一番の視線
「……別に。クロードに言われただけだ」
クロードとは、ジュリアン殿下の侍従です。
私がジュリアン殿下に贈ったのは、緑琥珀のカフリンクス。
私の手持ちの宝石をミミリに頼んで加工してもらいました。さすがは万能侍女ですね。
「それでも嬉しいです。初めてのお揃いですもの」
実は少しだけ憧れがあったのですよね。
お揃いのものをパートナーと身につけるの。
だから、本当に嬉しいです。
「!」
ジュリアン殿下は私を見ると、なぜか驚いた顔をしてーー、それからまた横を向きました。
でも、その耳はかすかに赤くみえます。
「ジュリアン殿下?」
意外と照れ屋さんなのでしょうか。
「……いや。いくぞ」
そう言って腕を差し出されます。
そっと差し出された腕に手を添えながら、私は深呼吸しました。
ここから先は、戦場です。
気合を入れなければ。
「なんだ、緊張しているのか」
ジュリアン殿下は意外そうですが、それはそうです。
「はい。私が初めてこの国で出席する夜会ですから」
舐められると後に響きます。
やられたらやり返しますが、やられないにこしたことはありません。
「意外と可愛いところもあるんだな」
……淑女に意外と可愛いとはどういうことでしょうか。
むっ、とした私は言い返そうとしてーー。
「安心しろ。私がそばにいる」
自信高々にジュリアン殿下は微笑みました。
「……まぁ、君のことは愛さないが」
そのいちいち付け加えられる愛さないは、鳴き声かなにかですか?
尋ねたい気持ちをぐっと抑えて、微笑み返しました。
「それはありがとうございます」
心の中で、ジュリアン殿下をいつか絶対泣かすと心に誓いながら。
◇◇◇
さぁ、王家主催の夜会がはじまりました。
国王夫妻から、名前を呼ばれ、2人で大広間の中央へ行きます。
簡単な自己紹介タイムですね。
「先日、私はマロト国より妻を迎えました。今後は、こちらの彼女……リーネと共に国王陛下をお支えいたします」
「ジュリアン殿下よりご紹介いただきました、リーネと申します」
皆さんの視線が、私たちにざくざくと突き刺さります。その中には好意的ものもあれば、そうではないものあります。
好意的ではない一番の視線を辿ると、なんとその先にいたのは、王太子殿下でした。
てっきり場所的にアスノ殿下かと思っていましたが。
……なかなか面白いことになっていそうですね。
軽い自己紹介タイムの後は、ファーストダンスをジュリアン殿下と踊ればあとは、挨拶に来る貴族たちとお腹の探り合いをすれば終了です。
ジュリアン殿下に差し出された手を取ると、楽団による音楽が流れ始めます。
さぁ、アスノ殿下曰く、『雑』なジュリアン殿下のエスコートの始まりです。
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