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第1話 合コンとか出会い系とか1

 土曜日。一週間で一番最強の日である。そんな日は喫茶店に篭るに限る。


 ということでいつもの通り、車でニ十分ほどの片田舎にある喫茶店に来ていた。夕暮れ時だが、店内にはまばらにしか人がいない。片田舎の喫茶店なので土地だけは余っているのか店内は広い。市内の喫茶店が明らかにパーソナルスペース分すら確保出来ていない席の狭さなのに比べたら大きな違いだ。しかし、いかんせん片田舎なので人があまり多くない。平日はおばさま方の溜まり場になっており、それがこの店舗の財政を成立させていると思われるのだが、本日は恐らく赤字だろう。

 今日はインプットデー。つい先日、追っているラノベの新刊が二冊ほど出たのでそれを楽しむ日。読み終えたらPCを取り出してアウトプットデー、つまり趣味の小説書きに転じる予定だ。ちなみに、これまで綺麗に転じられた試しは無い。スマホを手にしていると、大体ソシャゲとかツイッターを見るデーに転じてしまう。

 午後一時に店に着き、オクラとなめこのねばねばパスタを食べつつスマホで本を読んでいると、二冊目を読み終える頃にはあっという間に四時になっていた。ラブコメ最高。最近は流行っているからか玉石混交の激しいジャンルになってきたけど、どちらのシリーズも相変わらず最高だった。高校生に戻りたくなったし、ついでに軽く鬱になった。オタクとは最高になると同時に鬱になりやすい生き物である。度し難いね。

 一応アウトプットデーに転じる構えだけはしておこうということで、ノートPCを起動しつつ、残り少なくなったアイスコーヒーを飲み干し、二杯目はアイスカフェオレを注文する。勿論ガムシロは付けます。ガムシロのたっぷり入ったアイスカフェオレがこの世界で一番おいしいという真実に俺は気付いている。

 しかしあっという間の三時間だった。長時間に及ぶ前傾姿勢により凝り固まった背中を、背を反らしつつ伸びをすることで労わる。集中が一気に霧散していく感覚。

 気付くと、二つ席を挟んだカウンター席に、お洒落なショートカットの女性が座っている。読書に集中出来ていたからか全く気付いていなかった。一瞬で視線を外す。お一人様かしら。一人で行動出来る系女子ってだけで好き。いや一人じゃないかもしれないけど。スマホを横に傾けながら画面をタッチしていたので、ソシャゲでもしているのだろうか。綺麗系な人がソシャゲしてるってだけで好き。俺はちょろい。


 カフェオレを待っている間に席を立ち手洗いを済ませ、トイレの扉を開けると、人とぶつかりそうになった。

 「アスイアセ……」

 こういう時の俺の謝罪は死ぬほど早い。こういう時だけ早い。普段はとろいのに。オタクの悲しい性である。オタク関係ある?

 「いえ……」

 普段人の顔をなるべく見ないようにしているが、思わず目の前の顔に吸い寄せられる。横に座っていた女の人だ。顔が良い。

 「ひィ”っ……」

 「……え?」

 我が人生、数多きキモさの中でも歴代最大瞬間風速のキモ声が出てしまった。自分でびっくりした。

 多少の顔が良いくらいで俺の視線即ロック外しが機能しなくなることは無い。この女の人はただの顔が良いでは無かった。それは、俺の二次元の推しをそのまま三次元化したような容姿だった。

 しかし限界化した人間が出す鳴き声、あれ演技じゃなくて素であの声が出てるんだな。心で理解出来た。そしてその代償として目の前の女性はめっちゃくちゃ怪訝そうな顔をしていた。ドン引きだもんね。あんな生理的嫌悪感の滲み出た「え?」、なかなか無いよ。女性の視線ロックが外れないのを感じつつ、横をすり抜けて席に戻る。心が叫びたがっていた。というか叫んでた。うぐおおおおお。

 樋口円香がいた。樋口円香がいた……樋口円香がいた!


 樋口円香。俺が一番推しているソシャゲアイドルである。ただでさえ顔が良いのに、性格も最高に「おもしれー女」なキャラクターで、しばらく推しというものが不在だった俺のオタク人生に、昨年急遽現れた超新星である。どれぐらいディープなインパクトを受けたかというと、人生の四半世紀を黒髪ロングの狂信者であった自分が「あれ、ショートって良くない……? ショート……好き……」などとのたまう背信者になってしまうほどの衝撃であった。見た目も本当好き。

 現実の樋口円香はヘヤピンこそしていなかったが、緩くウェーブがかった茶髪のミディアムボブ、右目は若干メカクレ気味で、退屈そうな印象を受ける切れ長なタレ目、しかも位置は逆だけど右目に泣きぼくろがあるところまで完璧だった。白いブラウスとネイビーのスラックスで、いかにもお洒落~~って感じが、樋口円香の将来の一つって感じ。やばい、この喫茶店リアル樋口円香が出るぞ。自分の内なるキモ性が存分に解き放たれる。このままではキモ性が充満した身体が破裂し世界にキモが解き放たれてしまうので、到着したアイスカフェオレ君に遠慮なくガムシロをぶちまけ啜ることでキモの鎮火を図る。

 リアル樋口円香さんが手洗いから戻ってくるのを気配で感じつつ、急いでスマホ画面に表示された樋口円香の画像を電子書籍に切り替える。平静を装い目線はスマホから一切外さないが、相当無意味に緊張した。ワンチャン、横にキモい男がいるので帰りますパターンまで想定したが、しばらく様子を見るもとい感じていると、彼女はしばらくスマホを縦に持った後、再び横に倒してソシャゲを遊び始めた。ふいに俺の頭の中のギャルが『一生あの女の人のこと意識してんじゃんキモ』と罵ってくる。頭の中にギャルがいることを総合して本当にキモい。でも止められないんだけどォ!

 読んでくる文章の中身が一切入ってこないので文字を追うことをやめる。まずいな。学生という身分から卒業して以降、比較的落ち着きを得た、別の言い方をするとキモさがなりを潜めたと思っていたのに、全然そんなことは無かった。でもしょうがないでしょう!? 推しがいきなり目の前に現れたら誰だってこうなりますよ! そもそも彼女は樋口円香じゃないんですけど。

 目線を向けると、リアル樋口円香はストローを咥えつつ横になったスマホをぽちぽちしていた。照明の反射で画面は全く見えない。なんていうか、気怠そうな雰囲気が本当に樋口円香。『現実の人をアニメキャラに例えるとか本当キモいんだけど……キモ』と脳内ギャルがドン引いているし、その横に立っているもう一人の僕も一緒に引いていた。は? 樋口円香はアニメキャラじゃないんですけど! と脳内に対しコンプレインする。この間、視線を送ってからわずか二秒。割と見ちゃってますね。

 ふいに、彼女がコーヒーを飲もうとして、右手に持っているスマホが持ち上げられる。スクリーンに映し出されたものをつい見てしまい、本日二回目の鳴き声が喫茶店の片隅に生まれ落ちる。

 「ぅえ……っ」

 「……え?」

 画面の中にいる浅倉、つまりはアイドルマスターシャイニカラーズで樋口円香とユニット・ノクチルを組んでいる浅倉透と目が合い、そしてリアル樋口円香と目が合う。

 「とおまどやん……」

 「……え……?」

 怪訝そうな表情が次第に驚きへと変わっていく円香ではないを前に、背筋を冷や汗が通る感覚に体がぞわっとする。

 「あっ……えっと……」

 「……」

 デデン! 問題です! ヤバい! 何か……ヤバーーーいッ! 脳内が一瞬大パニック大会を開催するが、すぐに中止させた。こういう時、パニくって何も出来なくなる時期はもう過ぎてしまったのである。男なら前のめりになって死ね……っ!

 「あの、もしかして、……プロデューサーですか?」

 「…………」

 めっちゃ見られてる。全身見られてる。あの怪訝そうな顔のままめっちゃ品定めされてる。あんな人のこと上から下まで見る人、ドラマぐらいでしか見たことなくて笑いそうになった。ていうかやめて下さい見ないでください。いやお前自分ではめっちゃ見てたやーん。

 俺をガン見した後、店内を軽く見渡し、再び俺に視線を戻すと、彼女が口を開く。眉尻が下がったその表情は、端的に言うと恥ずかしそうだった。

 「……席、隣空いてます?」

 「あ、空いてます……」

 やばい。やばーーーーい!

前に書いた小説を読み返したらとてもキモくておもしろくね?ってなったので投稿

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