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最終話 幸せの天使は優しく微笑む

 ――ライブハウスの控室


「みんな、お疲れ」


「おぅ、ワンもお疲れな」

「今夜もビシッと決まったな!」


 最高の盛り上がりを見せた今夜のライブ。アンコールも二曲やったし、オレたちもオーディエンスも大満足だ。


「ところでワン」

「なに?」

「愛しの姫君は今夜もいらっしゃるので?」


 ボーカルのレイトの一言で、三人ともオレを見てニヤけ始める。


「そんなんじゃねぇっての」

「オレたちには『絶対に未成年には手を出すな』とか言っといて」

「手なんか出してねぇってば! あの子、高校生だぞ!」


「私は()()さんに手を出してほしいのですが……」


 不穏なセリフに振り向くと、控室の入口に香織ちゃんが立っていた。


「香織ちゃん! 何言ってんの!」

「あー、やだやだ。本名なんて呼ばせちゃって」

「いや、それは……」

「香織ちゃん、こんなの相手にしてないで俺らと遊ぼうよ!」


 香織ちゃんは笑顔で答える。


「すみません、太一さんは母公認の彼氏ですので」

「なにー!」「彼氏だと!?」「JKの彼女持ち!?」


 香織ちゃんの一言に、メンバー三人の視線に殺意がこもる。


「待て待て待て! オレがいつ彼氏になったの!」

「初めて会った時からです」

「はぇ?」

「私からのキスも受け止めてくれましたよね?」

「キス!?」「ワン、お前……」「淫行条例……」


 さすがの三人もドン引いている。


「いやいやいやいや、口じゃないでしょ!」


 首をかしげるギターのジィル。


「香織ちゃん、口じゃなければどこにしたの?」


 香織は頬を赤らめた。


「ま、まぶたです……」


 納得したようなベースのカナン。

 そして、三人ともオレを責めるような視線を送ってきた。


「コイツ、何にも知らねぇんだな」

「香織ちゃんが可哀想だ」

「これだから童貞は……」


 童貞は関係ねぇだろ!

 と思いつつも、ハテナマークのオレ。

 そんなオレを見て、ハァとため息をつきながらも、優しく微笑む香織ちゃん。


「仕方ないので、私で童貞卒業しましょうか?」

「バカタレー!」


 控室の中は、五人の笑いの花が咲き乱れた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 まぶたへのキスは、相手への強い愛情・恋心の証。


 ――貴方に強い憧れを抱いています。

 ――貴方は私の理想のひとです。


 そんな気持ちがこもったとても特別な口づけです。


 その口づけは『エンジェルキス』と呼ばれています。



挿絵(By みてみん)



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