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霊界案内人の私と猫に化けた妖狐  作者: 瀬ヶ原悠馬
第一章 黒猫が前を通る
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6.父親は成仏しない

 自販機の近くまで行くと、そこにはまだあの幽霊がいた。やはり、成仏する気はないようだ。正面にいる座ったままの凛子の父親は、顔を見上げずに答えた。

「君か?」

「あなたの娘だったんだね」


 なにも答えない。

「凛子さん、あなたと喧嘩してそれっきりだったこと、謝りたがってた」

 耳は傾けてくれていると信じて、話をそのまま続ける。


「どうして自首しないのかわからないけど、それについては悩んでる感じではあった」

「そのことはどうでもいい」

 それについての反応は、かなり勢いをつけて答えたように早優は聞こえた。


「別に私は警察じゃない。危ない人じゃなきゃ普通に接するし、危ない人なら逃げるだけ。あなたが気にしてるのかどうなのか、もし伝えたいことがあるならなんらかの形で伝えようかなって思ってる。それだけだから」

 しばらくの沈黙が続いた。黒猫のことだけの話をしようか、そのまま帰るか。


「あいつ、そんなこと思ってたのか」

 答えが返ってきたので、そのまま話を進める。

「そんなこと言ってた」

「俺も謝りたかったし、あそこで轢いた相手側に凛子がいたって気づいて、放置されても仕方ないかと思った」


 早優は、相槌を打つくらいしかできなかった。言葉が出てこない。

「もし、あいつに会うことがあれば、伝えて欲しい。別に怒ってないって。俺も悪かったって。まぁ、難しいとは思うが」

「わかった。さっき連絡先まで交換できたからできなくはないけど、頑張って伝えるよ。伝えるとなったら

、視えることだけは言わないといけないけど」


 妙に悩んでしまう沈黙だ。なにか失言があったのだろうか。その時、あっと思った。特に面識もないような相手と今日会ったその日に話して、連絡先を交換するだろうか。


 友達だとかと思ってくれればそれでいいが、連絡先を葬式の時に交換するだろうか。つまり、なにかしら事件を暴こう、警察につきだそうと考えていると悟られたかもしれない。


「べ、別に、変な意図があったわけじゃないよ。単純に、心配してただけで」

 上手く誤魔化せたかわからない。確かに、最初は捕まえるつもりで行動しようとしていた。背後霊、喫茶店の一件と話を聞いたことで、今は違った感情でいる。


「うちの娘を、よろしくな」

「う、うん。猫のことも忘れてないから。わかったらまた来るよ」

「ああ、ありがとう」

 娘の父親の元を離れ、この場所を後にする。


 ガードレール沿いに移動していると、紫苑がまた姿を現した。

「今のはあかんかったんとちゃうか?」

「仕方ないでしょ。初めてなんだし」

「今回は悪さをするような相手じゃないだけマシやけど、次はそうはいかんかもしれへんなぁ」


「またこんなことさせる気?」

 食って掛かってしまった。慌てて周りを見渡すが、誰もいる様子はない。鳥のさえずりが聞こえるのみ。

「刀は返す。けどなぁ、お前さんが好きになってしもた。やから、これからも一緒に居させてもらうで?」


「そんな顔して言われても嫌」

「なんや冷たいなぁ。妖怪なんやし、大目に見てくれへんか?」

「妖怪だからって言われても」

「変な男よりかはマシやろ? うちはべっぴんやし」


「それ自分で言う?」

 くすくすと笑う。

 寺に登る階段に辿り着き、その階段を登る。紫苑は足元が黒く靄が出て、空中に浮きながら早優と並走していた。


 早優はその場で足を止める。

「すっごいずるいんだけど」

「妖怪になってみるかぁ? お前さんならなれるかもしれへんなぁ」

「絶対嫌」

 再び歩き出す。


「しかも、幽霊じゃなくてなんで妖怪なの」

「うちと仲間になってくれれば、楽しいやろ?」

「あんただけでしょ。それは」

鏡月(きょうげつ)というやつがおってな。人間にわかりやすく話すと雪女やな。あやつと話したことあってなぁ。自分の周りでは雪が降るくせに、私は寒いのが苦手だー言うててな」

 と、楽しそうに話す。


「へぇ、寒いの苦手なんだ」

「意外やろ?」

「まぁね」

 家にたどり着き、中に入って一息ついた。


     ・ ・ ・


 夜まで回ってしまう。ベッドの上で寝転がり、天井を仰いでいた。


 あれから、なんて連絡しようかと色々考えてはいたものの、自然な流れで連絡することを思いつかない。凛子の父親に対しての質問の一件で不安になってしまった。


 そこまで過敏にならずとも良いはずなのだが、一度失敗をしてしまうと気になってしまう。心が煽り立てられることに連動して、心臓の鼓動を強く感じた。


 そんなとき、枕元においてあったスマホが音と共に振動する。スマホの画面には、凛子の名前が表示されていた。電話に出る。

――どうしたの?

――助けて! うちに来て!


 ただ事ではないようだ。酷く怯えている。

――鍵かけた?

――うん。掛けた。

――警察呼んだ?

――取り合ってもらえないよ。


――いいから110番して。

――うん。

――私も行くから、住所教えて。

 住所を聞いたので、素振りで使っている木刀を持って今からバイクで向かう。

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