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閻魔と狐――閻魔を継ぐ娘と美人の妖狐――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 人形は私の家。体はまだない。
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11.悪霊の強さの秘訣

 知らない家のリビング。視線が妙に低く、立っている気がしない。左端にテーブル乃の角が見切れている。そのテーブルの真向かいに当たりに、扉の蝶番(ちょうつがい)が見えたところを考えると、恐らくこの部屋の出入り口なのだろう。


 煌々と照らされた黄土色の光が部屋全体に行き渡らせ、ここから正面に見えるソファーとテーブルの周りには誰もいない。物音も聞こえず、なにかを感じることもない。そこに蝶番のラインを越した扉の縁が見え、姿を消した。


 一人の女性が現れる。あの人形を持ち込んできた依頼主、楓京子だ。仕事帰りの疲れた様子で、ソファーにぐったりと腰を掛ける。すぐにまたリビングの扉が開き、一人の男が現れる。それは、右腕を失った旦那の姿だった。

「おかえり」

 旦那が、楓に向かってそう言う。唇に軽くキスしていた。隠れて見えなかった楓の顔は、幸せそうにほころんでいる。


「ただいま。今日はどうだった?」

 旦那は、木製のテーブルの方に向かって歩いていく。

「順調だよ」

 仕事の内容を話しているようだ。しかし、この何気ない姿にふつふつと湧き上がってくる邪悪な感情があった。


 この幸せが憎い。自分がこういう生活を送っておらず、なぜこんなやつが順風満帆な生活を送っているのか、そんな悶々とした嫉妬が渦巻く。この凍てついたどす黒い感情を誰かにぶつけたい。足が疼いて抑えきれない。


 この抑えきれない衝動に襲われている。

 旦那はこちらを向き、呟いた。

「なぁ、その人形、別のところに置かないか?」

 人形。そうか、あの悪霊が住んでいた人形の中にいるのか。

「可愛いじゃない」

「まぁわかるけど、誰からもらったんだっけ?」

荒牧(あらまき)さんから貰ったの。話したでしょ? なんかお礼に貰っちゃった」


 その言葉に対しても、湧き上がる憎悪と愉悦があった。自惚れるな、自分が正しいみたいに言うな、上司だからとえばり腐って、殺してやる、この人形に気づきもしてないなんて哀れなやつ、あらゆる感情が流れ込んでくる。なぜこんなにも膨れ上がってしまったのか。


 ただ、そんな感情にさせられるということが、ある種のヒントになっている。この存在は楓の部下であること、そしてパワハラに近いものを受けて恨んでいることだろう。そんな時、近場から声が聞こえた。

 ”お前は誰だ”

 男の声だ。しかも、ここにいる旦那の声ではない。それに、気持ちが勝手に答えている。

 ”そうか。俺達、組まないか?”

 心のうちから湧き上がる闇の炎、湧き上がる憎悪。火に油を注ぐような、混ぜるな危険の物質同士が混ざり合い、途轍もない力となっていく。


     ・ ・ ・


 意識が昇ってくる。体の感覚に気づき、いつもの部屋の匂いを感じる。目は開けてないが、早優自身の部屋だということを理解した。布団の仄かな温かさに安心するが、あの夢のせいで妙な心地だ。


 目を開ける。そこに誰かがいるわけでもない。

 上体だけ起こす。そういえば、と魔が差すようにして現実を振り返ってしまった。片足が動かない。


 布団に隠された右足、感覚はあるから安心できるとは言え、その足が変色していたらどうしようという不安に駆られる。右足を切断などという事態になったら、そんなことを考えていると、どんどん気持ちが沈んでいった。


 扉が急に開いたので、視線が行った。花蓮が中に入ってくる。早優の姿を見て一瞬足を止めたが、傍で正座をした。

「お加減はどうですか?」

「わからない」

「これから病院に行きましょう」

「大丈夫。紫苑さんの言うように、倒せば帰ってくるから」


「いいえ。ちゃんと行かないと」

「やだ」

「そのままでいてもどうにもなりませんよ? 一応は調べてもらわないと」

「調べてどうなるの?」

「立てます?」

「やだ」


「不安なのはわかります」

 わかるはずもない、そう思ったが、口から出ることはなかった。花蓮は口を開く。

「どうすれば行く気になりますか?」

 なにも答えない。早優もどうしていいかわからないのだ。不安でこの先へ進むことができない。とりあえず、現在の足の状態を見れば良いだけだ。それはわかっている。


 左の足を動かした。膝を立てることはできる。脳から命令するが、案の定右足が動くことはない。その動きを見てか、花蓮が布団をめくろうとする。早優は、咄嗟に布団を掴んで止めてしまった。

「代わりに私が見ましょうか?」

「え、え」

 動揺を隠せない。早優がどう答えようか迷っている時に、花蓮は答えも聞かずに足元の布団の裾を持ち上げた。


「全くもって変化ありませんよ」

「ほんと?」

 早優の手元にある裾を花蓮は握る。

「いいですか?」

 優しい笑みを浮かべて言った。早優はその手を離して受け入れ?。ゆっくりと布団がめくられ、長ズボンのパジャマを託し上げていく。綺麗な足が現れた。


 心底安心した。一瞬にして心が(ほぐ)れた気がする。

「ごめん、ありがとう」

「いいえ。少しは病院に行ける気がしましたか?」

「ちょっとだけ」

「では、準備しましょうか。一茂さんが車で連れて行ってくれますし」


 早優は自分で立ち上がろうとするのを見て、花蓮が肩を組ませて立ち上がらせてくれる。花蓮の介抱の元、着替えを順調に進ませていった。

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