40歳×異世界転移
折り返し…
そう感じたのは5年前だった…
大学卒業後、社会人となりごくごく一般的な営業職となり
日々電車に揺られながら業務を遂行していた。
上司に叱られ、後輩は出世をする者もいて…それでも自分は一生懸命頑張っていた。
「自分は成長できる」「なんでも経験値にする」をモットーに35歳を迎えた時…
一つ気付いたことがあった。
よく叱ってくれた上司は定年を迎え窓際に…
自分よりも出世した後輩は何年も前に退社し、聞くと所によると起業を始めたと…
そう、人間は年を取る…20代、30代の間にキャリアを積まなきゃ出世は出来ない…
気付いたら35歳…特に出世もせず平均的な社員として過ごしていた。
自分に営業は向いていない…裏方の方が向いている…転職を早くした方がいい…
そう気付いてはいたが仕事には慣れてしまい転職を結局する事なく
毎日同じ日々を繰り返しとうとう40歳手前を迎えたのだ…
「ヤマサキさん~結婚とかしないんすか~」
「え…?あ…あぁ…特に考えてないな…」
「人生はもっと楽しい事ばっかりッスよ~もっとエンジョイしないとw」
それを言われたのは40歳を迎えた日、飲み会の席で新人社員に言われた一言だった…
その一見無責任ともいえる発言が自分、山崎陣には突き刺さるものがあった…
フレッシュな新人…やり直したい…俺もこの歳に戻ってあの時ああしていればきっと出世できた…
そう考えていた時にはもう時すでに遅く…
特に熱中した趣味もなく、まして女気もなく
40歳を迎えて得たことは、ただただ一生懸命20年近く働いてきた実績だけ…
このまま歳を取り続け、定年までずっと同じことを繰り返すのだろうか…
俺の人生…こんな感じなのか…?
そう考えたら背筋が凍り涙が出そうになった…とりあえず酒を飲むだけ飲みこの場を終えようとした。
「ちょwヤマサキさん飲みすぎっすよw足がフラついてますよwちゃんと家まで帰れるんスか?w」
「大丈夫…大丈夫だよ…一人でいけるから…それじゃ…」
おぼつかない足取りで自宅マンションに帰ろうとする。
近くの公園をショートカットして…この階段を降りたら…すぐ…
カツンッ…スル…ガッ!
「え…!?」
宙に浮いた感覚だった…
ダッ!ズッ!ズルルルルッ!!ガンッ!ダガンッ!!
そして…次に来た感覚は激痛…
「あ!?え!?あ!あぁ!あああああぁぁ!?」
ダダダッ!ガッ…バンッ!!!
頭?腕?足?全身?そう考える間もなく痛みは続いていく
石階段から転落していた…全身から転び最後に地面に頭を強く叩きつけた。
「う…あ…あぁ…」
痛みで身体が動かない…意識もどんどん薄れていく…
夜の公園で人気も無い…誰も助けに来ない…
このまま気付かれず死んでいく…あぁ…地味だな…なにもかも…
俺の最後って…これか…こんなものなのか…
あぁ…楽しかったなあ…小学校の時、幼馴染と一緒にダンボールの秘密基地で遊んだこと
幼馴染のルミちゃん…今何してるんだろなぁ…結婚して子供も居るんだろうなぁ…
あー…あの時一緒に遊んだSDのロボットを操縦して世界を救うゲーム楽しかったなぁ…
それのプラモデルもいっぱい作ったな…あの時は本気でロボットに乗りたいと思ってた…
こんな事ならもっと…趣味を作ったり、婚活したり…
堅実に生きるんじゃなく…もっと、もっと人生を楽しんだら良かった…
きっと違った未来が…あったはずなのに…
やり直したい…
新しい人生を…やり直せることが出来るなら…
もっと夢中になれることを見つけて
後悔の無い歳の取り方をしたかった…
など激痛に耐えながら思考を巡らせていると
そのまま…意識は消え…
たかに見えた…
「ひっ!た、大変!人が倒れてる!?」
「あ!あぁ…だが、なんだ?こいつのこの格好?」
「とりあえず運んで!アルト!」
「あぁ!そ、そうだな!よいしょっ!」
あ…だ、誰か助けてくれたのか…
よ、良かった…このまま病院に…骨折とか無いだろうから
明後日くらいには会社に復帰できる…迷惑掛けずに済む…
そう思っていると今度こそ眠りにつくように意識は消えた
抱えてくれた人の「この格好?」…の言葉に引っ掛かる事もなく…
…
「…はっ!」
目が覚めた…!ここは…びょ、病室…?
ん?なんだ…?ベットじゃないのか…式布団に雑魚寝か…ま、まぁそれはいいが…
俺が眠っていた室内はまるで砂で作られたかのような室内だった…
よく海外旅行などで先住民族が住処にしている家のような球体な形みたいだが
天井に隙間がありそこから光が漏れている…電気も無ければTVや窓なんで勿論ない
あるのは人が一人通れるくらいの通路くらいだ…
なんだ?日本なのか?まさか助けてくれた人は外国人で海外に?
ヤバイ!それはマズイぞ!会社に連絡しないと!?
携帯!?携帯が無い!?あの時落としたのか!?そ、そう言えば鞄も無いぞ!
「あ…い、いてて…」
と、と言うか上半身裸!?服の代わりに包帯が半身巻かれている!?
あ、そうか…怪我してたからか…包帯の量の割りに痛みは少ない気がする
い、いやいや…余計に焦るって!?どこなんだここは!?
「お…目ぇ…覚めたのか…?」
「え…!?」
と、言って人一人分の通路からタンクトップ姿の青年が入ってきた…
鋭い眼光をしているが怒っていてはいなさそうだ。短い髪形で身長は170くらい?
しかしながらタンクトップに似合う筋肉量がありガチムチまでとはいかないがガッシリしている。
「あ…は、はじめまして…!私は山崎陣と言います!」
「うぉ…!お、おう…お、俺はアルト・ラインハルトだ…」
俺が感謝も込め食い気味の自己紹介をしたためかアルトさんは少し引いた様子で返事を返してくれた。
と、言うかラインハルト…やっぱり外国なのか…?
しかし日本語がペラペラだぞ…
「アルトさんですね!この度は私の勝手な事故にもかかわらず
人目を顧みず病院に連れてくださりありがとうございます!
アルトさんは命の恩人です!もしかして怪我の治療もしていただいたのでしょうか?
何から何まで誠に…ありがとうございます!」
「うぉ…!お、おぉ…」
「アルトさん…それで、ここはどこの病院なのでしょうか?
日本にしては少々古風と言うか…アルトさんのプライベート空間とか!?」
若干営業トークになってしまったが感謝をしているのは本当
しかし感謝と共に様々な疑問が浮かび声に出してしまう。
「い、いや…病院?日本…?そ、それにしてもヤマサキ…
と、とりあえず治療したのは俺じゃねぇ…」
「え…?」
「あれ?目覚めたのー?」
その声と共にアルトさんが入ってきた入り口から新しい人が入ってくる…
人…?
確かに人の声だが…その声と共に4足歩行の…10歳くらいの少年が入ってきた…
アルトさんの隣まで歩きまるでミーアキャットのようにぴょこっと立つ。しかし膝は曲げたままだ。
「あぁー…よかったぁ…即席の水剤だったから…元気になってよかったぁ…」
4足歩行まではまだいい…その少年は透き通るような水色の髪の毛で左目が隠れている…
右目しか見えないがとてもレッドアイの綺麗な瞳だ…しかし…耳…本来髪の毛で隠れているはずの
耳の位置が頭登頂近くにあるのだ…それも大きい…キツネのような三角の耳…
「えっと…お名前は…あ、ごめんなさい…先に名の名乗らないとですね。
僕はリエル…リエル・ルーファです!」
「じゅ…獣人…!?」
「おい、リエル…こいつの名前…や、ヤマサキ…らしいぞ…」
「え…え~~~~~~」
なんだ…?なんだ…?何なんだ…?
「一体…!なんなんだーーーーーーーっ!!!」
叫んだ時には布団から飛び出しそして出入口に飛び出す…
そこに…映った光景は…
ガキィン!キュウン!ゴオオオオ…
「…こ、これは!?」
そこに写る景色は遥かな草原。透き通るような青い空…
それだけ言えば海外のどこかの国で済むだろう…
しかし草原の先で家を組み立てている約5メートルの…2頭身ロボット…!?
青い空には島々が浮かんで…そう、島が何も変哲もなくいくつも浮いている…!?
そして先程から作業音を鳴らしながら家を組み立てているロボット…
現在の技術じゃ不可能なほど精密に巨大サイズのレンガを積み立てている…
ロボットの奥をよく見てみると…近くで子供たちが…遊んでいる…?
4足歩行で…!?猫や犬の様に…獣人の名の通りもちろん耳も三角だ…
違う…ここは日本でも海外でも無い…
俺が住んでいた世界じゃない…
「おい…あんた…急にどうした…?」
「こ、ここは…」
浮かぶ島々…獣人の人々…
そして…2頭身ロボット…
嘘だろ…?間違いない…
「ここ…異世界ですかッ!?」
「うわっ!びっくり!」
40歳を迎えた今日…俺は謎の高揚感と共に
この異世界に転移していたのだ…