#10
夜は自分達の世界も眠りにつく。
仕事を終え、特に何をするでもない。矢千は高科と過ごすこの時間が好きだった。
退屈で、それでいて鈍い輝きを放っている。この夜もこっそり宝石箱に入れてしまいたい。だが高科はそれを許さない。
今日のことも明日には忘れるように言う。でも彼は明日の夜にまた同じことを言うだろう。それを一晩で忘れろ、というのは無理がある。
大体忘れた先に何があるというのか。忘れることなら散々してきた。本当はこれ以上忘れたいことなんてない。何も失くしたくない。
本来誰もが持っている大切な媒体を、自分は持っていないのだ。
彼に頭を撫でられるとどうしようもなく安心する。
(どうして……。)
考えても分からない。思考は泡のように弾け、液体となって足元に落ちる。
変な人だ。理解はできない。
彼もまた、自分を理解してほしいとは思ってないのだろう。だから尚さら虚しい……寂しい人間だと思った。俺と同じだ。
「今度こそ……、……から」
睡魔に襲われて瞼を伏せる。その間、ずっと高科の声が聞こえていた。
「深月……」
あぁ……。
まただ。
どうして彼は……眠る前には、自分を名前で呼ぶのだろう。




