初めて
これは、まぎれもない本心でした。
ジュリアン殿下がいちいち愛さないと言ってくるのはむかつきます。
でも、……それでも。
交換日記をびっしりと埋めてくれるところ、私がついてると言ってくれたときの自信ありげな表情、丁寧なエスコート……。
この数日間で私が知ったことはたったそれだけ。
それだけのことで、私にとっては十分でした。
戸惑っているジュリアン殿下から、視線を王太子夫妻に移しました。
「そんなとても素敵なジュリアン殿下をお支え出来る立場にあること、大変うれしく思います」
誰よりも、何よりも――美しく見えるように微笑みます。
私は、ジュリアン殿下の妻です。
いずれは泣かせて、愛を乞わせてやりますが。
それでも、妻なのです。
「……リーネ殿下は、ジュリアンを愛しておられるのですね」
アスノ殿下は、呆然とそう言われました。
「はい」
自信満々に頷きます。
だって、愛する許可は、ジュリアン殿下からいただきましたし。
「はは、ジュリアンは幸せ者ですね」
メイナード殿下は微笑みつつ、アスノ殿下の腰に手を添えました。
「あなたのジュリアンへの気持ち、兄として嬉しく思います。……妃が少々疲れてしまったようなので、こちらで私たちは失礼します」
アスノ殿下をエスコートして、メイナード殿下が去っていきます。
メイナード殿下たちを視線で見送っていると、ジュリアン殿下に手を引かれました。
「……君は」
「はい」
なぜだかジュリアン殿下の琥珀色の瞳は、揺れていました。
てっきり、想い人の前で愛していると頷いたことに怒っていると思ったのですが。
「兄上を見ても、何も思わないのか?」
「何も……とは?」
確かにダンス中、ジュリアン殿下を見る瞳は厳しいものでしたし、アスノ殿下とジュリアン殿下の歓談中もい殺さんばかりでしたが。
そのことに気づいてなさそうでしたよね、ジュリアン殿下。
「胸のときめきをおぼえたり」
「私、心臓は強いほうです」
「一瞬で目が離せなくなったり」
「自由自在に動きますが。動かしてみせましょうか」
「どうしようもなく、抱き着きたくなったり」
「それは変質者では」
ジュリアン殿下の問いかけに応えていくと、ジュリアン殿下は、はぁ、とため息をつきました。
「君のような女性は初めてだ」
「……そうですか」
なんだか、そのニュアンスあまり嬉しくないですね。
「ジュリアン殿下は、私に、ときめいて目が離せなくて抱き着きたくなって欲しいのですか?」
「それは――」
ジュリアン殿下は、首を振りました。
「わからない」
は?
「わからない、とは?」
「今までに一度もないことだから。どうしていいのか、わからないんだ」
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