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閻魔と狐――閻魔を継ぐ女と美女の妖狐――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第一章 黒猫が前を通る
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12.これだけでは腑に落ちない

 夕暮れに近づいている。

 早優の家に送りつけた後、しばらく考えた後に紗奈の家近くで張り込みをしていた。


 というのは、紗奈のあった痕跡ことである。死霊が取り憑いていることもなければ守護霊もいない。いない人間は普通に存在しているが、それよりも犬のような獣の噛み跡である。紗奈の生霊の件もそうだが、そのなにかを掴める手がかりかもしれない。


 噛まれた箇所が黒くなっており、そこを震源として周囲に広がっている。今までに生きていて一度も見たことがない。人為的とも言えるだろうが、それをやるにしてもやり方さえも分からない。

「呪いに使った代償やろか」

 隣りにいた紫苑からそう話しかけられる。


「呪い?」

「守護霊もいいひんのも、それが原因やないやろか」

「だから、あれだけ強かったってこと?」


「そうやで」

「妖怪の仕業って言いたいの?」

「はて。そこまでは言わんけどな」

 口元を隠してクスクスと笑う。そこまでの悪さをする妖怪を知っているのか知らないのか、計れない様子を見せていた。相変わらずの(たぶら)かし方である。


 少し前に十崎があの家から出たので、そろそろかと思っていた数十分後に紗奈が現れた。かれこれ一時間くらい待っていた。


 徒歩かバイクか。相手がどこまで移動するか分からない以上、車を使って出た場合に対応できるよう、バイクという選択をとっていた。近くの駐車場を借りることになるので、仕方なく早優の側で停車させている。


 アパートの真向かいにある駐車場、手前に停められている車の奥に入っていく。車の頭が見えたため、遠出をするのだろう。


 ヘルメットをかぶってバイクに跨る。尾行を開始した。


     ・ ・ ・


 車で行くこと数十分のところ。住宅に囲まれた月極駐車場に車が入っていったので、とりあえず紫苑にその友人の尾行を頼んだ。


 管理会社に電話してバイクを停める。急いで開けた道に行き、周囲を確認する。やはり間に合わなかった。どこに入っていったかわからない。しばらく紫苑を待つことにした。


 数分経ったところで、紫苑が向かい側からやってくる。

「時計屋に入っとったよ。案内したるさかい、こっちついてきい」

 紫苑についていき、目的の時計屋にたどり着いた。外観は白塗りの二階建て。入り口付近は大きな透明なガラスで中の様子が見えている。


 至って普通の店だ。あてが外れたのだろうか。

 凛子が友人宅に突入し、二股をかけていたことが判明した。あの様子からしたら、友人は元々彼氏を取ったことを見せつけたかったのだろう。


 本来であるならば、そこで恨みが″発散したかのように感じなくもないが″ぶち壊しにしてやる″という言葉が、なにかの引き金になっていないだろうかと期待して張り込みをしていた。あれだけ恨む力が友人にあるというのは考えにくい。


 で、あるならば、他の人間が手を貸したのではないか、というのが紫苑と早優の出した結論だった。


 数十分経って、時計屋から友人が出てきた。噛まれた後は一つ増えている。推測が当たっていたことに安堵するが、この場所になにがあるというのだろうか。


 時計屋の自動ドアの前に立つ。中に入った。

「いらっしゃいませ」

 活き活きとした声が響き渡る。

 白色の壁にはズラッと掛け時計が飾られて、その下のショーケースには腕時計がずらりと並んでいた。値段を見ると、十万円以上のものばかりだ。


 視線をずっと感じる。辺りを見渡すと、すっきりとした飾り気のないカウンターに座っていた男に凝視されていた。こちらを見ているのは間違いないが、目が合っている気がしない。やがて席を立って、のれんの向こう側へと消えていく。


「あやつ、うちを見とったなぁ。なんやろか」

 紫苑の顔を見る。かなり強い能力者ということなのだろうか。


 噛み跡をつけたような妖怪は、辺りにはいない。どこにいるのかも分からない。ショーケースに意識を戻す。五百万の時計まで見つかった。


 時計で五百万。それだけの大金やローンを組むのなら、別のもので組みたいと思ってしまった。壁時計はどうだろうか。自分の部屋に飾れるものはないだろうか。


 これなんか合いそうだ。木製の白塗りの鳩時計。シンプルで良い。五千円とそこまで高くない。視界の隅で存在を感じたのでそちらに視線を戻すと、のれんから出てきた男がカウンターで腰をかける。


 こちらには見向きもしない。この人物の背後霊も守護霊もまた、誰もいない。結界が張られている様子はなかったので、ただ単純に誰もいないのだろう。


「うちは下がっとくな」

 紫苑は、黒い靄となって早優に同化した。姿が見えているのであれば、声も聞こえているはず。だが、じっくりと観察する必要もなく、カウンターの中にあるパソコンのモニターに視線を移して仕事をしているだけで、こちらになにも反応がない。


 これ以上の収穫もない。さらに踏み込んでもいいだろうが、上手く聞ける内容も思いつかない。とりあえず、この店を後にした。

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