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閻魔と狐――閻魔を継ぐ娘と美人の妖狐――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 人形は私の家。体はまだない。
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7.持っていったものは

「でも、なんでそんなに強くなったんだろう」

 麗乃は筆やら紙やらをバッグにつめ、諸々の身支度をしている中、そう聞いてきた。

「そりゃあ、相当強い呪いを掛けたからじゃ」

 紫苑の話を思い出す。思いが強いからと言っても限界があるはずだ。そこに能力が介入したとしても、凛子の件を見る限り、同じ呪いを何回もかけたことによってより強力になる。最初からここまでというのは、果たして強い呪いを掛けただけなのだろうか。


「もしかして、紫苑さんからなにか聞いた?」

「うん。その話をちょっと思い出して」

 凛子の事件で起きた、まだしてなかった呪いを二度かけたことによって強くなった話を加えて軽く説明する。

「なるほど。最初から何度も呪いを掛けてるって話でもなさそう。もしかしたら、呪いを掛ける強さというのがあって、一番最上級のやつを願ったからここまでの事になったのかもと思ったんだけど、それでもちょっと引っかかるかなぁ」


「私たちを襲ったこと?」

「そんなところ」

「凛子に取り付いた生霊は私にも攻撃してきたんだし、ありそうなものじゃない?」

「うーん、まぁそうか。そういわれればそうだと感じるけど」

「そんなに引っかかる?」


「違うなにかもあるんじゃないかなぁって。なんか思いつかない?」

「うーん」

 考えてみる。宗司や呪いを掛けた人間の思いの強さではない、それ以外の話となると、思いつくだけでも楓の家族の死と守護霊の話だろうか。ただ、その点に疑う余地はない。だが、気になると言えば腕だろうか。右腕左腕、実物を見た時にもその切断した腕は悪霊にくっついていた。


「そっちじゃないんだけどさ、この霊もしかして、自分の体を探している?」

「確かに誰かの右腕と左腕を奪ってるわけだし、次は足やら胴体ってことも考えられそうね。でも、その腕は霊体なんでしょ?」

「たぶん」

「まぁ、実体化してなくてもしててもどっちでもいいか。その霊がどういうつもりで行動してるか、だもんね。それを考えたら、この霊は体を探しているってわけだし。そうなると、誰かの足を狙ってる」

 それを聞いて、背筋をそっとなぞるような感覚が走った。鳥肌を我慢しているむず痒さが体にある。なぜ今まで気づかなかったのだろうか。楓から霊障を聞いたあの時に気づいたはずだ。


 麗乃は口を開く。

「ただ、そうなると気になるのは、誰かを恨んで人形に呪いを宿したんだどすると、当然その思いだけで誰かを呪って行動する。楓京子さんを守った守護霊さんの話からして、彼女を狙ってたのは間違いないじゃない? 守ったその時から既に腕を奪っていたわけだし、そうなると不思議な話よね」

 いわれてみれば確かにそうだ。しかし、そこは呪った感情――麗乃が言うような気持ちで考えるならば、腕を切断したほどの強い怨嗟があると考えてもいいのだが、問題はその腕を自分につけているということだ。


 もちろん、これは強い怨嗟によって事故を起こしたというその思いの部分ではなく、腕を切断するその行為に対する怨嗟である。人間でいうなら人を殺すのとバラバラにするのとの違いで、いわば動機だ。


 奪うだけならばつける必要はない。明らかにそこに作為的な思いがある。それは当然、生者の体を奪って自身が受肉することだ。さながらフランケンシュタインのように。

 そんな時、人形が倒れた。

「お、早速?」

 しかし、倒れただけでなにもなく、辺りを見渡しても変化の一つすら見当たらない。仮に霊が抜け出したのであれば気付く。そうでもないのに、こうして不可思議な現象が起きている。


 どこからか叫び声が響き渡る。二人の男の声だ。完全に身支度を終えている麗乃はあたりを見渡して、窓から顔を出した。

 ここからでもわかる日差しと、下校途中と想像する若い男の二人の談笑する声が聞こえるだけで、様子が変なところはない。


 やはり霊である。未だにその悲鳴は聞こえており、なにがどうなっているのかはここからだと一切把握ができない。麗乃が人形の前に座ろうとしたその時、その人形から二人の男が出てきた。腰を抜かして背中をを腕で支えている。一人は眼鏡をかけたオールバックの中年の男性で、もう一人は活発な青年といったところだろうか。


 特徴的なのは、中年は左腕を無くしており、青年は右腕がない。

 移動するモーションをせずに、頭を抱えて蹲っている姿に切り替わった。青年は座ったまま放心している。

「大丈夫?」

 早優は中年に声をかけた。

「助けてくれ!」

「なにがあったの?」

「ここは安全なのか?」


「うん」

「人形の中から出てきたんだけど、この中どうなってるの?」

「どうなってるもなにもないさ! 家の中そこら中血だらけ血まみれの空間で、声も出せなかったんだよ!」


「早優さん!」

 そんな時、血相変えて麗乃が聞いた。

「どうしたの?」

「家に電話して!」

「なんで?」

「いいから早く! 私が供養するから!」

 理解も追いつかないまま、スマホで花蓮に電話を掛けた。保留音が二度三度と鳴る。それが終わりを迎えると、スマホの奥から花蓮の声が聞こえた。


「そっちどうなってるの?」

「どうなってるとは?」

「なんかあった?」

「いえ。ですが、早優さんの部屋からでしょうか。物音がずっとしていたのと、階段を駆け上がるような足音をしてました」

 それを聞いて、はっとさせられた。麗乃が急かせた理由がここにある。おそらく麗乃は、腕のない人形を見て霊に奪い取られた旦那と息子だろうと推測。


 そして、人形から悲鳴を上がり、その二人が逃げ出すように外に出てきた。”血まみれ”という言葉を聞く限り、人形の中がその部屋のような状態になっており、そこで例の悪霊と共に生活していた。


 場所に閉じこもっていたかなにかをしてずっと息を潜めていたために、周りの様子を知らなかったのかもしれない。腕が悪霊に奪われたままの二人は人形に魂が囚われ続け、そこにいざるを得なかった。


 その二人がこうして外に出られと考えられる理由は一つ。あの悪霊はもうここにはいない。早優の家にいる。スマホをポケットに入れ、麗乃の方を見やると、既に供養は済ませていた。

「早く行こう」

 早優は人形を持って、麗乃と共に早優の家に向かう。

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