超大型害獣×操縦席
スローターヴォルレックス…
結晶竜…推定レベル120に分類される超大型害獣…
この世界の”災害”と呼ばれるものは台風や地震などではなく
結晶生物による害獣被害がそれに当たる。
レベル100を超える結晶生物に関しては
一国の都市を機能停止に陥れる力を持つ者とされている
しかしながら損害規模が大きすぎる事からその存在自体は都市伝説とされており
嵐と共に現れし竜…山々を噴火させる大猿…圧力で津波を起こす大亀など…
どれか一つでも現れたら国一つ滅ぼしかねない…噂話や伝承だった…
無数の骸を纏いし竜…
かつてヴォルレックスと呼ばれていたその竜は
翼を広げれば山よりも大きく漆黒の姿で太陽を隠し
夜を呼ぶ竜と言われていた…
しかし害獣駆除として幾度となく鉱石騎兵と戦い
皮膚を守る黒い液体が騎兵の武器や破損した手足、ひいては機体そのものを
飲み込み今その姿はまさに骸を纏ったような姿となっていた。
その姿を恐れた…伝え渡って来た事から虐殺を意味する「スローター」が加えられたのだ…
そして今…
禍々しきその”伝承”が人の目の前に現れたのだ…!
「あっ…あっ…あっ…」
伝承の怪物に声が出ない…
「ひっ!ひいいいいいっっっ!!!」
最初に叫んだのはクジャの側近の一人だ
「に、逃げないと…く、国が滅んでしまう!」
続いてもう一人の側近も叫ぶ!
おとぎ話の存在が目の前に現れたのだ…
冷静でいられる者などいない
「だ、脱出だ!!ひえええええぇぇぇーーー!!」
先ほどの墜落の衝撃波でエネルギー転換炉が壊れ機能を停止したゲシュライト
いざという時の脱出機能は生きており緊急レバーを引く事でコックピット内の装甲をパージすることが出来る。
しかし…
「ま、まて!貴様達!!わ、私のゲシュライトの脱出装置が動かん!!」
クジャの乗るゲシュライトは側近の機体に支えられていた為
干渉してパージが出来なくなっていた。
「ひいいいいーーーーー!!!」
「ま、まてっ!貴様らーーーー!!!」
側近たちはクジャの状況を知る由もなく一目散で逃げ出したのだった…
「グルルルルルルッ…」
採掘場に墜落し少しの間膠着したままだったスローターヴォルレックス…
”何か”に導かれこの場所へ来たようだが見当がつかず次に起こす行動は”食事”だった…
「ひぃ!!」
スローターヴォルレックスはその長い首だけを動かしクジャの乗るゲシュライトを見下した…
結晶生物にとって鉱石はエネルギーの源…それもこの大きな竜からすると鉱石騎兵も食べ物と変わらない…
「だ…だめだ…もうおしまいだ…」
怪物と目が合い、このまま食われると悟ったクジャ…
絶望したその矢先…
「おいっ!!」
「えっ!?」
ギイイイッ!
コックピットから見えない位置で誰かか叫んでいる…
そして、その誰かは支えていた側近のゲシュライトを動かしている?
いや、そんな事出来るのか?なんだ!?何が起きているんだ!?
そう、思った矢先…!
「ふんぬっ!」
バッキイイイイッ!!!
「なっ!!お、お前!?筋肉っ!!」
筋肉と言われたその存在は先ほどヴォルレックス墜落の衝撃でどこかへ飛ばされたはずのアルトだった
流石のアルトも先ほどの衝撃に巻き込まれ、頭を打ち登頂部から血が出ており右目を閉じている。
「お前…やっぱり昨日のヤツか…まぁ…いい…この機体…動くか!?」
飛ばされた場所からここまで猛スピードで来たようで息が荒くなっている。
しかし、クジャはその事よりも…
「き、貴様!!この美しき私のゲシュライトの装甲を引っぺがすとは!?
ふさげるな!この筋肉!と、言うか…なぜそんな簡単に出来るのだ!?貴様本当に人間か!?」
「鍛え方が違うんだよ!とにかく!その操縦を変われ!」
「や、やめろ!汚い手で触るんじゃあない!」
クジャの怒号を無視して操縦席に入るアルト
その勢いにシートの裏に逃げるように移動するクジャであった。
「き、貴様…何をするつもりだ!?に、逃げるなら機体を捨てて逃げた方が早いんじゃないか!?」
「…戦うんだよ」
「え!?」
「あの下には…あの化け物の下には俺の仲間が…大切な弟と…ほっとけない男が居る…」
「た、助けるって…あの怪物に立ち向かう気かっ!?正気かっ!!
待て待て待て!早まるんじゃない!頭を打っておかしくなったのか!?」
「絶対に助けるからな…!リエル…!ヤマサキッ!!!」
「え!?や、ヤマサキって!?お前こんな状況で何言ってんの!?」
「ち、違う!!それは名前で!あっ!なんだハンドル壊れたぞ!」
「この馬鹿筋!私のゲシュライトがぁーー!!」
~同時刻・鉱石場、洞窟内~
「うあ…あ…」
急な落石と共に体が咄嗟に動きリエル君を抱え込むように抱きしめていた
だが、どのみち大規模な落石で生き埋めになるところだっただろう…
俺とリエル君の真上に巨大な手が屋根の様になり落石から守ってくれたのだ…
その手の正体は聖石騎兵…先ほどまで半身が埋まっていたその存在は
片手を上に突き上げ、俺たちを守ってくれた。
そして、ほぼほぼその存在を露わにしている。
刺々しいシャープでなラインながらも
神秘的な黄金の肌は触れたものを安心させるようなアンバランスな異形さがある。
今もなお光るその赤い目は改めて見ると凄みを感じる…
これが本当の騎兵なのだ…
鉱石騎兵はあくまで聖石騎兵を模して造られたもの…
今、本当のロボットと対峙している
「に、逃げよう…ヤっさん…」
リエル君が崩れた岩をどかし道を作ろうとする…
しかしもうこの土砂崩れはこの手の上以外岩に囲まれてしまっている…
もう選択肢は一つしか…無い…
「リエル君…この機体に乗ろう…」
「え…?」
「岩をどかしてもまた土砂崩れが起きるかもしれない
このままじゃ生き埋めで死んでしまう…
だから…この機体に乗って起動することができれば
ここから脱出できるかもしれない…」
「い…嫌…嫌だ!」
「こ、怖い…怖いよ…ここから早く逃げ出したい…」
あの冷静なリエル君が息を切らしながら否定する
確かに鉱石騎兵とは違う凄みはあるが…しかし今は…
「そんな事!言っている場合じゃ…!」
グワァァァン…!
「え!?」
突然、目の前の聖石騎兵にゲートのようなものが現れる!
いや、この機体が一部”粒子”になってゲートのような形をしている…
そしてその粒子の先には…コックピット…操縦席が覗いていた…
「これに…乗れって言うのか…」
ゴゴゴゴゴッ!!
また!地震!?やばい今度はさっきよりも大きい!
「おわぁ!!」
目の前で地割れが起こり反射的にコックピットに乗り移る
しかしその地割れのせいでリエル君はこちら側から離れてしまう
「や、やばい!!リエルくん!早く!こっちに来るんだ!!」
「い、いやっ!いやだ!!乗りたくない!
怖い!怖いよ!ヤっさん…僕…もう…」
地震はいまだ続き地割はどんどん大きくなっていく!
このままじゃリエル君だけ取り残されてしまう…!
「早く!早くこっちに飛ぶんだ!!急いで!!早く!リエル君!!!」
「僕は…いいから…ヤっさんだけでも…」
「!!!?」
その言葉を聞いたとき…ぞわっと込み上げてくるものがあった…
あぁ…
思い出した…
俺は…あの時…あの子達を救えなかったんだ…
だから…仕事に…逃げたんだ…
その子達は離島に住む兄弟だった…