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悪役令嬢の娘の母親という、物語にすら登場しないモブポジションに転生したけど、娘の破滅ルートも家の没落もぶっ壊して、今世こそは家族で幸せを掴んでみせます。

作者: 結城斎太郎


 目覚めた瞬間、私は理解した。


「ここ、乙女ゲームの世界じゃん……!」


 そう、私はかつてハマりにハマった乙女ゲーム――『薔薇と鎖の輪舞曲』の世界に転生していた。そしてよりにもよって、「悪役令嬢・マリアベルの母親」という、原作には名前すら出ない完全なるモブに。


 さらに事態は最悪だった。私の夫――侯爵家当主であるギルベルトは愛人を屋敷に囲い、娘のマリアベルは令嬢たちをいびることでしか心を保てなくなっている。家の財政は火の車。メイドはいつも私を陰で笑い、義母は私を「役立たず」と罵り、屋敷の空気は凍りついていた。


 でも、私は決めた。


(このまま破滅ルートに進んで、娘が断罪されて処刑され、家が潰れる未来なんて、絶対に見たくない!)


 私はゲームの記憶を総動員し、この最悪な状況を全て覆す決意を固めたのだった。


***


「マリアベル、ちょっとお話があるの」


「……なに? またお小言? うざい」


 娘はピリピリしていた。だが、私は怯まない。


「マリアベル、あなたはこのままいけば処刑されるのよ」


「……は?」


 私は娘の手を取り、しっかり目を見つめた。


「母さんね、夢を見たの。あなたが断罪されて、民衆に石を投げられて泣いていた夢。……それが本当に嫌だった」


 マリアベルの表情が、少し揺れた。


「なによ、いきなり……」


「だから、これから一緒にやり直しましょう。あなたも、私も。もう誰にも負けないように。母娘で、戦うの」


 その日から、私は徹底的に動いた。


 まずは使用人の総入れ替え。夫の愛人を屋敷から追い出し、通商院にコネを使って不正の証拠を押さえ、ギルベルトを公的に“政務の失敗”で処罰させた。


「……お前、いつからそんなに変わった?」


「あなたが私を侮ってる間に、よ」


 そして、マリアベルには毎日礼儀作法、経済学、社交の基礎を叩き込んだ。徹底的に、しかし母親らしい愛情も忘れずに。


「勉強なんて、意味ないと思ってた……けど、母様と一緒なら、できる気がする」


「大丈夫。あなたは世界で一番の令嬢になれるわ」


***


 やがてマリアベルは学園に入学し、ヒロインである庶民出身の少女・セレスティアと出会った。


 ……だが、かつてのマリアベルとは違う。


「セレスティアさん、これ……落としましたよ」


「え? あ、ありがとう、マリアベルさま」


「いいえ。人のものを盗むような、下品な真似なんてしないから、安心して」


 皮肉のように聞こえるが、それは一切の嘘がない。マリアベルは変わった。


 その様子を陰から見守る私は、胸を撫で下ろす。


(よかった……これで断罪ルートは回避できた)


 ところが、物語は一筋縄ではいかなかった。


***


 学園の舞踏会の日、事件は起こった。


 セレスティアが“盗みの濡れ衣”を着せられ、王太子が彼女をかばい、マリアベルに「おまえの仕業だろう!」と声を荒げたのだ。


「違います! 私はやっていません!」


 泣き叫ぶマリアベル。


 その瞬間、私は人混みをかき分け、舞踏会場に飛び込んだ。


「その断罪、待った!」


「な、なんだこの女は!」


「私はマリアベルの母です。そして、真犯人の証拠を握っております!」


 私はギルベルトの元愛人が学園に放った密偵の存在と、盗みを企てた手紙を提示し、王族の前で読み上げた。


「マリアベルは無実。王太子殿下、どうか彼女を信じてあげてください」


 王太子は沈黙のあと、ゆっくりと頭を下げた。


「……誤解だったようだ。マリアベル嬢、許してくれ」


「い、いえ……そんな……母様が、助けてくれたから……!」


 マリアベルは私に抱きついて泣き出した。


 ああ、この子は、もう大丈夫。


***


 その後、王族からの信頼を得たマリアベルは、正規の後継者候補として名を上げた。私は表立つことなく、政務の裏を支え、侯爵家の威信を守る。


 ギルベルト? 彼は今、田舎の農村で荷車を引いている。ざまぁみろである。


 義母はというと、マリアベルの手料理を食べて「こんな美味しいものがあったなんて」とぽろぽろ涙をこぼしている。


「母様。私、少しは誇れる娘になれたかしら?」


「ううん。誇りどころか、自慢の娘よ」


 この物語は乙女ゲームの続きでもなければ、ヒロインの冒険譚でもない。モブ中のモブに転生した、私の逆転物語。


 そしてこれは、母と娘が手を取り合って、幸せを掴み取る物語だ。


 次は……マリアベルの恋の行方? ふふ、それはまた、別のお話。



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