7話. 地獄の道
陸は元気よく町へ向かって駆け出した。
体力に自身はあるため、快調に足を進めた。
森の中からは、動物か魔物かの鳴き声がよく響いている。
目標は、できるだけ魔物に出会わないように早く町へ到着し、買い物を終わらせできるだけ早く帰る。ただそれだけ。
「グオアアアアアアアア!!!」
「え〜おわった〜」
早速オオカミのような見た目をした魔物が現れた。
発達した爪、鋭く尖った牙、灰色の体毛、赤い眼光。図体は少し陸より小さい。
「出たなら仕方ない! もう戦うしか無いな!」
陸はエムリーに言われた通り、魔法をイメージした。
風が吹き荒れるイメージ......できた!
「......風刃!!」
風の刃が飛び出し、魔物の皮膚を裂いた。
はずだったが、実際は少し皮膚が切れただけで、ダメージはほとんどなさそうだ。
「グアアアアア!!」
魔物が足を高く上げ、陸の顔めがけて爪を振りかざした
間一髪で反応し、攻撃を避けたが、魔物の爪が頬を掠った。頬が少し切れた。
「強い......うん! 逃げよう!」
陸は魔物に背を向け、一目散に逃げ出した。
物語の主人公とは思えない行動である。
「? ガァァァァァ!」
魔物は背を向けて逃げる陸を見、餌にするため、早い足で追いかけた。
あっという間に陸のすぐ後ろに追いついた。
「!? 早いっ!?」
また魔物の爪が陸の背中へ伸びる。
間一髪で避けながら、陸は考えた。このままでは逃げ切れない。
陸は思い出した。自分はこの世界で強くなると決意したことを。
陸は魔物の方へもう一度立ち向かい、構えた。
「風刃!」
今度はさっきより力を込めて放った。
魔物の顔に当たり、傷を負わせることに成功した。
「グ、ガアアアアアア」
魔物にやっとダメージが入った。
「やればできるじゃん、俺!」
最初からやればよかったのに。
「このペースで切り刻む!」
風の刃で魔物に傷をつけていく。
魔物は勝てないと踏んだのか、森の奥へ逃げていった。
「か、勝った......!!」
陸はこの世界で初めて勝利することが出来た。
鼓動が高鳴って止まらない。戦闘での緊張と、勝利したことへの高揚で、鼓動が高鳴っている。
こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
「よし、町に向かうぞ」
息を整え、再び町へと向かって走り出した。
それからは、たまに魔物と遭遇したりもしたが、自身がついたのか順調に攻略していった。
町まであともう少し、息も上がってきて、体も傷がたくさんついて、体力はほぼ限界に近かった。
その時、陸の後ろからたくさんの足音が聞こえた。
「今度は何だよ.......は!?」
一番初めに戦ったオオカミの魔物が群れを引き連れて復讐しに来ていた。
「また傷だらけになりに来たのか!」
群れの数はおよそ10頭ほど。
群れの先頭にはボスらしき、一際図体がデカく、風格のある魔物が走っている。
陸は振り返り、群れと対峙した。
数の多さに一瞬ひるんだが、負けじと風刃を繰り出した。
ところが風刃はボスには効かなかったようだ。
「ガアアアアアアアアアアアア!!!!」
ボスの圧により、陸は少し吹き飛ばされた。
ボスにだけ異様なオーラが漂う。
「こんなやつを倒せとか、無理だろ」
陸は諦めかけたが、立ち向かった。
陸はまたイメージした。火力の高い技を。
魔物が群れ全体で飛びかかってくる。
「来たァッ!!!」
強力な技のイメージが出来た。
「螺旋風............っ!?」
蒼炎が、脳裏によぎった。
構えた手を中心に、強靭な風が巻き起こった。
そこに蒼炎が混じり、炎が吹き荒れ、火力が底上げされた。
目の前にいた魔物たちは吹き飛ばされていった。
「ハァ、ハァ.......え?」
陸は暫く、何が起こったのか理解できなかった。
一瞬、ここに蒼炎を混ぜたらどうなるのか、気になってしまった。
「掴んだ......これが俺の、戦い方......」
風の魔法拡散作用。これを使って、少量の炎の火力を底上げする。
そうすれば、寿命を急激に減少させることなく、高火力の技を打てる。
「進もう」
森を出ると、開けた草原が見えた。町へ道が伸びており、草原には人がポツポツといる。
道の先には、城下町。そしてその町の後ろには砦がそびえ立ち、王城が構えている。
町へ到着し、店を探した。
村よりも発展しており。馬車が走っていたり、学生服のような服を着ている子どもも歩いている。
店を見つけ、入った。
店員は陸の見た目を見て驚いた。
汗だくで、体は傷ついていて、妙に目がキマっている顔。
驚かないわけがない。
「これください」
「あ、は、はい。あの、お客様、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですけど?」
「は、はぁ。20ゴールドになります......」
陸は店員から商品を受け取り、店を出た。
買い物は終わった。帰ろう。
町を出て、草原へ出た。
「よし、待ってろ地獄道。魔物ボコボコにして帰るぞ」
陸はまた、森の中へ飛び込んでいった。