予感
ーージュリアンを誤解しないであげて欲しい。
愛さない宣言に、何をどう誤解する要素があるのかさっぱりわかりませんが。
「……そうなのですね」
適当に話を合わせて頷きます。
「ええ、ええ! そうなのです。ジュリアンに悪気はないのですが、いつもエスコートなどが雑で……。ジュリアンは私の義弟でもありますから、心配だったのです」
義弟を強調するあたり、アスノ殿下のジュリアン殿下に対する単なる恋愛感情より厄介そうですね。
まぁ、私としては知ったことではありません。
「……どうか、ジュリアンのことをよろしくお願いいたします」
しおらしく礼をする、アスノ殿下。
義弟を気にする、できた王太子妃に見えないこともないのかもしれませんが。
あくまで、ジュリアン殿下は、アスノ殿下の義弟であり、実弟ではありません。
そんなジュリアン殿下を妻である私の前でわざわざ呼び捨てにするのは、意識的にせよ無意識的にせよ、親しい間柄を強調するためにしか感じ取れませんね。
本当に舐められたものです。
「もちろんです」
思っていることは少しも顔に出さずに、微笑みます。
偏見ですが、こういうタイプの方は、自分のものだと思っていた人が他のところに行くと、泣いて騒ぐタイプです。
つまり、わざわざ相手にせずとも、ジュリアン殿下にちょっとした復讐をする過程で、ぎゃふんと言わせる事ができます。
だったら、無駄な労力を割く必要はありませんね。
「……ありがとうございます! リーネ殿下」
アスノ殿下は、嬉しそうに瞳をキラキラと輝かせて私の手を握りました。
「私たち、きっと仲良くできると思うのです」
おおっと。
この国での立場は、アスノ殿下が上とはいえ。勝手に手を握り、仲良く……ですか。
「そうですね」
そんな面白そうな事、もちろん頷きましたとも。
私は性格が悪いので、その仲の良い女に、ジュリアン殿下が心を傾けたらどんな顔をするのか少し楽しみです。
「よかった。ジュリアンの奥方はどんな方か心配だったので……」
本当に心底安心したように、ほっと息を吐いたアスノ殿下は、小動物のように愛らしく庇護欲をそそります。
まぁ、私、小動物あんまり好きではありませんが。
「安心していただけたようでなりよりです」
私も安心いたしました。
ジュリアン殿下の懸想相手がアスノ殿下で。
ジュリアン殿下からすれば、兄の妃を奪うような愚かな真似はできず、今に至ったのでしょう。
そして、ジュリアン殿下の好意に気づいていそうなアスノ殿下は、妻たる私にわざわざジュリアン殿下をよろしく、とまでおっしゃる。
ええ、それはもう。
よろしくして差し上げます。
まぁ、性格が悪い私の目的は、ジュリアン殿下に泣いて愛を乞わせることですが。
それでも正式な夫がいながら、向けられる好意をただ享受するような方よりはいいと思うのです。
……なんて、私の考察が間違っており、ジュリアン殿下の恋しい相手が他にいれば、お馬鹿さんなのは私の方ですが。
おそらくそれはないでしょう。
そんなことを、目の前のアスノ殿下が許すはずがない。
そう、私の直感が告げています。
ふふ、と微笑みながら、紅茶に口をつけます。
香り高い紅茶でのどを潤しながら、楽しい予感に胸を躍らせました。
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