潔癖
「私と君の日記……」
ジュリアン殿下に頷きます。
「はい。交換日記というものをしてみたく思いまして」
私の言葉にジュリアン殿下は顔を顰めました。
「私は君を愛することはない」
「はい、存じております」
私は微笑むと、付け加えました。
「でも、先ほどジュリアン殿下もおっしゃった通り、私たちは夫婦です。つまり、それなりには仲良くやっていく必要がありますね?」
まぁ、私はジュリアン殿下を溺愛するつもりですが。
「……そうだな」
ジュリアン殿下はあっさりと、私の言葉に頷きました。
あらまぁ。素直で本当に可愛らしい方ですね。
「……それで、交換日記というのは?」
具体的に何をするのか、ということですよね。
「簡単です。日記なので今日あった出来事を書くのもいいですし、時間がないときは好きな何かを書くだけでもいいです。そしてこの日記を一日ごとに交換するだけ」
「そんなことでいいのか?」
好感触の雰囲気に思わず笑顔になります。
「はい。この日記が相互理解の一助になればと思っております」
「……わかった」
ジュリアン殿下は頷くと、立ち上がりました。
「では、私はこれで失礼する。元より義姉上との様子が気になっただけだからな」
その手にはしっかり日記を持っています。
……良かった。
ジュリアン殿下が思った以上に素直な方で。
「はい。それではまた明日、日記が返ってくるのを楽しみにしておりますね」
私が微笑むと、ジュリアン殿下は横を向いて、鼻を鳴らしました。
けれど、その耳はわずかに赤いように見えました。
私は、笑い転げたくなるのを我慢して、ジュリアン殿下をお見送りします。
「ーーそれから」
「? はい」
ジュリアン殿下は、部屋を出る直前に思い出したように口を開きました。
「君のお披露目の夜会が三日後に決まった。詳細は、後で言付ける」
「かしこまりました。ジュリアン殿下との初めての夜会ですね。楽しみです」
アスノ殿下もいらっしゃるでしょうから、二人の普段の関係性も改めて目にできるでしょう。
「私に媚びてもーー」
「あら、ジュリアン殿下は許してくださったでしょう? 私があなたを愛することを」
私が微笑むと、ジュリアン殿下は黙りました。
「……失礼する」
若干ご機嫌ななめでありながらも、足音を立てずに、去っていく様はさすが王族ですね。
感心しつつ、私も自室に戻ります。
その後すぐに、ジュリアン殿下の侍従がやってきて、夜会の詳細を伝えてくれました。
しかし、ドレスやアクセサリーなどは、私が用意するそうです。
ジュリアン殿下からすれば、愛してもいない相手に贈れるわけがない! とのことらしいです。侍従が申し訳なさそうに言っていました。
一応、私のお披露目なのです。
それに、私が酷い格好をしたら、品が疑われるのはジュリアン殿下もでしょうに。
変なところで潔癖というか、融通が利かないというか。
まぁ、いいです。
この程度のことで泣きくらすような私ではありません。
侍従をひとまずジュリアン殿下の元へかえし、ミミリと共に衣装部屋へ向かいます。
「さて。どんなドレスにしましょうか」
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