表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/35

第28話 先制攻撃

 コート上の中央。サークルの真上にゴリラと巨人が立つ。

 てっきりジャンプボールは冷が出るものかと思っていたけど。


「いいのか? そんなに俺に張り付いていても」

「君の考えは読めてるよ。ボールを受け取り、すぐにスリーポイントシュート。それで流れを掴むつもりなんだろう?」

「さあな。何のことだかさっぱりだ」


 俺はワザとらしく惚けたフリをする。

 冷の言った通りだ。それが親父の考えた作戦。

 何としても先制攻撃はウチがもぎ取れ。

 そういう指示が出ている。

 だから俺には特別に――


『行けると思ったら、最初のシュートは超ロングシュートを打て』


 そういう指示も出されている。

 本当、相手の嫌がるプレーが好きだよな。

 開戦と同時にあのシュートを受けると、それなりの精神ダメージも与えられる。

 それをよく考えたうえでの指示だ。

 デジタルスコアボードがカウントダウンを始める。

 もうすぐ今年最後の面白い試合が始まる。

 どこまで行けるのか。どこまでやれるのか。

 自分に対する疑問は止まらない。

 コート上にいる全員が、それぞれの思いで試合の開始を待ち望む。

 そしてコート上にブザーが響き渡り、同時にボールが空高く放り投げられる。


 俺はそれを見て、すぐに行動を開始した。

 親父の指示は相手の心を最初に傷つけるための指示。

 だけど目的がそれなら、簡単に達成する方法が他にないわけじゃない。

 視界の端で巨人がボールを弾くのが見えた。

 弾かれたボールを手にしたのは司。

 あいつなら、ゲームの組み立ても安心して任せられる。

 それに確信してるんだ。あいつなら俺と思考が共有できてるって。


「ちゃんとついて来いよ」


 俺は素早くフロントコートヘ駆け出す。

 それに続くように冷が巨体を動かして追いかけてくる。

 だけど俺と冷の差は一向に縮まらない。

 後ろから聞こえる足音は一定の距離がある。

 流石の冷も試合開始早々、フルスロットルでは走れないらしい。

 きっと相手チームの誰もがある予想をしていたはずだ。

 間違いなく、俺の超ロングシュートを狙ってくると。

 だけどその考えは大きな間違え。


「この方が精神的苦痛になるだろ」


 俺はフリースローラインから思い切りジャンプする。

 俺が足を踏み切ったのとほぼ同時、ゴールに向かってボールが放たれていた。

 でもこれはシュートじゃない。

 眼前に現れたボールは司から俺へのパスだ。

 試合開始直後、僅か120センチしかない選手からのアリウープ。

 スリーポイントよりもこっちの方が衝撃的だろ。


 体育館にガシャン‼ という音が響いた。


 さらに地面にはバウンドするボール。

 会場の誰もが唖然としていた。

 まるで何が起きたのかわからない。

 だけど海桜の選手たちだけが、ディフェンスのため自陣ヘと戻って行く。

 そんな中、俺は冷とのすれ違いざまに声を掛けた。


「これでまず2点差だ」


 俺の言葉に冷は何も言わなかった。

 見えたのは口元を綻ばせるところ。

 そう来なくちゃ面白くないよな。


「――最初から危険な賭けをしたものだ」


 自陣コートヘ戻る途中、司がいつもの調子で声を掛けてきた。

 その言葉には明らかな不満が伺えて。


「普通ならあんなプレーはしない。俺がパスを出さなかったら跳び損だ」

「それはないだろ。お前なら理解してくれると思ってたからな」

「言っておくが、2回連続でビックリプレーが通用する相手じゃないぞ」

「わかってるさ。それで向こうのオフェンスを止める算段は?」

「愚問だな。ゲームプランを俺が握っている限り、ウチに敗北はありえん」

「それは相変わらず生意気なことで」


 そこまでだった。

 そこまで会話をして俺と司は別れて行動する。

 永玲がボールを入れてきたからだ。

 既にこちら側のコートには永玲の全員が侵入していた。

 そして今ボールを持っているのは――


「いきなりガード対決かよ」


 呟いた時、俺はたぶん笑っていたと思う。

 それぐらい今日の司は頼もしかったから。

 でも俺の嗅覚が正しければ、相手のポイントガードも曲者だ。

 ゴリラと同じ2年生らしいけど、あの爽やかオーラだけじゃないのは間違いない。

 2年で永玲のガードを果たせるというのは、それぐらい常人離れした出来事だ。

 でもそういう天才なら、こっちにもいるんだよな。

 それも向こうより2つも年下のインテリメガネが。

 ではでは。俺もリトルフォワードとしての役目を果たすとしますか。


「君が僕の相手をしてくれるのかい?」

「当然だろ。高さでお前に勝てるのは俺だけだ」


 コート上の全員がマンツーマンで向かい合っていた。

 俺の相手は当然、小木冷。

 司の相手はあの爽やかガード――水川水連。

 巨人はゴール下でゴリラを抑えてる。

 その他もそれぞれ、自分が付くべき相手にびっしりとマークを施していた。

 でもだからこそ、俺や司、巨人以外の場所が不安でもあった。

 残りの二人のプレイヤー。俺は確かに彼等からも匂いを感じていたから。

 それも強いやつが漂わせる『強者の匂い』ってやつを。


「まずは一本‼ 確実に止めます‼」


 珍しく司が声を張り上げて、コート上の全員指示を出す。

 それに釣られるように俺たちも「おう‼」と声を上げた。

 そして遂にガード対決が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ