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今宵は

「……兄上と比べないのは、リーネが初めてだ。だから、嬉しかった。――ありがとう」

 そう言って微笑んだジュリアン殿下に私は……。

「私も嬉しいです。初めて私の名前を呼んでくださったから」

 ジュリアン殿下の琥珀の瞳が見開かれました。

「私は……。いや、そうだな」

 一度首を振ると、ジュリアン殿下は私の左手を取りました。

 その手の薬指には、私たちが夫婦である証――結婚指輪がはめられています。


「すまない」

「いえ。でも、これからはもっと呼んでくださるとうれしいです」

 この国は、私の祖国ではありません。

 私を呼び捨てにする権利を持つのは、夫たるジュリアン殿下だけなのです。

 私の薬指を撫でると、ジュリアン殿下は頷きました。

「約束する」

 真摯な琥珀の瞳に嬉しくなります。

 思わず、笑みがこぼれました。


「――……」

「? ジュリアン殿下?」

 ジュリアン殿下が、私の耳に触れました。

 耳には、ジュリアン殿下のカフリンクスとおそろいの緑琥珀のイヤリングをつけています。


「似合ってる」

 短いその言葉。

「……先ほど言うのを忘れた」

 ばつが悪そうに少し早口で付け加え、横を向いた顔は、まるで子供みたいでした。


「……っふ」

 その表情がおかしくて、なんだか胸がふわふわとして――笑ってしまいました。

「もう言わない」

 拗ねたような言葉に、また笑いたくなるのを我慢して琥珀色の瞳を見つめます。

「そんなこと言わないでください。ジュリアン殿下も、とても素敵です」

 琥珀色の瞳が嬉しそうに細められた後、すぐに思い直したように、元の大きさに戻ります。


「……別に」

 どうでもよさそうな言葉のわりには、耳が赤くて。

 あまり説得力がありません。


 本当に、可愛らしい人。


 ――と、移動が終わってしまいました。

 貴族たちにぐるっと取り囲まれます。

 ここからは、特に面白くもない腹の探り合いのお時間なので、割愛します。


「――リーネ」

 夜会がお開きになり、私の自室までジュリアン殿下が送ってくださいました。

「はい、ジュリアン殿下」


 ジュリアン殿下を見つめます。

 ジュリアン殿下は、何か言いたげに口をもごもごと動かしました。


 なので、ゆっくりとジュリアン殿下の心が落ち着くまで待ちます。


「おやすみ、リーネ。……良い夢を」


 きっと、言いたかったのは違うことだったのでしょう。

 でも、ジュリアン殿下に初めて言われた夜の挨拶だったので、追及はしませんでした。


「はい。おやすみなさいませ、ジュリアン殿下」

「……あぁ」


 後ろ姿を見送ります。

 白い結婚ではなく、本当の夫婦だったのなら、そもそもここで別れる必要はないのですが。


 ジュリアン殿下の愛はアスノ殿下に今のところは捧げておられるので仕方ないですね。


 まぁ、絶対に泣かせて愛を乞わせてやりますが。


 ……でも。

『おやすみ、リーネ』

 とっても嬉しかったので、今宵は一旦復讐は忘れて、その言葉を抱きしめて眠るとしましょう。


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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