。

 「へー……写真無いんですか?」

 今のへーも、Wing編シーズン3の「通過したんですか」と同じようなトーンだった。はい、つまり、割と興味を持ってくれてる感じですね。演技かもしれんけど。オタクはすぐ演技かもしれんけどとかいう。

 「流石に無いですね……」

 「ってことは、あんまり似なかったんですか?」

 「そうですね……」

 「あら。……私が行ってる美容院、紹介しましょうか?」

 「ふふっ、ってことは?」

 「ご想像の通りです」

 目の前の女性が美容師さんに樋口円香の画像を見せる光景を想像して、ちょっと愉快な気持ちになる。ていうか今の会話パフェコミュっぽくない? いや気のせいじゃないですかね。

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