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友、杉田勇輝は高校2年の冬にこう言った。「俺には才能がないんだ」と。
そんなわけない、と反論するが、勇輝は聞かなかった。
実際、勇輝は剣道の高校全国大会で準優勝経験があり、大した結果のない俺からすれば、勇輝は天才のように見えた。
だが勇輝は自分に才能がないと卑下していた。
2年間勝てなかったのだ、1歳下の神童、若月薫に。
薫は誰がどう見ても天才だった。
高校から剣道を始めたらしいが、瞬く間に全国に名が知れ渡った。
当時2年生で、大会でも良い成績を残し、全国でも有名だった勇輝は、ある日県大会で薫と対戦した。
結果は薫の圧勝だった。
全国出場常連の勇輝が突如敗退した。メディアでも様々報じられた。
それから2年間、勇輝は一度も全国大会に進むことはなかった。
ぽっと出の初心者に完全に心を折られ、世間からも忘れられ、そして剣道一家の杉田家では勇輝の居場所はなくなっていた。
でも、俺は勇輝に憧れていた。勇輝の努力を一番間近で見てきたからだ。
勇輝がどんな思いで日々稽古をしていたかを知っているからだ。
勇輝は高校卒業直前、行方不明になった。警察に捜索願を出したが、卒業式の前日になっても見つかることはなかった。
俺はいくつか心当たりのある場所を空いた時間で探していた。卒業式前日の朝、心当たりのある最後の場所に来た。
小さい頃地元の怖いおばさんに、「この森の中に入れば、たちまち魔界に連れて行かれるよ」って言われたっけ。肝試しに勇輝と来たけど無理やり帰らされたな。
こんな記憶、別に特別な記憶でもないのに。何故かふと鮮明に思い出し、気になって来てしまった。
「どこにいるんだよ、勇輝......!」
森の中を声を上げて探しても勇輝はこの世から消えたように見つからなかった。
森の中は、進めば進むほど日差しが下まで当たらなくなっていく。
今までどこを探しても見つからなかった。何も手がかりを得られなかった。
もうこのまま一生親友に会うことができないのかと思うと、悲しさで涙が溢れた。
ここまで自分が無力なのかと思い知らされた。
途方に暮れ、いざ家に帰ろうとしたその時、森の中に光る人影が見えた。
追いかけた。何故かその後姿は勇輝にしか見えなかった。
追いかけて、追いかけて、走った。途中から、俺はどこか光る道を走っていたような気がする。何も覚えていない。
◆ ◆ ◆ ◆
気づいたときには、どこかもわからない草原で仰向けに寝転がっていた。
(森の中に、草原なんかあったのか?)
「何だここ、暑い...」
横を見ると、燃え盛る炎が、少しづつ草原を蝕んでいた。
はじめまして山吹芋です。どうか温かい目で読んでいただけるとありがたいです!