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完 裁判の判決

 如月の会のとある一室。

 裁判の結末を、部屋の外から見ていた。横長のテーブルに各々が座っている。廟連宗司の呪い代行には、再現性がないと証明する側と故意でやったと証明する側に分かれ、お互いが向き合っている。

 その中央に、禅堂と共に廟連宗司がいた。禅堂が外に出られないように、その周囲を結界で四人もの人間が囲って封じている。裁判官を担う女性が声を上げた。


廟連(びょうれん)宗司(そうじ)。自身が作った掲示板でユーザーに成りすましてアカウントを作り、様々な人間の呪い代行をしてきました。これまでに多くの呪いを代行し、事故に至るものと至らないものを調整するまでの周到な計画。送り狼と手を組み、それを実現させてきました。廟連宗司には異能もない、送り狼がいなければ出来なかったことも明白で、協力していたと言えるでしょう。

 あなたたちのしたことはまぎれもなく再現性があり、故意によって行われたこと。特に、決め手となった銭田(ぜんだ)凛子(りんこ)(かえで)京子(きょうこ)の事件は、衝撃と言わざるを得ません。よって、その命力を凍結いたします。この世界の事は口外なさらぬよう。その体で生活できることを感謝しなさい。もし口外しようものなら、わかりますね? あなたが呪いを掛けられるように、私たちにもそれくらいの事はできます。ただ、たやすく死ねはしないことをご理解ください」

 禅堂が歯をむき出しにする。

「お主らはなにもわかってない!」


「なにか仰りたいことでも?」

「お主らは何故、あの下世話な人間たちに黙っている! 異能を持つ端くれなら、その屈辱はわかっておろう!」

「それがなにか?」

「今は科学技術が進んで、信仰を失いつつある。特殊な能力を持った人間が崇められることもなく、神は利用されるだけ利用される。世界の片隅に追いやられ、信じるものを愚弄する人間もいる。そんな人間は祟られて当然だろう! 妖怪が何故生まれたか、そんな理由もお主らは忘れたか!」


 紫苑がいきなり出てきて、声を発した。

「ここに知らへんやつがおるさかい、ちゃんと説明した方がええで?」

 実際知らないから説明してもらえるならありがたい。一斉に紫苑に視線が向く。

「確か、紫苑と名乗ってたな?」

「そやな」

「お主は憎くないのか」

「やから、人間に悪戯をするんやろう? 懲らしめへんでも、楽しむやり方はいろいろあるで?」


 呆れたように鼻を鳴らす禅堂。

「お主らしいな。知らない人間もいるということだから、改めて話してやろう。妖怪とはそもそも、人間の作り話で生まれたものだ。解明出来ない理不尽な現象を悪魔という存在にすり替える。夜は危ないということを伝えるために、のっぺらぼうや送り狼の伝説を作った。猛吹雪の雪山で遭難する、そのような危険な場所と伝えるために生み出された雪女の存在もそうだ。

 紫苑、お主もそのようなものだろう? 我々は、そんな危険から遠ざける目的で作られ、そして生み出された。それが役割だから、悪意なんてものは持ち合わせていない。悪意など、人間だけが持てる唯一の感情だ。我らにとって怖がらせることは、お主らで言うところの仕事のようなものだ。それがなんだ! 信仰が薄くなった今は、送り狼という伝説を悪用したではないか! 我らにとっての名は、誇りそのものだ。それを汚した存在を懲らしめてなにが悪い!」


「悪用?」

 思わず、早優は口をついて出てしまった。

「親切を装って困った女性を家まで送り、乱暴しようとする男の事を呼ぶそうだな」

 その時、ハッとさせられた。初めて送り狼と対峙した時に、紫苑が珍しく真剣に叱られた時のことを思い出す。


「そ、それはでも、たとえで」

「たとえがなんだ! 私は決して、女を追いかけまわしたのではない! これが愚弄していると言わずしてなんと言う!」

 紫苑が声を発した。

「何故、宗司はんと一緒におる。人間と無理に生活しはることないやろ?」


「最初は襲うつもりだった。他の人間に比べて、命力を鍛えていたからな、美味しそうだと思った。鍛えているせいで私の存在にも気が付いた。だが、こやつは他とは違かった。神や妖怪に敬意を払い、霊の存在を信じるもの。霊を目で見て、耳を傾ける人間だった。その上、私と同じように、信仰を愚弄する人間たちを憎んでいた。だから宗司に力を貸した! 異能を持たぬ人間でありながら、その心は敬意に溢れている。

 愚かな人間が、嘉成家や如月の会を侮辱するような扱いをするから始まっただけの事」

 嘉成家の火災について触れていた番組を思い出す。オカルト雑誌などでも嘉成家に触れていて、それの扱い方が呪い代行業の発端であったと裁判で語られていた。だが、銭田凛子や楓京子は違う。


 関係のない人間を巻き込んだ、その事実は変わらない。早優は言う。

「凛子や楓さんは、むしろ霊の存在を信じている側の人だよ。だからこそ、私の力を信じてくれた。あなた方は結局、無関係な人まで巻き込んだだけ。自分のしたこと、ちゃんと考えて」

 人に言えた身ではないことくらいわかっている。だが、早優も同じことをしているからこそ、今回はこの言葉を吐くに相応しいとも感じた。宗司は声を発した。


「言ってもわからんよ。理解されると思ってたら、こんなことしてない」

 痛いほど伝わってくる。しかしそれでも、償わなければならない。

「早くしろ。凍結するんだろ? もう二度と、お前らと関わるつもりもない」

 宗司は二人に挟まれて連行。未だ結界を解かれずに閉じ込められている禅堂。そんな中、裁判長がこちらに視線を向けた。


「あなたが、退魔刀を持っているんですよね?」

「はい」

「送り狼が暴れるかもしれません。お願いします」

 刀を持って、結界の中に足を進めた。禅堂は牙をむき出しにして、警戒心をより一層強める。毛を一気に逆立たせた。根入が封印用の神木をもって、早優の隣で声を発する。


「暴れると、手荒な真似をしなくてはいけなくなります。良いですね? 大人しく」

 言うことなど聞くつもりは毛頭ないと言わんばかりに、遠吠えを上げる。すると、床から真っ黒の人型が五人現れ、早優に向かって歩いてきた。結局、戦わなければならないのか。


 鞘から刀を引き抜き、手前の人間から切っていく。たった一振りで亡きものにできたが、まだ四人も残っている。そんな時、床から生えた黒い人型が早優の足を掴んだ。全く動けない。あたふたしている中、増えた人型までもが群がってきた。


 近くの人型から順番に切っていくが、処理が追い付かない。

「仕方がありませんね」

 根入がそういうと、なにか呪文を唱え始めた。すると、黒い人型の増殖が収まる。抑えている足元の人型、そして残りの人型を次々となぎ倒していく。残りの二人になったところで、苛立ちを隠せない禅堂が牙をむき出しにして根入れ目掛けて突っ込んできた。その隙を突いて退魔刀の斬撃。右目から足にかけて、鋭い傷を作る。透けた赤い液体が飛び散り、根入の体を貫通して転倒。


 根入に傷はない。禅堂はなんとかして立ち上がろうとしているので、その隙に根入は禅堂から離れる。早優は暴れられないよう、禅堂の力を弱らせた。体中傷だらけ。頼まれたからやったとはいえ、本当にこれでよかったのだろうか。

「私は許さぬ、許さぬぞ」

 そう呟く禅堂。絶命に近い中、体がわずかな息で上下する。根入は封印の神木を前に掲げ、それに禅堂が吸い込まれいった。血の跡すらそこにはない。根入は終わると、握手を差し出してきた。

「助かりました。ありがとうございます」

 早優にはまだ、納得がいっていない。そんな不満を抱くも、握手を交わす。

「これで本当に」


「仕方がありません。こういうこともあります」

 早優はゆっくりとお辞儀をした。この部屋を後にする前に言いたいことを口にしようとしたとき、根入の口が動いた。

「白澤さん。退魔刀は返してくださいませんか?」

「え?」

「私たちにそれは必要なんです。お願いします」

 花蓮からもらった大事なもの。だが、金輪際嘉成(かなり)家とは関わらずに生活するつもりでいたかったし、花蓮の望みも叶えられる。これでは逃げることになるかもしれないが、それでもやりたいことはあった。根入の足元に刀を置く。


「ただ、霊の供養だけはさせてください」

 言いたかったことが言えた。

「供養、ですか?」

「はい。お願いします」

 罪を犯した者。せめてもの贖罪だ。これをする権利が早優にはある。深々と頭を下げる。

「いいですかね?」


 そう、裁判長に根入は聞いたのだろう。

「はい。ですが、悪霊の対峙や裁判が必要な時は、私どもの役目です。あなたは手を出さないと約束でいるのであれば」

 早優は頭を上げる。

「約束します」

 部屋を後にした。

 紫苑とどれだけ共にいるかはわからないが、早優の贖罪は死ぬまで終わらない。霊障に悩む人間を助け、これからも霊を供養していく。そう心に誓った。

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