8話. 成長
とにかく早く帰りたい。こんな地獄の森から。
陸は頼まれた買い物を済ませ、帰路の森を駆けていた。
帰路では陸はただただ帰りたい衝動に駆られ、出てくる魔物には魔法をぶつけひるませ、走って無視した。
行き道では魔物しか気にならなかったからわからなかったが、なかなか道も足場が悪く、突っ走るには少々神経を使う。
凸凹すぎて、馬車は通れそうにない。
これもエムリーさんが考えてここを走るように指示したのだろうか。
明らかに他の魔物よりも体力の有りそうな大きなオークが現れた。
「風刃!」
いつも通り風刃を放ったが、オークはひるまなかった。
「お前タフだな、どいてくれよ」
「ガァァァァ!!」
オークは手に持っている棍棒を陸に向かって振り下ろした。
陸は躱したが、棍棒が地面とぶつかった途端、大きな衝撃が地面を揺らした。
「おー、まじか。行きのオオカミより強いんじゃね」
陸は態勢を立て直し、オークへ向けて腕を構える。
普通の魔法じゃ、このオークには効かない。
だがこのオークは、パワーとスタミナはありそうだが、動きが遅い。
走りながら、オークとの距離を縮めていく。
「螺旋風!!」
今度は蒼炎なしの、螺旋風本来の火力。
オークの目の前で放った螺旋風は、陸の手元を中心に荒い風を巻き起こし、オークの体を切り刻む。
「ガアアアアア!!」
「っ!? しまった!」
オークが抵抗し、棍棒と腕を振り回した。
近距離で螺旋風を放ったため、避けきれない。
「ぐぁっ!」
とっさにカバーした左腕にモロに食らってしまった。
棍棒についている棘が陸の腕に突き刺さる。
左腕に激痛が走る。
痛い、めちゃくちゃ痛い。
この世界に来てから味わった痛みの中で、ダントツで痛い。
オークは切り刻まれた体で、痛みに耐えながら再び棍棒を高く掲げて構える。
怯んでばかりじゃ、負ける。
「負けてたまるかよ!!」
もう一度陸はオークに向かって右手で拳を作り、構える。
「螺旋風!!!」
「ルァァァァァ!!!」
先程とは違い、風を右手に纏わせ、拳を思いっきり振りかざした。
それと同時に、オークが振り下ろした棍棒を弾き飛ばし、攻撃を防ぐことにも成功した。
「オラァ!!」
オークの顔面に強く固めた拳をぶつけた。
オークは耐えきれず、その巨体は地面に倒れ込んだ。
オークは動かなくなった。
と同時に、徐々に紫色の煙を出しながら消えていった。
オークが倒れていた場所には、儀式で教えてもらったあの魔晶石が落ちていた。
「魔晶石だ......! 儀式以外でも使い道はあるのかな。エムリーさんに見せよう」
今度こそ、落ち着いて村へ帰ろう。
疲労困憊で腕は上がらず、足も走る気力が残っていない。
「ゴァァァァァァ!!!!」
「嘘、だろ......?」
村までもう少しのところで、再び魔物が現れる。
行き道で吹っ飛ばしたようなボスを持つ群れ。
「ふざけんじゃねぇよ」
陸にはもう、動く気力はない。
ならば
「高火力な技で、邪魔なこいつらを、ぶっ飛ばす!」
深い傷を負っている左手は使わず、もうほとんど上がらない右手を必死に上げて、構える。
『殺せ』
得体の知れない声と同時に、また脳裏に蒼炎がよぎる。
もう何も考えてられない。
「どけ......蒼炎・螺旋風っ!!」
魔物の群れは、蒼炎の嵐を前に、為すすべ無く燃やし尽くされた。
生きる者への憎悪さえ感じるこの無慈悲な蒼炎に、陸は悲しさを憶えた。
「いってぇ......」
陸の右手は、荒れ狂う自分の魔法に耐えきれず、傷だらけになっている。
あの時聞こえた声は、何だったのだろう。
もう何も、考える気力すら残っていなかった。
「帰、らなきゃ......」
エムリーさん、皆......
後ろから、魔物が来る音がする。
もうダメか、と陸は倒れた。