9話. 拳士
気がついたら、見慣れた天井があった。
「ここは、エムリーさんの家……?」
ボスみたいなオークを倒して、その後倒れたはず……
(エムリーさんが見つけてくれたのか?)
「お、目を覚ましたかリク」
「エムリーさん!なんで俺はここに?」
「言っただろう。お前の安否を図る術はあると。お前が倒れたことくらい俺の目でわかる」
(すごい……どうやって見つけたんだろう)
「本当に、ありがとうございます」
「良いんだ。無理矢理こんな厳しい修行をさせた俺にも非がある、すまない」
「いいんです。俺はあの道を通って成長出来ました」
風刃、螺旋風、それから蒼炎の使い方……
色んなことが実践を通してわかった。
「うむ。そのようだな。今から見せてくれないか?裏庭で」
「もちろんです!」
「だがまぁ、そんなボロボロのままじゃしんどいだろう。治癒士を呼ぼう。ちょっとまっててくれ」
そう言ってエムリーさんは外へ行った。
(治癒士……? 回復させてくれる人かな?)
程なくして、エムリーさんは一人の女性を連れて部屋へ戻ってきた。
治癒師という役職が似合いそうな温和な表情の女性だった。
「あなたが噂の"蒼炎"ね。私の名前は、ベル。この町でしばらく生きてきたけど、戒めの炎は治癒したことがないから、確実に治るとは言い切れないわ」
「いえ、ぜんぜん大丈夫です。ありがとうございます」
ベルは早速陸の治療に取り掛かった。
普通の人間にも治癒できるらしいが、炎魔法を使える者に対してはより効果のある治療ができるらしい。
ベルは陸の治療を進めていくうちに、どんどん顔をしかめていった。
陸の体の傷自体は順調に回復していっている。
腕に負った火傷痕を除いて。
「蒼炎はやっぱり、呪いなのね。あなたが敵から受けた傷の治癒は完了したわ。ただ、蒼炎を使って負った傷に関しては私には治せない。蒼炎を使うことは自傷行為、多用することは禁止。これだけは肝に銘じておいて」
「はい......わかりました」
最後、オークに対してつい魔力を込めすぎてしまったからか、腕には火傷痕が残っている。
強い代わりに代償も大きい。寿命も縮まる。
蒼炎は危険な魔法なんだ。
「ベル、治癒は完了したか? 戦いたくてたまらないんだ」
「疲弊してるリクを戦わせるのはどうかと思いますよ? 村長」
「いいんです、ベルさん。俺もエムリーさんに技を見せたい」
ベルは不満そうな顔をしていたが、渋々了承した。
村長は嬉しそうにリクを裏庭に連れて行った。
裏庭のステージに二人は上がり、構えた。
「よし、今のお前の技を見せてくれ!」
「はい! 行きます!」
陸はまず、風刃を放った。
村長は炎で迎え撃つ。
「ぬるいぬるい! もっと本気で来い!」
「風刃!」
陸は村長の周りをぐるぐる回りながら、風刃を連発した。
当然のように炎が風をかき消す。
「まだまだ......!?」
巻き上がった煙に混じって陸が村長の懐に飛び込む。
(エムリーさんは拳士とは言ってなかった! ここは俺の領域!)
剣道で培った、相手との間合いの測り方。
距離をぐんと縮め、村長の腹に向かって手のひらを突き出す。
「螺旋風!!」
掌底と螺旋風を村長の腹に同時にぶつける。
「うおっ! やるな!」
村長は嬉しそうに拳を高く構えた。
「えっ......」
「そんなぬるい攻撃なら、耐えられるんだよ」
陸はすぐに手を離し、守りの姿勢に入る。
「火炎・重圧拳!」
構えた村長の拳炎を纏ってが振り下ろされる。
陸は間一髪でもろに喰らわないように避けられた。
「ぐっ......いってぇ」
「よく急所を避けたな。だが次で終わりだ」
村長は深く腰を下ろして構え、拳を握りしめた。
(このままだと何も出来ずに終わる。そうだ!)
陸は先程の村長の構えを真似て、拳を高く掲げた。
足を素早く動かし、距離を詰める。
動く時の速さと遠心力を使って、拳を振り下ろす。
「 迅 風 拳 !!!!」
「なっ........!?」
拳に激しく荒い風が吹き荒れ、纏わりつき、村長の顔に直撃する。
手応えはたしかにあった。
だが村長は一切ひるまなかった。
「いい"拳"だ」
村長が構えた拳に熱い炎が纏わりつく。
「終わりだ」
陸はその瞬間、意識を失った。