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第19話 トーテムポールとの勝負

 大型商業施設。その屋上に作られたバスケットコート。

 そこへ連れて来られてた俺はバスケットボール片手に尋ねる。


「それで勝負内容はどうする?」

「変則1on1なんてどうかな?」

「変則?」


 俺が人差し指の上で軽くボールを回していると、そのボールが一瞬で奪われた。

 それも一切の殺気を感じることなく。


「君に僕を止めることは不可能だ。なら君にディフェンスをやらせても無駄だろ」

「そんなの――」

「やらなくてもわかるよね。だから君が常にオフェンスをして、僕が常にディフェンスを行う。君は僕が防いだ数より多くシュートを決めれば勝ち。僕は君がシュートを入れた数よりも多く防げば勝ち。とてもシンプルな勝負になると思うよ」

「……制限時間は?」

「10分間。バイオレーションは無しにしようか。君へのハンデだ


 10分。つまり1クオーターか。しかもバイオレーションもない。

 俺も相当舐められたものだ。

 そんな短い時間で勝負が着くと思われているうえ、ハンデまで渡されるなんて。

 確かにこいつ――トーテムポールと違って俺は背が明らかに低い。

 でもこれでも俺は今年の全中MVP。同学年のやつに簡単に負けるわけにはいかない。


 本当はハンデなんていらないけど、そのハンデでこいつの鼻っ柱をヘシ折るのも一興。

 俺にハンデを与えたことを後悔させてやる。


「ルールはわかった。なら負けた時の罰ゲームを決めようぜ」

「そんなものは必要ないよ。君が負けるのは必然だからね」

「勝手に決めるな。デカいだけで勝てるほど、バスケは甘くないんだよ」

「なら君は僕にどうして――」

「取り消せよ。チビにできるほど甘くない? やってみなきゃわからないだろうが」

「僕はね。君のそういうところが嫌いなんだよ。あいつに淡い期待を抱かせる君が」


 その言葉を聞いた時、俺は初めてトーテムポール――小木冷の表情を見た気がした。

 ただしそれは笑顔でも悲しみでもない。

 完全なる怒りの表情だった。


   ***


 始まった10分間の短い勝負。

 その序盤2分はとても静かなものだった。

 互いにまだ様子見の段階。俺も積極的に攻めず、向こうも強引にボールを取りに来ない。だけど急激に流れが変わったのは3分が過ぎた辺りからだった。互いに相手の動きに慣れ始めた頃、遂に俺の方から動き出すことにした。


 具体的にはスリーポイントラインの前に立っていたにも関わらず、いきなり後ろへドリブルを初めて絶対に的に届かない場所からシュートを打つというもの。記憶としてはたぶん、全中の決勝戦の最後に打ったシュートに近いと思う。

 普通なら、こんなところのシュートを防ぎに来るはずがない。


 高身長のディフェンダーがいて、中からも外ギリギリからも狙えないから遠くから狙う。そういうヤケクソ気味の行動に見られてもおかしくないプレーだ。だから入れる自信はあった。むしろディフェンスさえいなければ、どんな場所からでもシュートを決める自信が俺にはある。ただしそれはあくまでもディフェンスがいない場合の話だ。


「……ッ」


 俺がシュート体勢に入った直後。

 眼前には壁が聳え立っていた。

 あのゴリラや巨人と同種の肉の壁が。


「フン‼」


 ボールを手から放した時、それは力強くコート上へ叩きつけられた。

 まさかあの一瞬で3ポイントラインを越えて、ブロックしに来るとは。

 正直驚いた。だけど思ったほどじゃない。

 あのゴリラを倒したことを考えれば、これぐらいやってもらわないと割に合わない。

 それにこの勝負は得点の勝負じゃない。俺がどれだけシュートを決めるかの勝負だ。


「こんなものかい? 全中覇者の力っていうのは?」

「心配するな。こっちもまだ全然全力じゃねぇよ」


 むしろ安心したぐらいだ、このトーテムポールが強くて。

 これなら本番の前に試せる。対ゴリラ用に練習した新しい技を。

 まあ練習し始めたのはここ3日の話だ。その分、まだシュート成功率は低いんだけど。


 それでもなかなかないはずだ。こんな実践的な勝負の中で、自分の刃を磨けるチャンスなんて。それに俺は勝負に拘るエースになることを決めたんだ。こんな対決、燃えない方がどうかしてる。

 俺が頭の中で新技を決めるイメージをしながら、ボールを拾おうとしていた時だった。


 コートの外から誰かに見られている気配がした。

 いや、勝負を始めた時からギャラリーはちらほらいた。

 でもこの気配は慣れ親しんだ誰かの――あいつの視線だ。

 きっとあのランジェリーショップで聞いたんだ。ここで誰かがバスケをしていることを。そしてその一人が俺の特徴と一致してた。だからここまで辿り着けたんだろう。相変わらず怖い幼馴染だ。


 でもそうか。あいつが来てるのか。

 ならより一層負けるわけにはいかないな。

 あいつの――フユの前で俺が負けることは絶対にない。

 なぜならあいつを二度と、敗北の女神なんかにしたくないからな。

 だからこそ俺は勝たないといけない。


「今負け越したところなのに、どうして簡単に口元を綻ばせるんだい?」

「決まってるだろ。現れたからだよ。唯一にして無二の俺の女神様がな」


 ボールを拾い、スリーポイントラインの前に立った直後。

 俺は声を掛けてきたトーテムポールに笑って答えた。


「…………」


 俺にはトーテムポールが止まっているように見えた。

 いや、たぶん向こうからすれば俺の方が異常に見えたはずだ。

 俺は流れるようにシュートを打った。

 自然過ぎて相手が反応できないほど、今日一番綺麗なスリーポイントを。


「これでまた並んだな。勝負はこっからだ‼ 舐めんなよ」


 力強く握った右拳を前に突き出し、俺はトーテムポールに挑む。

 ゲーム終了まで残り6分。


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