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第16話 公園で二人、運命に会う

 俺がゴリラに負けた日から数日後。

 今日はフユと出掛ける約束した日曜日。

 買い物内容が『下着』じゃなきゃ最高なんだけどな。


 待ち合わせ場所であるいつもの公園。

 そこで俺はベンチに座り、ストリートバスケを眺めていた。

 今使っているのは俺と同年代ぐらいの男が二人。

 プレーを見るに恐らくバスケ経験者。


「あの連携。チームメイトか?」


 俺みたいに1on1をしていた。

 どちらも明らかに強い。でも不思議なことに攻守が入れ替わらない。

 一人が常にオフェンスをし、もう一人常にディフェンス。

 その熱気から見て、遊びでやっているようには見えない。


「何、見てるのよ?」

「ちょっとな……」

「…………」


 俺が黙ってコートを眺めていると声が聞こえた。

 でも俺は二人の勝負に夢中になって目が離せない。

 それにしてもあのディフェンス、一体何センチあるんだ。

 明らかにウチの巨人や永玲のゴリラレベルの体格。

 一方で相手は小柄ながらもスピードを使い、インサイドをゴリゴリに攻めている。

 今のところワンサイドゲームになることなく、二人の試合は続いて――


「あの二人、すごく上手いわね。特にあの小柄な方」

「うわっ⁉ お前、いつから隣に座ってたんだよ‼」

「さっきから来てたわよ、このバスケバカ」


 俺が試合に夢中になっている間。

 いつの間にか隣にフユが座っていた。

 来たなら声ぐらい掛ければ……いや、確かに声を掛けられた気がする。


「もしかしてハル。あの二人と知り合い?」

「全然。今日初めて見た」


 だからこそつい気になったんだ。

 でもそれもここまでだな。


「しょうがない。まだ気になるけど行く――」

「少しぐらいならいいわよ。私もあの二人のこと少し気になるから」

「お前……俺のことバスケバカとか呼べないだろ」


 フユの発言に白い目を向ける。

 だけど俺としては少し助かる。

 小柄な方はともかくとして、デカい方には強く引っ張られる気がした。

 こんな感覚、巨人とゴリラ以外だと初めてだ。

 一方でフユの視線は小柄な方。帽子を深く被った相手に釘付けだった。

 2メートルを軽く超えたトーテムポールをターンで躱してからのジャンプシュート。


 あれを躱すだけでも驚きだが、もっと驚くべき点はさっきから一度もシュートがリングに触れない。ただスッと綺麗にネットだけを潜っていた。俺もよくやるからわかるけど、狙ってああいうシュートを打てるのは積み重ねた練習があるからだ。それも1万や2万どころじゃない。恐らくそれ以上のシュート練習をしているはずだ。


 それにしても何なんだ、あっちのデカい方。一歩も3ポイントラインから出てないぞ。

 両手のリーチが明らかに長いんだ。両手を広げただけでシュートコースなんてないも同然。躱してインに入ってもすぐに追いついてくる。しかも俺が見始めてから今のところ、一度もジャンプをしてない。それなのに平然とシュートをブロックしてる。むしろ、それでもシュートを数回決めている方を褒めるべきだ。俺でも攻略できるかは微妙なところ。冗談抜きに強いぞ、あいつ。


「……似てる」


 俺がトーテムポールのプレーに身震いしていると、小さな声でフユが呟いていた。

 彼女の視線は未だに小柄なフォワードヘ釘付け。それにしても一体何似て――


「ずっとハルを見てきたからわかるの。あの子のプレー、ハルにそっくり……」


 言われて目を凝らして見てみる。

 シュートは中からも外からも打ち、ドライブなどでも切り込んでいる。

 さらに時折見せる3ポイントは相手が悪すぎるだけだが、軌道的には確実に入ってる。

 でも――


「似てねぇよ。俺なら真正面からぶつかりに行く。エースに逃げ場はないんだからな」


 それでも心の中で思わず頷いた。

 あれは明らかに俺のプレースタイルだったから。

 小柄な体をハンデとして見せないためドライブとスリーを磨いて、最後にインも強化した俺と類似のプレースタイル。似てるどころじゃない。まるでもう一人の自分を見ている気分だった。

 それにしてもヤバいな。このままここに居たら、デカい方に勝負を挑んじまいそうだ。


「そろそろ行くか」


 俺がベンチから立ち上がると、フユが驚いた様子で俺に目線を合わせた。

 ベンチに座ってる人間と目線が合うなんて。俺はどこまで背が低いんだよ。


「どうした? 行かなくていいのか、買い物」

「そ、そうじゃないけど。でもいいの? 声ぐらい掛けてみても――」

「無理。今声なんか掛けたら俺、間違いなく今日の予定をほっぽり出すぞ」


 フユとの約束は確かに大事だ。

 でもあのトーテムポールにはそれを凌駕する程の引力がある。

 恐らく俺の本能があいつとの勝負を求めてるんだ。


「行くぞ。さっさと買い物を終わらせて昼飯だ」

「ちょっと待ってよ!」


 俺はコートに背を向けて歩き出す。

 置いてかれそうになったフユは慌てて追いかけてきた。

 未だに俺が声を掛けなかったことに不満そうだけど。

 まあそんな顔するなよ。焦らなくてもすぐ会えるさ。

 俺とお前がバスケを続けていれば必ずな。


 たぶん向こうも俺たちに気づいたはずだ。

 俺が歩き出す直前。確かにコート内の二人と目が合った。

 トーテムポールは無表情。小柄な方はすぐに俺から目を逸らして。それぞれ違った反応を見せてきた。強い相手同士、確かに惹かれる何かがあったんだろう。感謝するぜ、バスケの神様。おかげでバスケをやる楽しみがまた一つ増えたよ。


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