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1話. 異界

 「暑い...」


 草原に燃え盛る炎は刻々と燃え広がっていく。

走った疲労で動く気力もなく、寝転がっていた。

草原の奥の方で爆発音も聞こえる。目を凝らすと、誰か数人が戦っているようにも見える。


 「逃げなきゃ......っ!?」


動けない。足には蠢くツタが絡まっている。

周りをよく見渡すと、周りの草も蠢いているのが見える。


 「くそっ! くそっ! 早く千切れろよ!!」

いくら足を動かしてもツタは頑丈で千切れそうにない。

それどころか腕や胴体にまでツタを伸ばしてくる。


 このままだと死ぬ、そう思った時、特に大きな爆発音とともに突如ツタが動かなくなった。

それと同時に爆発音も聞こえなくなった。

足を思いっきり動かすとツタは簡単に千切れた。


 「なんだよもう、どういうことなんだ......?」


 全力で走ったあとで激しく動いたあとだからなのか、疲れてほとんど体が動きそうにない。

煙でロクに息もできない。

ツタが動かなくなっても煙のせいで歩くことさえ疲れる。

熱で体中が焼けるようだ。

 暑い、動け、ここから離れるんだ。

肺が苦しい。ツタに締め付けられて体が痛い。今にも焼けそうなくらいに熱される体。


 もう、諦めるか?


ダメに決まってるだろ!俺の悪い癖だ、この諦め癖は。

この諦め癖のせいで何もできなかった。何も成せなかった。


 勉強も大してできず、今も続けている剣道では、親友の勇輝とは差がどんどん開いていき、学校の部活では陸上部に入ったが、大会でも結果を残すことはできなかった。

わかってる、中途半端に何も続かないのは、ただぐうたらなだけだって。熱心にならないからだって。自分がただ甘えてるだけなんだって。


 この炎のせいで、諦めたくなっている。こんなにしんどいなら、頑張らなくてもいいなんて思ってる。

まだ勇輝を見つけられてない、まだ一度も勇輝を越せてない。全国レベルの人間に追いつこうなんて夢のまた夢だってわかってるけど、それでもいつか越せるんじゃないかって思ってる。

 勝ちたい。勇輝に、若月薫に、そしてこの大っ嫌いな俺自信に。


こんなところで、絶対死にたくない!勝つまで!

諦めるな、この場から離れるんだ。


 逃げ場を探すため、改めて周りを見渡すことにした。

前方には山が見える。そして草原に燃え広がる炎。

後ろにはさっき出てきた森。そして右手遠くには、


 「村...?」


村だ、人がいるかもしれない。

ここは日本ではないだろう。ひとまず生き伸びるんだ、ここで。そして帰る方法を探すんだ。


 ひとまずこっち側の草原は燃えてないみたいだ。村に向かおう。

 ほとんど足を引きずるようにして歩いた。ここはどこなんだろう。

ネットでよく見る異世界なんとかってやつか?ファンタジー本でよく見る不思議な現象も起きてたし。

だとしたら早く元の世界に帰らないと。勇輝も見つけられてないし。


 村に近づいてきた。よく見ると柵が立ててあり、門には門番のような人がいる。


 「誰だ貴様は」


門番から槍を向けられる。


 「怪しいものじゃないんです!道を訪ねたくて」


 「どう考えても怪しいだろう。そんなぼろぼろな見た目で」


たしかによく見ると、俺の体はすすだらけで、服も傷だらけだった。


 「顔を見るに、東洋人か?」


 「東洋人?俺日本から来ましたけど」


 「ニホン?聞いたこともないな。まさか転移者か?」


 「転移者?」


 「転移者は、この国の王妃の天性の魔法によって呼び出された異界の者たちへの呼び名だ」


 「詳しく教えていただけませんか?」


 「...まぁいい、それくらいは教えてやろう」


 それから門番に転移について教えてもらった。


 王妃が魔法を発動すると、ある条件を満たした人間は転移させられ、王妃の願った目的を達成すれば元の世界に帰れるらしい。

 転移者は一般人よりも高い潜在能力を持つが、この世界で死ぬとこの世界での記憶を全て無くし、大きな傷を持って元の世界に戻るのだという。大きな傷は、人によって内容が違うらしい。具体的なことは聞きたくなくて聞いていない。


 「ということだ。俺達此方側の人間はお前たち転移者を王国に引き渡すのがルールとなっている。城下町まで来てもらおうか」


 「待ってくれ」


声がした方を見ると、体格の良い風格のある男性がいた。


 「村長!?」


え、村長?なんで?


 「王国に引き渡された転移者がどんな扱いを受けるのかは知っているだろう?」


 「しかし村長、引き渡していないことが王国にバレれば、村の者にどんな処分が下されるのかわかっているのですか!」


 「私の責任にすれば、村の責任にはならない。そして、この者からは熱い何かを感じる」


 「なんですかその理由は。そんな理由で村長に危険が及ぶのは納得できません」


 「この者からは情熱を感じるんだ、この目がそう答えている」


村長は、俺の目を見てそう答えた。


 「俺はそういう人間が好きなんだ。大丈夫、王国にはバレないようにするよ」


 「そう...ですか。村長がそこまで言うのなら、仕方ない。俺も秘密は隠し通します」


 「ありがとう。見るにこの者、恐らく"炎"だろう」


 「"炎"?」


 「炎魔法が使えるってことだよ。こういう事がわかるのは、相手の強さがわかる(スキル)を手に入れたからだ。なるほど転移者は普通の者より能力が高いというのも納得だ。ちょうどいい、身を(かくま)う代わりに、修行にでも付き合ってもらうとするか」


 「修行って...俺を鍛えてくれるんですか!?」


 「ん?ああ、まぁ、そんなつもりではなかったが、お前強くなりたいのか?」


 「俺は倒したいやつがいるんです。元の世界で」


 「この世界で手に入れた力は元の世界に戻ると失うことになるんだぞ?」


そうなのか、いや、それでもいい。


 「良いんです、俺はこの世界で経験を積みたい」


 「ふん、いいな!ますます気に入った!!さぁ、お前の名を教えてくれないか」


 「和泉陸(いずみりく)、です」


 「イズミリク、か。変わった名前だな。オレの名前はエムリー・バーンだ。呼び方は何でも良い」


 「エムリーさん...。よろしくお願いします」


 「ああ、リク、よろしく頼む。ふむ、その見た目、さてはあの草原での戦闘に巻き込まれたか。一旦俺の家でゆっくり休むと良い」


そう言って村の奥の方へ俺を引き連れていった。

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